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169、深き森 〜ライールの皇帝の劇場を視察

 レプリーの案内で、俺達は、バブリーなババァの劇場に移動した。今回は転移魔法は使わずに徒歩だ。もう一つの劇場は、まるで対抗するかのように、真横に建てられている。


 リィン・キニクに、なぜアイドルが冥界の青い門を出現させる要因の一つなのかを尋ねたら、もうひとつの劇場に行けばわかると言われたためだ。


 アイリス・トーリは、アイドル自体がわかっていないから、上手く説明できないと言っていた。ただ、なぜか均衡がもたらされたらしいとは言っていたのだが。


(わざと、俺をらしているのか?)




 バブリーなババァの劇場は、入場料が必要だと言っていたが、ほとんどの客は、何かを見せてそのまま入っていく。


「カオルさん、僕は入場許可証があるので、これで皆さん、入れます」


 そう言ってレプリーが見せたカードには、個性的な漢字で入場許可証と書いてある。あれは、バブリーなババァの自筆なのだろうか。


(なぜ、日本語なんだ?)


 寿司屋にも、変な海賊旗のようなものを掲げていたから、彼女の好みなのかもしれない。



「耳を塞いでおく方が良いぞ」


 俺達は、少し劇場を覗くことになった。リィン・キニクの劇場とは違って、暗くて狭い。毒舌幼女の毒舌が炸裂かと思った瞬間、目に突き刺さるような強い照明と同時に身体に圧を感じた。ライブやコンサートに行ったときのような、重低音が身体に響いてくる。


(これ、なんだっけ?)


 キュインキュインと、ギターが鳴いている。そして何より、めちゃくちゃ派手なボーカルが、頭を振りながらの絶叫だ。 


(なるほど、だから耳を塞げと言ったのか)


 アイリス・トーリは、両手で耳を塞いでいる。その仕草は、本物の幼女のようだな。



 キャーキャー!


「ツー様ぁ、こっち向いて〜」


「ロオンさま〜! キャーッ!!」


 曲が終わると、客席から大歓声だ。


(は? 変な歓声だな)


 舞台にいるバンドメンバーは、全員人間のように見える。そして、興奮した観客席では、濃いマナがあちこちで渦巻いている。


 明らかに力のある魔族達が、最も格下だとして卑下していた人間を、まさかの様呼びだ。



「やかましくて耳が潰れそうだ。何が楽しいのか、私には全く理解できない」


 幼女は耳を塞いだまま、俺にそう叫ぶ。彼女は念話も使えるのに、なぜ叫ぶんだ? あぁ、この濃いマナのせいか。


「ロックは、この世界にはないからな」


「カオル姉さんは、メタルだと言っていたぞ」


「メタル? あー、ヘビメタってやつか。海外のアーティストっぽいもんな」


「かいがい?」


「あー、いや、前世で俺が生まれた国は島国でな。周りを海に囲まれいるから、他国のことは海外と言うんだと思う」


「ふぅん。もう無理だ、行くぞ。案内役は、どこへ行った?」


(さっきまで居たのにな。はい?)



「レプリーなら、なぜか舞台だぜ。見えるか?」


 俺が指差すと、彼女はその場で飛び上がっている。もしかして、この濃いマナが渦巻くことで、魔法が使えない状態なのかもしれない。


 手に氷を出してみようと意識すると……氷は普通に出てくる。だが、それを空中に浮かせようとすると、床にポトリと落ちた。


(制御不能か)


 気合いを入れれば何とかなりそうだが……。



 観客が移動していく。このホールには、ステージが複数あるらしい。俺達が立っていた場所のすぐ近くのステージに、レプリーの姿を見つけた。


 レプリーは黒服を着ているから、なんだか場違いに見える。さっきの派手なボーカルとは対照的だ。



「皆さん、こんにちは。飛び入り参加のレプリーです。一曲、聴いてください」


 レプリーはそう言うと、ピアノらしき物に向かっていく。そして、聞いたことのあるような、美しい旋律のクラシックをひき始めた。


(どうなってんだ?)


 ピアノの演奏は、アイリス・トーリにも心地良いらしい。彼女は、目をキラキラと輝かせている。


 それは、彼女だけではない。ホールにいる半数以上が、レプリーの演奏にうっとりと聴き惚れているようだ。特に、男がうっとりしている。あぁ、アイリス・トーリは、シダ・ガオウル。元は、男だったな。


 演奏が終わると、さっきのバンドとは違って、歓声の代わりに、大きな拍手がおくられている。レプリーは、礼儀正しく礼をすると、ふわりと微笑んだ。上手く演奏できたことで、安堵しているようだ。



 今度は別のステージから、明るい雰囲気のイントロが聞こえてきた。ステージの上には誰もいない。


(あっ、転移か? いや違う)


 ステージは、床に仕掛けがあるのだろう。下からぴょんと飛び出すように、数人の人間が現れた。さっきのバンドよりも若いな。


「わっ! 何? 初めて見るわ」


「なんだか、キュートね」


 彼らの見た目は、典型的なアイドルのようだ。歌は上手いとは言えないが、振り付けはバッチリ揃っている。


(聞いたことのあるような曲だが)


 アイリス・トーリは、優しい笑顔だ。さっきは、すぐに出ようとしていたのに、楽しんでいるみたいだな。


「皆さん、初めまして。僕達は、本日が初舞台のリュームというグループです。よろしくお願いします!」


 曲が終わると、リーダーらしき人が挨拶をした後、全員一斉にクルッと回ってお辞儀をしている。


「初舞台なのぉ? 応援グッズを買うわ」


「私も、帰りに買ってあげるね」


 観客席からそんな声がかかった。


「あ、ありがとうございます! 初舞台記念のうちわしか販売していませんが、リュームをよろしくお願いします!」


 再びリーダーらしき人が挨拶すると、皆、一斉に勢いよく頭を下げた。そして、緊張した不自然な笑顔で、スーッと下に降りていく。床は昇降機みたいな感じか。



 部屋の照明が明るくなってきた。すると、観客は、皆、出入り口の方を向いた。だが、帰る気配はない。


(次は何が始まるんだ?)


「皆様、ここでいったん清掃に入らせていただきます。清掃員は、まだ舞台を経験していないアイドルの卵達です。喫茶室を開店しました。清掃が終わるまで、お茶と軽食をどうぞ」


 司会らしき人が、そう案内しても、誰も動かない。扉が開き、給食当番のような割烹着を着た子供達が入ってくると、観客達は彼らに注目している。


(ふぅん、新人を見せている、ってことか)



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