表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

188/215

188、深き森 〜エメルダ・ガオウルの家

 長い食事会がやっと終わった。途中から傍観者になっていた魔王スパークにも、ホッとしたような笑みが戻っていた。


 そして、ふくれっ面の幼女と、嬉々としている女性。


「私が、管理と監視をするなら、やっぱ私の家をこの森に建ててもいいよね、カオル」


「天界からでも監視できるだろ、エメルダ」


(いつまで同じことを言っている?)


 俺はうんざりとした表情を隠さず、らせん階段を下りていく。やはり、らせん階段は嫌いだな。記憶力の優れた天界人に転生した俺からは、前世のトラウマは消えることはないのだろうか。



 店のホールには、リィン・キニクを含む大勢がいた。1階で食事を済ませた集落の彼らは、俺達を待っていたらしい。


「うわっ」


「会食だったのか」


 魔王スパークが俺の後ろから階段を下りてきたことに、彼らは驚いたようだ。もちろん、エメルダ・ガオウルも一緒だが、アイリス・トーリとケンカしながらだし、そもそもその顔は知られていないだろう。


(会食なんてもんじゃねぇが)


 もし、俺がエメルダを見つけられなかったら、コイツらはどうなっていたのだろう? そう考えると、ゾッとする。


 今の俺には、大魔王なんてものが務まるとは思えない。だがそれ以上に、トレイトン星系やゴールド星からの干渉に対抗することができるか……あまりにも不安だ。


 エメルダ・ガオウルがこの森に住みたがるのも、トレイトン星系の誰かから、何かを探すようにと指示されているためだと思う。


 彼女が、何を探しているのかは、俺にとってはどうでもいいことだ。ただ、俺が守りたい者達を傷つけるものであれば、全力で阻止するべきだろう。


(そんな力は、ねぇけどな)




「カオル、暗い顔をして、どうしたんだ?」


 マチン族のドムが、少し緊張した様子で声をかけてきた。俺を大魔王扱いしないことに必死なのか、なんだか少しぎこちない。


「あぁ、ドム。大丈夫だ。ちょっと、うるさくてな」


 俺は、ごちゃごちゃとケンカする二人を指差して、そう答えた。当然、ドムは困った顔をしている。



「あれれ? キミ達は、トーリ叔父様の末裔まつえいね。ふぅん、随分と魔力も落ちたのねぇ、マチン族は」


(マチン族を知ってるのか)


 エメルダ・ガオウルは、階段の途中から飛び降り、俺とドムの間に割って入ってきた。


「えっ……白いフードを被っていなくてもわかるのか」


「わかるよっ。トーリ叔父様の刻印があるでしょ。もっと魔力が高ければ刻印を隠すこともできるのにねっ。天界の仕業ねー。ほんと、女神ユアンナって、ろくなことしないわよね」


(何を言ってんだ?)


 話しかけられているドムは、警戒マックスだ。


「エメルダさん、そんな風に言われても、何も答えられないですよ。彼は俺の友人です。いじめないでください」


「えっ? カオルの友達? じゃあ、私の友達でもあるわねっ。別にいじめてなんかないわよ〜。あまりにも無防備ですよと、教えてあげたの」


(だから、何?)


「エメルダ、つまらないことを言ってないで、さっさと帰れ」


「やだよっ。私、カオルの奴隷のお世話係だもんっ」


 彼女が奴隷という言葉を使ったことで、集落の人達に緊張が走った。


(誤解してるよな)


「エメルダさん、ブロンズ星に住みたいなら、まずはその差別意識を封印してください。俺は、人種差別は嫌いなんで」


「わかった〜。じゃ、カオル、私の家はどこに建てればいい? カオルの屋敷ってどの辺りにあるの?」


(はい?)


 そういえば、俺の家は、この森にはないか。エメルダに尋ねられて、初めて気づいた。一応、天界には借りている部屋があるが、何の家具も置いていない。


「俺の家は、ブロンズ星にはないですよ」


「えーっ? じゃあ、どこに建てる? 大魔王なんだから、お城にしちゃう? そういえばシダくんの家ってどこにあるの?」


(アイリス・トーリの家か……知らねぇな)


「エメルダには教えない。さっさと帰れ!」


「やだって言ってるでしょっ」


(はぁ、うっざ)


 二人のケンカに俺がげんなりとしていると、リィン・キニクが近寄ってきた。



「二人とも、ケンカしないで。お店の開店時間よ。迷惑になっちゃうわ」


「ふぅん、森の賢者ね。私、どこに家を建てればいいかしら?」


(誰にでも聞くんだな)


「それは、天界に尋ねてちょうだい。エメルダ様の領地は、ブロンズ星にはないのかしら? 天界人は、箱庭を買うことで領地が得られるわよ〜」


「私は、天界人ではないから、領地は持てないのっ。だから領主の許可が……あっ、そうだ! アドでもいいねっ。アドちゃん、私の家は……」


(標的を変えやがった)


 アド・スパークが困るかと見ていると、余裕の笑みだ。


「僕の領地も、古の魔王トーリの領地の一部でしたけど、監視をしたいなら、最適な場所がありますよ?」


「えっ? どこどこ?」


「アレです」


 魔王スパークは、ホールの窓から見える天界の管理塔を指差した。


「アレは、何かしら?」


(は? 天界の管理者が知らないのか?)


「あの場所も、古の魔王トーリの領地の一部です。アレは、天界の管理塔というか監視塔です。魔王セバスが最上階にいますよ」


 最上階にいるということは、実質の管理者だという意味だ。やはり、魔王セバスか。



「じゃあ、天界に権利放棄させるわ。カオル、天界に行くよ」


「はい? 俺は、集落の人達を送り届けないと……」


「大魔王コークン、行ってこい。あの塔から目障りな天界人を追い払え。集落の人達は、私が送り届ける」


 俺が断ろうとしているのに、アイリス・トーリは、ニヤニヤと笑いながら、エメルダ・ガオウルに味方している。いや、違うか。これは、天界の監視を緩めるチャンスか。


「はぁ、わかったよ。だが、また、彼女に夢幻牢に入れられたら……」


「それはない。エメルダは負けたのだ。それに、おまえは大魔王になったのだぞ? ブロンズ星の大魔王を拘束するには、よほどの理由が必要だ。もしエメルダがそんなことをしたら、エメルダが管理局に処刑されるだろう」


(あぁ、あの男か……)



「それなら、いいけど……ん? は?」


 店のホールから外に出ると、大勢の人が、サッとかしずいた。


(奴隷紋か)


 彼らの額には、俺の名前を記した紋が光っている。その数は、27人。本当に奴隷なのか。


「大魔王コークン、くそっ……大魔王コークン様、何なりとお申し付けを」


 人間につけられていた奴隷紋とは全く違うレベルの紋だ。おそらく、身体ではなく魂に刻まれている。



「ほらほら、私をバカにした罰だよっ。ふぅん、処刑紋じゃん。カオルが死ねと言ったら、死ぬよ? この人達」


「は? 悪さをしなければ、そんなこと言わねぇよ」


「じゃ、とりあえず天界に行くよっ。アンタ達も来なさい。天界から私達の家を取り返すんだからっ」


(は? 私達の家?)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ