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189、天界 〜タイサントという男

 俺は、エメルダ・ガオウルの転移魔法で、天界に移動した。しかも着いた場所は転移塔の転移部屋ではなく、いきなり、どこかの塔の広い部屋だ。


(ここは……どこだ?)


 天界全体の地図は、当然、頭に入っている。だがこの塔を、俺は知らないと感じた。


 ここが最上階なのだろうが、通常の塔よりも圧倒的に高いらしい。窓からは、他の塔は見えない。幻想的な何かが煌めき、明るい光で満ちていた。


 天界に移動してきたのは、俺達2人ではない。ゴールド星やトレイトン星系の住人27人も一緒だ。彼らの額には、俺の名前を記した紋が光っている。エメルダ,ガオウルは、これを奴隷紋ではなく、処刑紋だと言っていたが……。



「エメルダ様! えっと、何か不手際が……」


 慌てて駆け寄ってきた男の顔には、見覚えがない。天界人の記憶力は、一度見た物は忘れないらしいから、おそらく会ったことはないのだろう。


「アンタじゃなくて、女神ユアンナに用があるのっ。ここに居ないってことは、また、セバスといちゃついているのかしらっ」


(は? セバス? 魔王セバス?)


「いえ、今、女神ユアンナ様は、ゴールド星に行かれています。ゴールド星の情報管理局から、何かの連絡があったようでして……」


 その男は、ダラダラと顔汗を流し、話しにくそうにしている。それほど、エメルダ・ガオウルが恐ろしいのか。


「妙な言い方ね。私に何を隠そうとしているの? 言っておくけど、無駄よ。タイサントよりも、彼の方が思念スルスル能力は高いよっ」


 エメルダ・ガオウルは、なぜか俺を指差して、妙なことを言う。思念スルスル能力って何だ? 彼女の造語だろうか。言われた彼も、ピンときていないようだ。


「彼は、エメルダ様の新たな助手でしょうか。あいにく、私は最近、天界へと人事異動になったばかりでして……」


「あら、タイサントが、正式に女神ユアンナの世話係になったの? ってことは近いうちに、アンタが天界を統べる神になるのね」


「そうですね。おそらく、そうなるかと思いますが……。突然の人事異動でしたので、引き継ぎ期間は通常より長くいただく予定です」


(神って、人事異動で決まるのか?)



「ふぅん、じゃあ、タイサント、何を隠そうとしているの? 正直に言いなさい」


「いえ、エメルダ様には関係のないことですので……」


 タイサントと呼ばれた男は、意外と頑固だな。まぁ、これくらいでないと、天界を統べる神を継げないか。


「情報管理局から、何の呼び出し? 女神ユアンナから引き継ぎを受ける暇もなく、彼女が失権したんじゃないの?」


 エメルダ・ガオウルがそう尋ねると、彼の顔汗はさらに酷くなった。


「失権とは聞いておりません。女神ユアンナ様も理由は告げられず、ただ呼び出されたのです」


(何か、やらかしたのか)


「誰が呼び出したの? アンタがそんな顔をしてるってことは、賢者ガオウル様の弟子の誰かかしら?」


 そういえば、エメルダ・ガオウルも、賢者ガオウルの弟子らしいな。祖父でもあり、師匠でもあるのか。賢者ガオウルの弟子ということは、ガオウル一族という意味かもしれない。


「いえ、まだそれなら……。ゴールド星情報管理局のユニルー様からの呼び出しです」


(ユニルー? さっきの男か)


「ふぅん、ユニルーからの呼び出しねぇ。なぁんだ、つまんない」


「エメルダ様! つまらないとは、どういうことですか。女神ユアンナ様がどうなるか、ご存知なのですね? 処刑ですか? 死神ユニルー様が動くということは……」


(死神?)


「さぁ、知らないよっ。そんなことより、私の家なんだけどさ……」


「そんなことではありません! エメルダ様、何とかお力添えをいただけませんか。確かに、女神ユアンナ様は、いろいろな法規違反を繰り返してこられました。ですが、悪意はありません。彼女は、ただの面倒くさがりなんです。いえ、怠惰なだけなんです。悪意なき者に処刑は……」


(女神がなまけ者でいいのか?)


「あのねー、そんなこと、私に言っても知らないよ」


「エメルダ様からお口添えいただければ、処刑は回避できるかもしれません。女神ユアンナ様は、トレイトン星系にいた頃から、私をよく守ってくださっていたのです」


「ふぅん、幼馴染なのね。あっ、親戚だっけ。私とシダくんみたいな感じね。私もシダくんをよく守ってあげていたもの」


(は? アイツを守っていただと?)


 トーリ・ガオウルが、魂の転生システムに反対して、天界に攻め込んだとき、息子のシダ・ガオウルを殺したのは天界だ。そして、その魂が冥界に行って冥界神とならないように、アイリス・トーリとして男女逆転させて転生させた。そのことを提案したのは、このエメルダ・ガオウルだと言っていたよな。


 エメルダ・ガオウルは、本来のあいつを殺させたんじゃねぇのかよ。



「あぁ、アイリス・トーリですか。あのとき貴女が、男女逆転させて父親の印を断ち切ったことで、天界は彼女の魂の消滅を断念したのでしたな」


(魂の消滅を……救った?)


 俺は思わず、エメルダ・ガオウルの方に勢いよく向いてしまった。彼女は俺の反応に、微かに笑みを浮かべたようだ。


「そんな昔のこと、忘れちゃったわ。そんなことより、私の家なんだけど……」


「エメルダ様! そんなことではありませんよ。あのとき、シダ・ガオウルの魂を消滅させておけば、このような騒動は起こらなかったかもしれません。女神ユアンナ様が処刑されたら、次の標的はエメルダ様になるかもしれませんよ?」


「うん? 何のこと? 女神ユアンナがなぜ管理局に呼び出されたか、アンタ、知らないって言ってなかった?」


 一瞬、シーンと静かになった。広く明るいこの部屋にいる多くの人達が、次の言葉を待っているようだ。


「私の推測ですが……情報管理局のユニルー様が動いた原因は、一つしか考えられません」


「なぁに?」


「私がちょうど、引き継ぎのためにトレイトン星系へ行っていたとき、天界を揺るがす事件が起こりました。冥界の門が現れ、アイリス・トーリが冥界神となった、ここまでは、まぁ、いずれ、そういう時が来ると予想していました。だが、最悪なことが起こりました」


「うん? 何か、あったっけ?」


「エメルダ様もご存知ないのですか……。水竜リビノアですよ。水竜リビノアが冥界から解き放たれました。そして、その水竜リビノアを解き放った天界人が、新たな大魔王となりました。その大魔王は、水竜リビノアを従えている。同じなのです。悪夢の再来です。トーリ・ガオウルが復活したのですよ」


(は? 俺のことか?)


「トーリ叔父さんは、まだ復活できるほどの時間は経ってないよ?」


「じゃあ、何なんですか!? トーリ・ガオウルと同じく水竜リビノアを従え、天界の様々な機能を停止させた凶悪な天界人は!! おそらく女神ユアンナ様は、そんな恐ろしい天界人を放置した責任を取らされて処刑されるのです」


(コイツ、何を言ってんだ?)



 するとエメルダ・ガオウルは、ニヤッと笑って口を開く。


「アンタ、何もわかってないね。面倒だから、女神ユアンナをすぐに呼び戻すよっ。アンタには、私の家の話ができないもん。緊急戻って来い魔法発動っ!」


(また、変な造語だ)


 エメルダ・ガオウルが近くの鏡のようなガラスに触れると、部屋全体が強い光に包まれた。



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