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191、天界 〜クソ女神!

「大魔王コークン……まさか、エメルダ様の助手のフリをして侵入するとは……ぶふぉっ」


 ゆらゆらと立ち上がったタイサントという男は、エメルダ・ガオウルに頭をぶん殴られて、再びしゃがみ込んだ。


(こんな奴が、天界を統べる神になれるのか?)


 情報管理局のユニルーは、コイツは妄想癖以外は、優秀だと言っていたが……その妄想癖が致命的な欠陥だと思う。


 チラッとユニルーの方に視線を移したが、彼はもう仕事が終わったつもりなのか、暇そうにしている。あぁ、そうか。女神ユアンナを連れてゴールド星に戻るつもりか。おそらく話の途中で、エメルダ・ガオウルが強制転移で呼び戻したからだな。



「カオル、ここはもう私に任せていいよっ。転生塔が呼んでるみたいだよ」


 エメルダ・ガオウルは、そう言ってなぜかガッツポーズをしている。また、転生者の誰かの真似だろうか。


(あぁ、確かに呼び出しだな)


 俺の目の前にも、チカチカと点滅する光が見えた。


「じゃあ、エメルダさん、失礼しますね。えっと、ここからどうやって出ればいいのでしょう?」


「ここは、女神ユアンナの塔だから、窓から適当に出て行けばいいよ」


「ちょっと、待って。そんなことを言ったら、ウンコくんが本当に窓を破ってしまうわよん。あの鏡に触れると、別の塔へ移動できるわよん」


 女神ユアンナは焦って駆け寄ってきた。だが、自分が移動させようという気はないらしい。しかも、あるはずの出入り口も教えないのか。いや、出入り口はないのかもしれない。鏡の仕掛けがあるということは、ここは転移魔法も発動できない場所か。


(エメルダは転移したけどな)


 まぁ、エメルダ・ガオウルは天界の守護者らしいから、女神ユアンナを超えるチカラがあって当然か。



「わかりました。じゃあ、失礼します」


 俺は、適当に頭を下げ、鏡に触れた。その瞬間、どこかへ飛ばされる感覚……。なるほど、これは、侵入者を排除する仕掛けか。


(くそっ、クソ女神!)


 俺は、監獄塔に飛ばされていた。




 ◇◇◇



(また、牢かよ)


 エメルダ・ガオウルが使った夢幻牢とは違って、視界は奪われていないし、廊下の様子を透視することができる。だが、強い重力魔法が発動しているらしく、立っているだけでも疲れる。


 俺は、床に座った。冷たい床だ。素材はわからないが金属のようだ。まるで、巨大な金庫の中だな。


(こんなモノがあったか?)


 女神から与えられた天界人の知識を探る。


 監獄塔は、不審者を拘束監禁するための小部屋と監視者のいる塔だ。この塔の最下層には、女神さえも脱出できない多重結界に覆われた部屋があり、女神の塔への侵入などの高度な転移能力を持つ侵入者であっても、確実に拘束することができる……。


(ここはその地下牢か?)


 いや、透視が可能だから、違うか。そんな大げさな地下牢なら、廊下の様子を簡単に透視できないだろう。




 コツコツコツ


 しばらくすると、足音が近づいてきた。


「アウン・コークンさん、こんな所で、何を遊んでいるのですか」


 ギィイッと重そうな扉を開いて現れたのは、俺の上司にあたる真顔の怖い男だった。その背後には、監獄塔の制服を着た数人の監視者もいる。


 フロア長アドル・フラットは、相変わらず、吸血鬼のような顔をしている。彼は普段は笑顔を心がけているらしいが、今の表情は無表情だ。いや、警戒しているのか。


「フロア長、真顔はやめてください。怖いですよ」


「ふっ、アウン・コークンさん、貴方という人は……何も変わらないのですね」


 フロア長の表情には、わずかに笑みが戻っていた。



「それって、俺が成長しないってことですか」


「ふふっ、さぁ、どうでしょう? それより、なぜ、ここに? 呼び出しをかけたときは、他の場所にいましたよね?」


「女神ユアンナ様に、やられたんですよ。あのクソ女神! 俺をからかって遊んでいるんだ」


「はい? 女神の塔にいたのですか? なぜ?」


「ちょっと、やべぇバカが、自分の家がどうのと言い出して、俺は、その交渉に引っ張り出されたという感じです」


 名前を出すのはマズイかと、一応ふせてやったが……。


「エメルダ様ですね。女神の塔に、警報無しに直接転移できる方は、彼女か賢者ガオウル様くらいですし」


(やべぇバカで、わかったのか?)


「今頃は、笑ってると思いますよ。呼び出しがあったとき、女神ユアンナ様に、鏡に触れたら他の塔へ移動できると言われて触れてみたら、監獄塔ですからね。まぁ、確かに他の塔であることに間違いではないですが、ほんと、クソ女神ですよね」


 俺がそうぶちまけると、フロア長はいつもの顔に完全に戻っていた。さっきまでは、やはり俺を警戒していたということだな。


 まぁ、当たり前か。あの妄想癖の男の反応からも、新大魔王コークンを、天界人がどれほど警戒しているかは明らかだ。



「ふふっ、それは災難でしたね。女神ユアンナ様からは、魔道具の動作確認だと連絡が入りましたよ。なんだか珍しく慌てていたようです。理由はわかりませんが……」


(それで、警戒していたのか?)


「エメルダ様が、何か言ったんじゃないですかね? 彼女は、俺の領地にこだわってますからね」


「あぁ、その領地の件で、アウン・コークンさんを呼び出したんですよ。ここでは、私も辛いので上にあがりましょうか」



 小部屋から出ると、広い廊下の先には階段が見えた。だが、その廊下も、歩くのがダルイ。


「変な重力魔法が発動しているのは、牢の中だけじゃないんですか」


 俺がそう尋ねると、監視者の一人が口を開く。


「あぁ、地下牢全体には、多重化結界と重力魔法が常時発動しているよ。牢の部屋の中だけだと、簡単に脱走されてしまうだろう?」


「えっ? 地下牢なんですか、ここは」


 思わず聞き返すような言葉が、口から出てしまった。


「そうだよ。だから、鎧や剣は身につけられないし、魔導ローブも使えない。装備品があればあるほど、動けないからね」


「だから、軽装なんですね」


「あぁ、だが、死神の鎌持ちの転生師には、ここはキツイだろう? かわいそうに」


(死神の鎌にも反応するのか)


 別の監視者が、フロア長に話しかける。


「アドル・フラットさんも、いつも引き取りお疲れ様ですね。嫌な仕事を押し付けられますよね、転生塔は」


「あはは、まぁ、ね」


 フロア長は、困った顔を作りつつ、笑顔は絶やさない。真顔になると、ほんと怖いからな。



「女神ユアンナ様は、死神の鎌持ちを狙って、魔道具の動作確認をするんだよ。魔王の誰かがそうさせているらしい」


「持ってない者のねたみだろうね」


「ゴールド星に訴えているのに、まだ人事異動はないのだろうか。さすがに我慢の限界だ」


 階段を上がりながら、監視者達は、あれこれと愚痴り始めた。


 女神ユアンナが交代することは……話さない方がいいだろう。後任のあの妄想癖の男は、正義感が強そうで真面目な感じだったよな。女神ユアンナよりはマシか。



 監獄塔を出て、俺はフロア長と一緒に、転生塔へと移動した。



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