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173、深き森 〜ジレジレ

「ふぅん、なんだかまるでアイは、カオルに惚れているみたいなことを言ってるじゃないか」


 バブリーなババァが、とんでもないことを口にした。また、雷撃の……あれ? 彼女は、うつむき、そのまま黙ってしまった。


(は? マジか?)


「ちょ、バブ……じゃなくて、カオル姉さん。変なことを言わないでくださいよ。彼女が雷撃を放ったら、この劇場の音響機器が壊れるんですよね?」


 俺は、アイリス・トーリを擁護するつもりでそう言ったが、当の彼女は、不安げにチラッと一瞬だけ俺に視線を向けた。


(どうして泣きそうな顔をしてんだ?)


 まるで、俺の言葉に傷ついたかのような……。


「ふぅん、まどろっこしいねぇ。だが、私は、こういうすれ違い系でジレジレしてるドラマは嫌いじゃないんだよ」


 バブリーなババァは、またおかしなことを言っている。ドラマと言われても、アイリス・トーリにはわからないことだ。俺に対して何か言いたいらしい。


「ドラマなんて、この世界にはないでしょう?」


「ふふっ、こう言えばカオルが食いつくと思ってね。リィリィも、こういう色恋モノは好きらしいがね」


(意味不明だな)


 俺がため息をつくと、それを上回る大きなため息が返ってきた。


「カオル、あんた、タマついてんだろ? しゃんとしなよ!」


「はい? 意味不明なんですが?」


 即座に反論すると、バブリーなババァは、また大きなため息だ。一体、何が言いたいんだ?




「お待たせしました〜。アイちゃん、濡れタオルを温めてもらってきました。お手拭きに使ってください。えっと、服の汚れはどうしましょうか……」


(服より、顔じゃねぇの?)


「レプリー、そっちのタオル貸して」


「はい、どうぞ、カオル様」


 レプリーは、アイリス・トーリの様子の変化を敏感に察知したようだ。俺やバブリーなババァの顔をチラチラと見て、蒸気の出ている予備の濡れタオルを、ソッとテーブルに置いた。


「服より顔だろ。おまえ、完全に幼女だぜ?」


「誰が幼女だ!?」


(ちょっと元気が出たか)


「おまえしか居ねぇだろ。カレーでベチャベチャじゃねぇか」


 俺は、彼女の顔を温かいタオルで拭いてやった。熱かったのか、ビクッと一瞬、肩がはねていたようだが、気にしない。


(ったく、本物の幼女かよ)


 彼女は、されるがままになっていた。あぁ、俺の顔が父親に似ているからか。幼児期の遠い記憶を懐かしんでいるのかもしれない。



「レプリー、店のおしぼりは、冷たいタオルを使ってる?」


「へ? あ、はい。水で濡らしたタオルです」


 俺が、彼女の顔を拭きながら話しかけたためか、レプリーは、何か戸惑っているかのように目が泳いでいた。あぁ、アイリス・トーリが睨んでいるのか。


「こういうチビっ子もいるだろうから、熱いおしぼりを出すのもアリだと思うよ。特に食後はね」


「あぁ、なるほど、です。はい」


 そう返事しつつ、納得していない顔だ。いや、熱いおしぼりが難しいのか。このアツアツのタオルは、たぶんヒート魔法を使える人を探して、お願いしたのだろう。



「音響機器が作れるなら、おしぼり用の保温器も作れますよね? カオル姉さん」


「うん? あぁ、まぁね。だけど、タオルをグツグツの湯に放り込んだらいいだけだろ?」


(まぁ、その方が殺菌もできそうだが)


「おしぼりに、そんな時間かけてられませんよね。手が汚れる料理を扱う店には、あると便利ですよ」


「まぁ、オーナーがそう言うなら、考えてやってもいいが、その前に、ちゃんと言うべきことがあるだろ?」


(は? 何だ? 依頼の態度が悪いってことか?)


「おしぼり用の保温器を作っていただけますか?」


「カオル、何を言ってんだい? その前に言うことがあるだろ?」


 バブリーなババァは、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。俺には、彼女が何を企んでいるのか、さっぱりわからない。




「はぁ、さすがの私も、少しイライラしてきたねぇ。レプリーも、そう思うだろ?」


 バブリーなババァに突然話をふられて、レプリーは目をパチクリさせている。きっと頭の中は、高速回転中だ。


「えっと……」


「カオルとアイを見ていて、イライラしないかい? リィリィと、この間、話していたじゃないか」


「あぁ! えっと、僕はイライラはしません。でも、たぶん、カオル様もアイちゃんも不安なら、はっきりしておく方が良いと、森の賢者様が言ってました」


 森の賢者リィン・キニクが、レプリーと、俺達の話をしていたということか? まぁ、店をやっていて、話す機会も少なくないのだろうが。


「レプリー、なんだかカオルは、ピンときてないみたいだよ」


「えっ? あ、僕の話し方が悪いのですね、すみません。えっと、カオル様はアイちゃんのことが気になっていて、アイちゃんもカオル様のことが気になっているから、結婚すればいいと思います」


 ガタッ


 幼女が、なぜか椅子ごと転がっている。あぁ、立ちあがるときに俺を避けようとして、バランスを崩したのか。


(まるでコントだな)


「レプリー、突然、何を言ってんの? リィリィさんから、吹き込まれたんだね」


 俺は、幼女が無防備に転んだことに驚きつつ、見なかったことにしておいた。


「いえ、あの、僕も……村長の娘のララさんのことが気になっていて、ララさんも僕のことが気になっているような気がして……その……」


(あぁ、もうそういう時期か)


 レプリーは、村長の娘と結婚するのだったな。へぇ、恋愛結婚なのか。


「じゃあ、レプリーからララさんに、好意を伝えてみればいいんじゃないか? きっとララさんも喜ぶよ」


 俺がそう言うと、レプリーは目を輝かせた。


「はい! じゃ、今度会ったときにそう言ってみます。森の賢者様からも、身分の差は気にしなくていいと、アドバイスをいただきました。だけど不安で……。でもカオル様が、そう言ってくれたから、頑張って伝えてみます!」


「うん、頑張れ」


「はい!」


 ふっ、レプリーのこの顔、キラキラな目は、ゴブリンだった頃と何も変わらないな。コイツは本当に、心の綺麗な奴だ。



「カオル、自分の胸に手をあててみな」


「はい? 何ですか? カオル姉さん」


「今、自分が言ったことだろう? さっさとアイに告白しなって言ってんだよ! おまえは、自分の命をしてでも、アイの幸せを願ってるんだろ」



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