19、天界 〜転移塔の私的利用は星次第
「はい? 俺、急いでるんですけど!」
転移塔に着くと、なぜか勲章の星を提示しろと言ってくる。すべての塔は、趣味の悪い魔道具の像で、身分チェックすれば入れるんじゃないのか?
「ここは転移塔ですから、入り口は2階です。転移塔では、料金不足の人で混雑することを防ぐために、1階で料金の確認をしてもらっています」
(は? また、ポイントか)
だが、今の俺には、3,090ポイントもあるんだ。余裕に決まっている。
「勲章の星は何個ありますか? 確認させてください」
「星は1つですけど、転移塔とは関係ないものですが」
俺がそう言うと、足止めをしていた職員の表情が変わった。なんだか、とんでもなくバカにされているような気がする。
「なるほど、まだ新人さんですね。こちらをご覧ください。星1つでは、転移塔の私的利用など不可能ですよ」
その職員は、壁を指差している。色とりどりの巨大なポスターが何枚も貼ってあるようだが、価格表か?
「貴方は、白い表です。全くお話になりません。赤い表も無理でしょう。副業で稼ぎが良いなら、黄色の表でも可能ですが、普通は、緑色か青色ですね」
職員はシッシと、俺を追い払うような仕草をする。
(天界は、ポイント次第か。くそっ)
白い表は、記憶した。確かに不可能だ。
どうやら、転移塔の私的利用は、星の数によって価格が異なるようだ。愚かな天界人が地上をうろつかないためか。
白い表には、星ゼロから9個までの10種類の価格が載っている。
星1個だと、現地時間1分当たり1,000ポイント。俺の所持金では、3分だ。往復調整料金やら、時間トラベルやら、いろいろと細かく決められているようだ。
あー、往復調整料金が別途10万ポイントか。
(ふん、確かに話にならねぇな)
転移塔を私的に利用するには、勲章の星を集めなければならないのか。だが、ひとつの塔では3つまでしか与えられないはずだ。他の塔に行って集めろということか?
あのサキュバスに転生した女が殺されるのは11歳、つまり、天界の時間では11日後だ。
勲章の星は、すぐに集めることができるのか? 難しいなら、他の手段を考えるしかねぇな。
「あの、初めて見る方ですが、説明は必要でしょうか?」
さっきの職員とは別の人から、声をかけられた。腕章には、案内係とある。
「初めて転移塔に来ました。星が1つでは無理だと、鼻で笑われたんですけどね」
「あぁ、今日は忙しいから、みんなイライラしているんです。すみません。壁に価格表が貼ってあります。星10個ずつで色分けをしていまして、転移塔の私的利用は、星30個以上の緑色の表の方が多いのです」
俺がイライラしているからか、案内係はオドオドしているようだ。
(いや、俺の顔が怖いのか)
だが天界で、そんなことを配慮するつもりはない。どこに地上へ追放してくれるチャンスが転がっているか、わからないんだからな。
だがまぁ、感じ悪いから追放しろ、ということにはならないか。言葉遣いは気をつけてやろう。
「あの、案内係さん」
「は、はい!」
(ビビりすぎだろ)
「勲章の星って、みんな、どうやって集めているんですか。短期間で30個集める方法とか、ありますか」
「あぁ〜、そうですね。たくさんの塔で星を1つ得るのが早いと思います。同じ塔での2つ目の星は、なかなかもらえませんから」
それは、俺でも知っていることだ。星1つは、俺でも貰えたが、2つでフロア長、3つなら管理者だろ。
楽に手に入れる方法を尋ねたつもりだが、通じないな。
「どの塔が貰いやすいとか、難易度の差はありますか?」
「ええっと、それは一概には言えません。天界人の能力は様々ですから。ちなみに、転移塔では、案内係などの職員を1年継続すれば、星1つ貰えます」
(は? 星1個に1年だと?)
こりゃダメだ。星なんか集めている暇はない。
「わかりました。ありがとうございます」
俺は、軽く頭を下げ、転移塔を離れた。
ブロンズ星にさえ行けば、国の移動は転移魔法が使える。だが、どうすればブロンズ星に行ける?
俺は頭を抱えながら、転生塔に向かって歩いていく。まだ11日、いや、10日ある。焦る必要はない。
(いや、焦るしかないか。くそっ)
◇◇◇
転生塔に戻り、1階の店にフラッと立ち寄ってみる。
(幼女が、魔道具枕って言っていたな)
寝具のコーナーを見ると、ベッドは、ミニチュアのおもちゃのような展示物になっている。枕は、普通の枕しか無さそうだ。
魔道具のコーナーを見てみると、意味不明な物が大量に並んでいる。
(あっ、これか)
魔道具枕を見つけた。様々な種類があるようだ。価格もバラバラだな。だが、どれも高い。枕に5,000ポイント、50万円とか、あり得ねぇな。
反対側の棚を見ると、セバス国の装飾品が置いてある。セバス国の物でも、ここで買うと、ポイントで支払うのか。
文化レベルが高い国だけあって、なかなかの値段だ。現地に行ったついでに買う方が、安いかもしれねぇな。
(そうか、現地に行く!)
俺は何も買わずに、そのまま店を出て、エレベーターに向かう。一番簡単な方法に気づかなかった。焦っていた証拠だな。
「おや、アウン・コークンさん、おかえりなさい。転移塔は、無理だったでしょう?」
10階に着くと、フロア長が声をかけてきた。事前に教えてくれたら良かったのに……いや、俺が無視して飛び出したのか。
「はぁ、鼻で笑われましたね」
「それは、感じ悪い対応ですね〜」
(くそっ、うるさいな、黙ってろ)
俺が睨んでも、フロア長は笑みを崩さない。だが、他の人の何かが気になったのか、ふらりと離れていく。
俺はデスクに座り、クレーム対応の画面を開いた。
通常のクレーム対応は、画面だけで出来るものが多いようだ。ダメだな、俺は現地に行きたいんだ。
至急用件の画面を開き、適当なものを探していく。だが良さげなやつは、すぐに消える。
(なぜ俺が競り負ける? くそっ)