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174、深き森 〜最低な告白

 バブリーなババァの叫びに、今度は俺が、椅子ごと転がりそうになった。ふざけているのかと思ったが、少し雰囲気が違う。


 そして、不安そうにうつむいたままの幼女……。力を抑えるためのアバターから、冥界神の青いオーラが少し漏れている。彼女が動揺している証拠だと感じた。


(告白しろって……ここでか?)


 レプリーは、俺と目が合うと力強く頷いた。


 なぜ、俺が転生させたゴブリンだった男に、背中を押されなきゃいけないんだ? 普通は逆だろ。俺は天界人で、レプリーは人間だ。しかも、俺がわざと研修を失敗するために……あっ、あぁ……。


 そうだな。確かにレプリーには、その権利がある。


 俺と彼女の出会いは、ゴブリンだったアイツを転生させるための、転生師としての研修だった。あの頃は、彼女が幼女アバターを身につけた大魔王だなんて知らなかったから、ただの毒舌なガキだと思っていた。


 レプリーは、俺と彼女との、繋がりのキッカケとなった魂だった。あのときのゴブリンだった男のキラキラとした笑顔に救われたのは、俺だけじゃないだろう。アイリス・トーリも、その後の行動から、レプリーを気にかけていたのだとわかる。


(これが、縁か)


 レプリーの存在が、俺と彼女を繋いでいたのかもしれない。この世界の奴らは、やたらと縁を気にする。音には縁が繋がるとか、いろいろと……あぁ、魂の転生システムを運用する上で、繋がりを引き継ぐことが重要なのかもしれないな。




「カオル、何か言いなよ。こういう待ち時間は嫌いだよ」


 痺れを切らしたバブリーなババァに、視線が集まった。すると、バツが悪そうに咳払いをしている。珍しい反応だな。こんな顔もするのか? あぁ、今は、ライールの皇帝ではなく、一人の女子の感覚なのか。女子……という歳ではないだろうが。


 レプリーは何も言わないが、彼の握りこぶしが感情を語っている。俺を応援してくれていることが伝わってくる。


(はぁ、なぜ、こんな場所で……)


 だが、まぁ、最適だとも言えるか。バブリーなババァの社長室は、メルキドロームが直撃しても耐えると言っていた。ここで話す言葉は、天界からの傍受は不可能だろう。



「あぁ、まぁ、なんだ……」


(くそっ、上手い言葉が出てこねぇ)



「気の利いた言葉を使おうとする必要なんてないだろ。どうせ、カオルにはそんなセンスは無いって、みんな知ってるよ」


 バブリーなババァからの邪魔が入った。普通、告白しろと言うなら、自分は退席するもんだろ。


 まぁ、見守りたいのかもしれない。彼女は、ずっと前に冥界に行ったんだからな。これまで長い間、アイリス・トーリを支えてきたのだろう。その繋がりは、天界やトレイトン星系の奴らがそれを無視できないほど、深いものだった。だから、彼女を引き離すために、シルバー星を創ったのだろう。



「アイリス・トーリ、いや、シダ・ガオウル。俺は、おまえのことを……どう思っているか、上手く言えねぇ」


「ちょっと、カオル、真面目に話しな」


「うるせーな、ババァ、邪魔すんなよ」


(あ、やべ……)


 思わず、反射的に反論した俺に、バブリーなババァはニヤッと不気味な笑みを見せた。怒らせたのか? まぁ、いいか。


 ふぅ〜っと息を吐く。すると、幼女アバターを身につけた彼女も、ふーっと息を吐いていた。


(コイツ、緊張してるのか?)


 そう考えた瞬間、俺の中でフッと何かが軽くなるような感じがした。そうだ、別に今更、良い言葉を並べる必要はない。



「俺は、転生塔で会ったアイさんを綺麗だと思った。女神よりも女神らしくて、転生塔の管理者の手伝いを始めたばかりだという初々しい雰囲気にも好感を抱いた。だが、俺は、外見だけで惚れたりはしない。あのときのアイさんのふとした何かが、俺の研修を担当した毒舌幼女に似ていたから、気になったんだ」


 アイリス・トーリは、微妙な顔をしている。この辺の俺の思考は、覗いていたから知っているだろう。


 俺がシルバー星に行って、バブリーなババァに胸を突き刺された後から、俺の思考は覗かれなくなったんだからな。



「冥界で死神に会ったとき、俺はトレイトン星系の文字を知らなかったから、何も恐れなかった。そして、冥界の門となる承諾をしたことになったようだ」


 アイリス・トーリは、口を開きかけたが、そのままへの字に結んでしまった。冥界に連れて行くときには、それが門となる……生け贄とすることだとは彼女は知らなかった。その弁解をしたかったのかもしれない。



「水竜リビノアに会い、そしてその導きにより森の賢者リィリィさんと話す中で、俺は自分の状況を知った。俺以上にリィリィさんが驚いていたから、俺は冷静でいられたのかもしれない」


(あっ、レプリーがいるが……まぁ、いいか)


 人間であるレプリーには聞かせるべきではないかもしれないが、バブリーなババァは動かない。あぁ、都合の悪い記憶は、後で消すつもりかもしれないな。


 気にせず、俺は話を続ける。


「俺が冥界の門となることで、シダ・ガオウルは冥界神になることができる。天界によって理不尽に殺され、そして何も引き継がないようにと、性別を変更して天界人に転生させられたおまえを、本来のあるべき姿に戻してやることができる。それは理不尽な死ではない。意味のある死だ。だから、俺はこれでいいと思った。俺が幽霊になったら、冥界神となるおまえとも普通に話せると思ったしな」


(げっ、何だよ……)


 アイリス・トーリの目からは、大粒の涙がポタポタと落ちていく。そんな顔をさせたいわけじゃない。俺は、おまえを笑顔にするために……くそっ。



「おまえ、本物の幼女みたいに泣いてんじゃねーぞ。俺がガキをいじめているみたいじゃねぇか」


(あぁ、違う。そうじゃねぇ!)


 こんなつまらない言葉じゃない。俺は、おまえに……。



「よかったぁ。じゃあ、結婚すれば良いんです。カオル様はアイちゃんのことが好きで、アイちゃんもカオル様のことが好きだから」


(なっ!?)


 ニコニコと満面の笑顔のレプリーの言葉に、俺は、救われた気がした。



「そうだな。じゃあ、おまえ、俺と結婚しろ」


 すると、幼女は、なぜか俺をキッと睨んだ。


「言い方! もっとまともな言い方ができないのか? このスカタン!!」


 そう言いつつも、彼女は安堵したような穏やかな表情をしていた。



今年も、残りわずかとなりました。

皆様、いつも読んでくださってありがとうございます♪

本来なら10月か11月くらいには完結予定だったのですが、秋の大不調で更新が止まり、その後はひどい更新頻度になってしまいました。ごめんなさい。

ゆるゆるペースですが、完結までのんびり走っていきたいと思っています。気長にお付き合いいただければ幸いです。

来年も、よろしくお願いします。

良いお年を♪(≧∇≦)


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