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192/215

192、天界 〜死神との契約?

 久しぶりの転生塔だ。


 俺はフロア長アドル・フラットに連れられて、昇降機という名のエレベーターで、10階へと上がっていく。俺が所属するお客様相談室のフロアだ。


「アウン・コークンさん、いろいろと大変でしたねぇ」


「あぁ、はぁ。あの、俺が呼び出された理由が、俺の領地の件だということでしたが……何か問題がありましたか」


「ええ、ちょっとね。私からではなく、管理者からお話がありますよ」


「管理者? リーナさんですか」


「応接室でお待ちですよ」


 エレベーターが到着したためか、フロア長は何かをごまかしたように思える。フロア長が、先にどうぞと身振りで指示をした。俺は軽く会釈して、10階フロア事務所へと入っていく。


 フロア長が俺に道を譲るようなまねをするのは、俺がブロンズ星の大魔王になったからだろうか。


 天界にいると、まだまだ新人転生師だという感覚が強く、こういう扱いは、何だか逆に嫌な気分になる。



 事務所を奥へと進んでいくと、これまで俺に視線を向けたこともなかった奴らが、次々と会釈しやがる。


 こういう手のひらを返したような反応は、俺は嫌いだ。俺は新人転生師だし、このフロアでもおそらく俺が一番の新人だ。


 だが経理塔で、ちょっと派手なことをしたからな。天界人のこの反応は、当然のものか。俺が勝手にイラついているだけだが……。




 応接室の扉の前に、小さな影が見えた。


(は? なぜ、いる?)


 俺は無意識に、ドキッとした自分の感情を隠そうとしたらしい。不機嫌そうに表情を歪めたようだ。さっきまでイラついていたから、相乗効果で、さらに酷い顔をしる自覚はある。



「アウン・コークン、そんなにも地下牢が辛かったのか?」


(コイツ……)


「そんなんじゃねぇよ。おまえ、忙しいんじゃねぇのか? こんなとこで、何をしてるんだよ」


 俺が反論したためか、彼女は……幼女アバターを身につけたアイリス・トーリは、口をへの字に結んだ。


「おまえ、ここでは、新人転生師だということを忘れるなよ、スカタン!」


「はいはい、すみませんね、セ・ン・パ・イ」


「は? 私はもう、おまえの先輩ではないぞ」


(なんだと?)


 あぁ、そうか。コイツは冥界神になったから、天界人ではなくなったのか。



 アイリス・トーリが、応接室の扉を開けた。


(うげっ)


 中には、魔王セバスがいた。そして、転生塔の管理者リーナさんの姿はない。魔王セバスがいるから、アイリス・トーリは扉の外にいたのか。


「アウン・コークンさん、中へどうぞ。アイさんも入られますか?」


「いや、私はここにいる」


(は? ドアボーイ、いや、ドアガールかよ)


 彼女は、扉横の壁にもたれて窓の外を眺めている。何のためにここにいるのか、意味不明な行動だな。




「お待たせしましたね。先程の件については、彼に直接、お話ください。私は、置き物になってますので」


 応接室の扉が閉められると、フロア長は扉近くの椅子に座った。俺は仕方なく、勧められた席に座る。



「キミが、大魔王になるとは思わなかったよ。まぁ、楽にしてくれ。俺は、ここでは、アーノンと呼ばれている」


(アから始まる名前か)


 だが、魔王セバスの名前は、アーノンではなかったはずだ。えーっと……思い出せないな。


「アーノンさん、ですか。俺に何のご用ですか」


「ふっ、せっかちな奴だな。魔王の権限さえないくせに」


(は? 新人だと言っているのか?)


 俺は、やはりコイツは嫌いだ。これまでにブロンズ星で何度か会ったが、威圧的な態度も理不尽なやり方も、俺が大嫌いなあの社長に似ているからか。


 前世にいつまでもこだわるつもりはないが、ブタ顔のニヤニヤするあの強欲社長のせいで、俺はあの日、死んだのだと思っている。



「ふっ、やはりキミは、芦田 薫か。キミの領地を見ていて、そうじゃないかと思っていた。死神は勝手に、シダ・ガオウルの音を探していたらしいからな」


(は? 何を言っている?)


 今の俺は、考えていることは覗かれないはずだ。魔王セバスの能力は知らないが、アイリス・トーリでさえ、冥界にいなければ、俺の思考は覗けない。


「アーノンさん、おっしゃる意味がわかりませんが?」


「じゃあ、阿野がしゃべれば、意味がわかるのかね?」


 魔王セバスは、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。阿野? 阿野社長? まさか、あり得ない。ブタ顔の社長は死んでない。それに魔王セバスは、ここで長く魔王をしているはずだ。


「アーノンさんが、阿野社長だと言ってるんですか。あぁ、俺と初めて会った頃に記憶を抜き取ったのでしょうが、つまらない人物のフリをするんですね」


 俺が睨んだためか、魔王セバスは少し表情をこわばらせた。


「死神がね、うるさかったんだよ。トーリ・ガオウルの生まれ変わりを捜して、冥界の門を開けってね。仕方ないから、トーリ・ガオウルの響きを持つ者を狩りに行ったんだよ」


(コイツ、何を言ってるんだ?)


 さっき魔王セバスは、死神がシダ・ガオウルの音を探していたと言っていた。言い間違えか?



「お話が全く見えませんが?」


 そう返すと、魔王セバスはニヤニヤと笑みを浮かべた。


「へぇ、本当に効かないんだな。水竜リビノアと同期しているという噂は、事実か。どうしようかな」


 魔王セバスは、チラッとフロア長に視線を移した。だが、フロア長は、宣言どおり置き物になっている。



「冷たいな、俺の息子のアドルは」


(は? 息子?)


 魔王セバスに息子と言われて、フロア長は口を開く。


「勝手に息子にしないでいただきたい。種族が同じだけでしょう?」


「俺と同じ種族は、俺の血からしか生まれないよ。あぁ、息子じゃなくて孫というのか。そういう区別は面倒だよね」


(魔王セバスは……バカなのか?)



「アウン・コークンさん、やはり私から話しましょう。結論から言います。貴方の領地を、魔王セバスが欲しいそうです。死神との契約があるらしい。トーリ・ガオウルを捜し出せば、あの森を譲ると」


「フロア長、それって、俺から領地を取り上げるということですか」


「取り上げるわけではありません。天界人は、箱庭売買でブロンズ星に領地を得ます。ですから、その箱庭を売って欲しいということですよ。貴方の買値の10倍を出すそうです」


(は? 買値の10倍って……)


 あの森は、山火事のせいで、ゼロだったよな? ゼロは何倍にしてもゼロだ。魔王セバスは、きっとそれを知っている。


「死神との約束なんて、俺には関係ないですよね? 箱庭は売りませんよ」


「冥界の門が開いたのだ。死神は、俺にあの森を譲ると約束した。それが果たせないというなら、死神を迷子にさせようか? いや、力ずくで奪い取る方が楽しいかな。ククッ」


 魔王セバスは、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。この笑い方は……ブタ顔の、あの社長にそっくりだ。


(どういうことだ?)



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