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182、深き森 〜螺旋階段を上がると

「それがいい。他の者にも伝えておけ。ぴよぴよ新人大魔王コークンには、かしこまった敬語は不要だ。それが、彼の目指す均衡でもあるぞ」


 幼女アバターを身につけたアイリス・トーリが、ふんぞり返って得意げに話す様子は、俺の心を落ち着かせる。マチン族が、俺に気遣いをしないようにと力説してくれているが、ぴよぴよを強調するあたりは、彼女の悪戯心なのだろう。


(コイツは、変わらないな)


 冥界神となり、封じられた記憶が戻っても、彼女は変わらない。そのことを強く実感した。そして、何より俺の考えをよくわかっている。まぁ俺は、彼女に育てられたようなものだから、それも当然か。



「さぁ、皆も中に入って、集落の住人達の指導をしてやってくれ。あの集落には店などないからな。ほとんどの者は、戸惑っているはずだ」


「わかりました、アイちゃんさん。我々で、集落の外のルールを教えます」


 ドムは、そう言うと、俺の方にもやわらかな笑みを見せた。だがなんとなく、その目の奥には、寂しさを感じた。


(彼の息子のダンは……)


 ダンは、俺が転生させた転生者だが、もう確定承認を終えている。承認保留にしてあるレプリーやアンゼリカなら、天界に戻れば、今の居場所や人生の流れを追うことはできるが、ダンの場合はそれができない。


 マチン族から……父親の元から離れるようなことがあるとすれば、やはり死か。ダンはまだ子供だから、独り立ちしたとは考えにくい。


(ドムの前では、聞けないか)



 マチン族が店員に案内されて店内へと入っていくのを待ち、俺は、アイリス・トーリの方に視線を移した。


「あのさ、おま……」


「大魔王コークン、私達はあちらの小部屋だ」


 彼女は、螺旋階段を指差した。階段の上に目を移すと、二人の黒服がいることがわかった。特別室ということか。


「あぁ、わかった。それより、マチン族のドムの近くに息子の姿がないが……」


 俺がそう話しかけると、アイリス・トーリは首を傾げた。まだ、様々な記憶の整理ができていないから、わからないのか。


「その息子がどうかしたのか?」


(何もわからないらしいな)


「いや、何でもない。はぁ、螺旋階段かよ。目が回るような気がして、嫌いなんだよな」


「はぁ? 大魔王が何を言っている? スカタン! さっさと行け」


 そう言いつつ、彼女は俺を先に歩かせるつもりらしい。浮遊魔法を使う方が楽な気もするが、俺は階段を上がっていく。彼女が俺の後ろを歩くのは珍しい。俺が目を回したら支えてくれるつもりなのだろうか。


(ふっ、大魔王が階段で目を回す?)


 こんなことを口に出していたことが、おかしくなってきた。だが、螺旋階段には前世の嫌な記憶があるのだ。


 俺が働いていた会社には、室内に螺旋階段があった。上の階には社長の部屋がある。急用で呼ばれて、何度か螺旋階段を上がった。いつも、理不尽な無茶振りで呼びつけられる。


 螺旋階段は、外の非常階段よりもショボい造りになっていて、ギギッと嫌な音を立てた。その音は、無茶振りへ誘う挿入歌のようだったな。


 そして、前世で最期にのぼった階段でもある。


(嫌なことを思い出したな)




「ようこそ、お待ちしておりました。どうぞ」


 黒服によって扉が開かれると、知っている顔がそこにはいた。かつて、俺がサキュバスに転生する前の女を送り届けた城にいた門番の男だ。


(コイツ、あの後、どこにいた?)


 俺が会ったのは、一度だけだ。天界人の記憶に間違いはない。もしかするとコイツは天界人なのかもしれないな。服装も、オシャレな軽装だ。この場所はまだ俺の領地なのに、覗こうとしても、この男の情報は得られない。



「おい、立ち止まるな。後ろがつっかえているのだぞ」


 彼女の声で、ハッとした。


(何だ? 俺は……)


 妙な違和感を感じつつ、俺は扉の奥へと進んだ。俺は、何かに怯えているのだろうか。




「やぁ、久しぶりだね、カオル。大魔王コークンかぁ。うん、悪くない名だね」


(出たな、アイドルイケメン)


 俺は、爽やかなイケメンを見ると、無意識にイライラするようにできているらしい。


「魔王スパーク様、お久しぶりです」


「ふふっ、僕は、キミの人物株を持つ出資者なんだからね。そんなに睨まないでおくれよ」


「目つきが悪いのは、もともとですが。人物株への出資ありがとうございます」


「ふふふ、とっても儲けさせてもらっているよ。アイちゃんや、カオル姉さんには及ばないけどね。森の賢者と同じ出資額だったと思うよ」


(何か、変だな)


 魔王スパークの何かに違和感を感じた。久しぶりに会ったせいだろうか。爽やかスマイルが、下手なつくり笑顔のように見える。以前は、完璧な笑顔を浮かべていたのだが。



「アド・スパーク、笑顔が不気味だぞ」


(やはり、そうだよな?)


「あはは、アイちゃんには見抜かれてしまうね。冥界神になったから、逆にわからないと思ったんだけど」


(は? どういう意味だ?)


「私は、以前のように能力に頼ることをやめたのだ。おまえもそうする方が良いぞ。通用しない相手に囲まれると、そんな不気味な笑顔になるのだからな」


(通用しない? 何が?)


 魔王スパークは、そういえば相手の考えが、文字として見えてしまうのだったか。


「そうかな? 僕のオリジナル魔法が効かない人達と一緒の方が、疲れなくていいんだけどね」


(オリジナル魔法?)


「魔王スパーク様、相手の考えが文字として見えるのは、貴方の天界人としてのオリジナル魔法なのですか?」


 俺は思わず、聞いてしまった。


「そうだよ。常時発動系なんだよね。ちょっと変わった魅了みたいなものだよ。相手の心を知りたい、惹きつけたいと願ったせいだね」


(転生時のアレか)


 俺は冗談で、クリーニング屋魔法とイメージしたことで、こんな洗脳系のオリジナル魔法を得た。



「アド・スパークのように常時発動するタイプは、厄介なんだ。だから、天界は寄せ付けない。逆に、天界は、転生システムを加速させるコマとして、アド・スパークを利用している」


 アイリス・トーリが突然、語り始めた。だが、様子がおかしい。いつもの彼女の話し方ではない。



「まぁっ、ひどいことを教えるのね」


 何もない空間から、人の影が浮かび上がった。


(忍者かよ)


 そのとき、パタンと扉が閉められた。



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