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179、深き森 〜精霊の儀式と創造神の宣言

 空を覆う無数の光は、集落全体を飛び回るかのように移動している。あの光は、ひとつひとつが精霊なのだろうか。


『リィリィってば、いまさらだわ〜』


『順番が違うのよ〜、アウン・コークン』


『その呼び方は、嫌なんだって。女神ユアンナが、ふざけて付けた名前だもの』



(精霊の声?)


 だが、こんなにたくさんの光が集まってきたら、天界にこの場所がバレるんじゃねぇか? 魔王クースが生まれる集落は、極秘だろ。



『天界から見えるわけないよ』


『水帝は、森の中では溶け込んでしまう。私達は、その効果を使っているから、光も溶け込んでしまうのよ』


『アウン・コークンの名前が嫌なら、水帝って呼ぼうか』



 俺だけに話しかけているのか、アイリス・トーリは何の反応もしない。あっ、リィン・キニクには聞こえているのか。


「カオルくん、精霊のおしゃべりは、領地の主人と森の賢者にしか聞こえないわ。アイちゃんは、冥界神の力を使えば聞こえるはずだけどね〜」


「リィリィさん、いま、精霊様達は、何をしているんですか?」


「だから、精霊の儀式よぉ。すべての精霊と森の賢者が参加しているの。この集落の領主の交代の宣言と、領主の運営方針や抱負の話、そしてそれを皆が見届けるの」


「えーっと、領主交代と挨拶ってことですか?」


「ふふっ、でも全部終わったものね〜。だから精霊様達は、順番が違うってプンスカ文句を言っているわ。だけどそれは、賢者ガオウル様と水竜リビノアのせいよね〜」


「全部終わったのに、儀式ですか?」


「そういう世界なのよ〜。でも、一部の精霊は気づいてなかったみたい。こうやって集まることに意味があるの。この光の下では、数え切れない精霊の加護が、与えられているわ」


(精霊の加護?)


 周りを見回してみても、それらしい幻想的な光景は無い。ここに集まった人達も、ただ、飛び回る光をおがんでいるだけにしか見えないんだよな。




 チカチカと、目の前が点滅するような変な光が見えた。


 すると、精霊達の声も集落の中で話すヒソヒソ声も聞こえなくなった。風の音も、森の中の魔物の鳴き声さえも聞こえない。


(何だ?)



『前大魔王リストーは、冥界神ガオウルとなりました。これにより、長年封じられていた冥界の力は復活します。天界との役割分担は、先に定めた通りです。天界を統べる女神ユアンナも、この定めの縛りを受けます』


(突然、何が起こった?)


 頭の中に、聞いたことのない強い口調の女性の声が響いてきた。リィン・キニクに尋ねようとしたが、声が出せない。だから、シーンと静まり返っているのか。


『新大魔王コークンは、水を操り、水竜リビノアと友好関係にあります。そのことからも水帝という二つ名がふさわしいでしょう』


(二つ名?)


 あぁ、さっきの精霊達の話はこれか? 順番が逆だと騒いでいた。本来なら、この強制力の半端ない声が、二つ名を決めるのかもしれない。これは精霊の声なのか? 響き方が違うような気もするが……。


『新大魔王の領地は、前大魔王よりも広いものです。新大魔王コークンの領地への干渉を企てようとする愚か者が現れる前に、言っておきます。天界の守護者エメルダは、新大魔王コークンに恩があるようです。この意味はわかりますね』


(は? エメルダ? 恩?)


 あぁ、天界で俺を夢幻牢に閉じ込めたトレイトン星系の女か。賢者ガオウルの弟子か何か……アイリス・トーリの前世、シダ・ガオウルの知り合いらしいが。


 だが、俺に恩があるという意味は不明だ。俺は確かに、あの女の魔力を受け止め、それを利用してオリジナル魔法を使った。そうしないと天界を破壊してしまいそうな異常な魔力だったからな。


 しかし俺だけでは、到底受け止められるものではなかった。水竜リビノアがサポートしていたのだろうから、恩があるとすれば、水竜リビノアに対してではないのか?



『これより、創造神ガオウルの名において宣言します。冥界神ガオウルの誕生、そして大魔王コークンの誕生、いずれもトレイトン星系での承認は完了しました。天界の一部機能は冥界へ移し、ブロンズ星の役割は新たな次元に進むものとします。この声を聞くすべての者の魂に、新たな役割を刻みます』


(は? 創造神ガオウル?)


 この世界の創造神は、あの賢者ガオウルという爺さんだと聞いた。だが、この声は明らかに女性だ。



 再び、チカチカと目の前が光ると、胸にチクリと痛みを感じた。理不尽に、何かの役割を刻まれたのか。


 胸に手を当ててみると……。


『大魔王コークン、自ら宣言した言葉を実行せよ』


 さっきの女の声が、聞こえた。


(これだけ?)



 胸に手を当てると、まるで時が止まったかのように、身体を動かすことができなくなった。天界で、水竜リビノアが時を止めたときのようだ。精霊は飛び回っているが、森の賢者リィン・キニクでさえ、目は動くが身体が動かないらしい。皆、胸に手を当てたまま固まっている。


(あっ、姿が……)


 魔王クースと一緒に現れた透き通った幽霊のように見えた人達が、普通の人の姿へと変わっていく。アンゼリカも、血の通った普通のサキュバスの少女に見える。


 ようやく、動けるようになったのは、空を埋め尽くしていた無数の光が、パッと弾け散るように消えたときだった。



「リィリィさん、これは……」


「ふぅっ、なんだか疲れたわねぇ。精霊の儀式と、創造神ガオウル様の宣言の儀は、これで終わりよぉ。同時に終わったから、やっぱり一緒に来て良かったわ〜」


「えーっと、普通は別々にやるものなのですか」


「うーん、前に創造神ガオウル様の宣言の儀があったのは、シルバー星ができたときよ。私は二度目だから、普通がどうなのかはわからないわ。でも時を何度も止めると、負担になるじゃない?」


(負担? あぁ、術者の負担か)


「あの、創造神ガオウル様というのは、賢者ガオウル様のことですか?」


 俺がそう尋ねると、リィン・キニクは首を傾げた。愚問か。まぁ、そうだな。性別が違う。



「賢者ガオウルは、私の爺様だ。そして創造神ガオウルは、賢者ガオウルの母だ。すべての母であるとも言える」


 リィン・キニクに代わって答えたのは、柔らかな笑みを浮かべたアイリス・トーリだった。普段とは違う神々しい雰囲気だ。


「へ、へぇ、知らなかった」


「当然だ。トレイトン星系の者しか知らぬことだ」


「ちょ、そんなことをここで喋ってもいいのかよ?」


 俺が慌ててそう尋ねると、彼女はいつもの表情に戻った。


「トレイトン星系が守る情報は、そのうち権限なき者の記憶から消える。そう教えなかったか? スカタン!」


(聞いてねーよ)


「ふん、初耳だぜ。おまえ、まだ記憶のお片付けができてねぇのかよ」


「は? そ……くっ、私を子供扱いするなよ、スカタン!!」


(くくっ、おもしれー)


 ふんっとそっぽを向く彼女は、俺の目には、いつもの毒舌幼女に見えた。



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