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185、深き森 〜面倒なことになってきた

「俺は、彼女が言うように、エメルダさんはトレイトン星系に戻られる方がいいと思いますが……」


 俺がそう反論しても、エメルダ・ガオウルは全く聞こえていないかのように、ニコニコしたままだ。


「エメルダ、くだらないことを言ってないで帰れ。もう用は済んだだろう? これ以上留まるなら、大魔王コークンがゴールド星に救援要請を出すぞ」


(いや、そんな方法、知らねぇし)


 そう考えた瞬間、頭の中にゴールド星へのアクセスコードのようなものが浮かんできた。これは、アイリス・トーリの力か? いや、大魔王の能力か……。



「シダくん、そんなに私に帰ってほしいの?」


「さっさと帰れ。それにさっきから、ずっとその呼び方をしているが、私はどう見ても女だろう? エメルダ」


「いいじゃない。女神ユアンナが適当に付けた名前なんて、いらないでしょ。え〜、シダくんは、私に帰ってほしいのかぁ〜」


 エメルダ・ガオウルは、アイリス・トーリをからかうようにニコニコと笑みを浮かべている。


「私達も、帰るぞ。魔王スパークも災難だったな」


 アイリス・トーリは勢いよく立ち上がった。だが、幼女アバターを身につけた彼女は、立ち上がっても目線はあまり変わらない。



「アイさん、災難ではありませんよ。なかなか楽しかった。僕よりも力のある人達に囲まれていると、楽ですよ」


 魔王スパークの特殊能力は、俺達には効かないのだったか。確かに、目の前にいる人達の考えたことがすべて文字となるという環境は、疲れるだろうな。


「ほらほら、色欲ちゃんもそう言ってるよ? やっぱ、このメンバーで集まるのって楽しいよねっ」


(色欲ちゃんって……)


 確かに魔王スパークは、色欲の魔王と呼ばれている。すぐに女に手を出すからだろうか?


「エメルダ、その二つ名で呼ぶのはどうかと思うぞ。アド・スパークは、好きでそんなことをしているわけではない。天界から押し付けられた役割だからだ。だが、魂の転生システムの運用方法は、これから大きく変わる。今後はその役目も、消えていくだろう」


 そういえば魔王スパークの役割って、気になっていたんだよな。俺には知る権限がなかったから、何も聞けなかったが。


「ふふっ、カオルが興味津々だね」


「えっ? 俺の考えが文字になるんですか」


(あっ、しまった。引っかかった)


 魔王スパークは、むかつくアイドルスマイルだ。そして幼女は……スカタンと言おうとして我慢したのが、口の形でわかる。



「カオルは、初めて僕の城に来たときから、僕の二つ名のことを気にしていただろう? それを覚えていただけだよ」


「はぁ、なるほど」


「ふふっ、僕はね、シルバー星に進む魂の器を用意する役割を与えられたんだよ。僕の子供として生まれた子はね、いわゆるエリートな魂なんだ。僕は、子供の考えをすべて文字として読むことができる。だから、最終審査場のひとつだね」


「えっ……だから、多くの子を……」


 そう聞き返そうとして、俺は言葉を飲み込んだ。魔王スパークが、とても悲しそうに見えたからだ。優しき魔王は、自分の子供が死にたがるのをずっと見てきた。


(ずっと辛そうだったもんな)


「僕は、天界人として転生したときに、モテたい好かれたい引き寄せたいとイメージしていた。そして、相手の心を知りたいってね。それが、僕のオリジナル魔法になったんだ。カオルもイメージしたから、何もかもを洗い流すオリジナル魔法を得ただろう?」


「あぁ、俺は、ただ、クリーニング屋魔法があれば、便利かと思っただけです」


「そっか。欲がないね。だから、そんなにも強力な洗脳系の魔法が使えるんだね。僕は、欲の塊だったな。前世では、僕は醜かったんだ。失恋してばかりの人生だった。たぶん、見た目よりも、心の方が醜かったんだろうね。天界人に転生するときに、こんな姿を選んだのもその反動だと思う」


 魔王スパークは、何かに懺悔するかのように、淡々と話を続ける。


「僕はね、初めは嬉しかったんだ。この姿はとてもモテた。それに、相手の気持ちは文字となって知ることができる。だから、どの子に声を掛ければいいかもわかったよ。そして、調子に乗ってやり過ぎたのかな」


 魔王スパークは、アイリス・トーリに視線を移した。まるで、彼女に救いを求めているようだ。


「アド・スパークは、目立っていたからな。他の魔王からの嫉妬もあるだろう。多くの女性を惹きつけるから、転生の魂の器作りに利用されたのだ。確か、提案したのはエメルダだったな?」


(えっ? あぁ、天界の守護者だからか)



「うん? 忘れちゃったよ、そんな昔のこと。それより、私の家だけどさ〜」


「さっさと帰れと言っているだろ」


 アイリス・トーリは、殺気を放っているようにも見える。だが、エメルダ・ガオウルは、気づかないのか平然としていた。


「シダくんってば、私に取られると思って警戒してるのねっ? 言っておくけど私、カオルみたいな顔ってねぇ……」


「エメルダ! さっさと帰れ!」


 俺は、どうせ暗殺者みたいな顔だから、嫌なのだろう。アイリス・トーリが、彼女の言葉を遮ったのは、俺への温情だろうか。


「やだよっ! 私が帰らない方が、みんな嬉しいでしょ」


「帰ってくれる方が嬉しいぞ」


「それは、シダくんだけだよっ。言っておくけど私、カオルみたいな顔ってねぇ、すっごくタイプだからっ」


(は?)


「わかっている! だからトレイトン星系に帰れと言っているのだ。おまえが私の父に、いつもすり寄っていたのを忘れたとでも思ったか?」


(なんだと?)


 アイリス・トーリの父親は、トーリ・ガオウルだ。そして、俺は、そのトーリ・ガオウルの若い頃に似ているらしいが……。


 もしかして、彼女はヤキモチをいてくれているのだろうか。


(いや、自惚れるなよ、俺)



「相変わらずシダくんってば、陰険よね。カオルは、私がブロンズ星に住む方がいいよねっ? この森の中に、私の家を建ててもいいよねっ?」


 エメルダ・ガオウルは、トーリ・ガオウルに惚れていたのか? 何だか、面倒なことになってきたな。


「エメルダさん、どうしてもトレイトン星系に帰りたくないなら、天界に住めばいいんじゃないですか」


「やだよっ。私、カオルの領地が気に入ってるって言ったよね? それに、今、誓約の印を送ったけどさ〜。私が負けたから、なんだか暴動が起こりそうだよ」


(は? そんなの知らねぇよ)


 だが、その話を聞いたアイリス・トーリの表情は、ガラリと変わった。



「エメルダ、それは本当か? 賢者ガオウル様が、キチンと説明されたのだろう? そもそも魂の転生システムは……」


 アイリス・トーリは、そこで言葉に詰まったようだ。


(なぜ、不安げな顔をしている?)


 魂の転生システムは、失敗だったのだろう? ゴールド星に辿り着いた魂は、みんな量産型の人形みたいだと、エメルダ・ガオウルも言っていたはずだ。



「シダくん、やっと気づいたのねっ。でも私がブロンズ星にいれば、ブロンズ星は安全だよっ」



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