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168、深き森 〜リィン・キニクの劇場視察

「あら、カオルちゃん、アイちゃん! レプリーちゃんが案内役なのね〜」


(今日は、ちゃん呼びかよ)


「はい、僕が案内役です」


 レプリーは、レプリーちゃんと呼ばれても、全く動じない。ほんと、成長したよな。もうこの世界では成人か。



 転移魔法陣は、楽屋らしき場所に繋がっていた。彼女は初めて来たのか、物珍しそうにキョロキョロしている。


「リィリィさん、長い間、すみません。天界で捕まってました」


「まぁっ、カオルちゃんは、どこに行ってもモテるのねぇ」


(は? コイツ、天然か?)


「リィン・キニク、何を言っている? コイツは、トレイトン星系の奴らに監禁されていたんだぞ」


「ええっ? 本当に捕まってたのぉ?」


(なんだか、めちゃくちゃ女子化してねーか?)


 森の賢者リィン・キニクは、元々、中性的な雰囲気だったが、今は、はっきり言って女性に見える。前世では女性だったらしいが、今の性別は男のはずだが。


「はぁ。そんなことより、リィリィさん。なんだか雰囲気が変わりましたね」


「ふふっ、そうでしょう? この劇場を作ってから、毎日が楽しいもの。カオル姉さんも、私に対抗して劇場を作ったのよ」


 二人は、別の劇場を経営していると、彼女がさっき話していたばかりだ。バブリーなババァの方の演者は男で、リィン・キニクの劇場の演者は女だとか言ってたな。



「劇場、ですか」


「ええ、カオルちゃんとしては懐かしい雰囲気でしょ。アイちゃんは楽屋に来るのは初めてかしら? カオル姉さんは、よく偵察に来るのよぉ〜」


(懐かしいだと?)


「俺は、劇場なんか行ったことがないから、懐かしいとは思わないですけど」


「あら、そうなの? あっ、劇が終わるわ。少し端に寄ってくださる? ここは楽屋の通路なのよ〜」


 いろいろな道具らしきものが置いてある細長い部屋だと思っていたが、通路なのか。かなり幅の広い通路だな。



 パッと、部屋の扉が開いたように見えた。いや、通路に面する部屋の扉か。


(は? アイドル?)


 扉の先から、たくさんの着飾った女子が出てきた。12〜15歳くらいだろうか。みんな、それぞれ着ている服は違う。何というか、アイドルのステージ衣装のように見えた。


「リィリィさん! 行ってまいります!」


 皆が声を揃えて、リィン・キニクに声をかけた。


 俺としては彼女達の態度に、少し違和感を感じた。彼女達は、皆、人間のようだ。これまで人間は、リィン・キニクのことは森の賢者様と呼び、崇拝していたはずだ。


「はぁい、みんな、かわいいわよ〜。いってらっしゃい」


 リィン・キニクがそう言葉を返すと、皆、ニコニコと手を振っている。なんだか、普通の女子じゃねーか。



 そして、彼女達と入れ替わるように戻ってきたのは、劇をしていた演者らしい。派手なメイクに貴族のような衣装。まるで、某有名な歌劇団のようだ。


「わぁっ、リィリィさん、こんにちは〜。あっ、カオルさま?」


「みんな、お疲れ様ぁ。そうよぉ〜、オーナーのカオルくんよぉ」


「カオルさま〜っ! お会いできて嬉しいです」


 ハイテンションで手を振られても困る。俺は一応、軽く手をあげて返事を返すと……。


「きゃあ〜、渋いわぁ」


「素敵ね、カッコいい〜」


(は? 俺は暗殺者みたいで怖くねぇのか?)


「みんな、お客様が待ってるわよぉ。お土産の物販に行ってきてちょうだい」


「はぁい、いってきますぅ」


 俺達の前を通って、彼女達は通路を進んでいく。通路の突き当たりの扉が開いた。すると、ワッと歓声があがる。あの先に、土産の販売所があるらしい。



「リィリィさん、なんだか、彼女達は某歌劇団みたいな感じでしたね」


「ふふっ、そうなのよぉ。男装した男役が特に人気が高いわ。劇が終わった後の出口で限定グッズ販売をしてるの。主役クラスだと1回の物販で、金貨100枚ほど稼ぐのよ」


「ええっ? 金貨100枚? 1億円ですか」


「そうねぇ。銅貨1枚は100円くらいで、銅貨100枚は銀貨1枚、銀貨100枚は金貨1枚だから、確かに1億円ね〜。物販の半分は、演者の取り分なの」


「そんなに?」


「ふふっ、いい感じでしょ。残り半分からグッズの製造代を差し引いた分が、劇場の儲けね。これで、演者やスタッフへの給料を払ってるの」


「入場料は取ってないんですか」


「カオル姉さんのとこは、入場料を取ってるわよ。だけど、私のところは無料よ。その代わり、演目ごとに観客は強制的に入れ替えているわ」


「つまり、強制的にグッズ販売所へ誘導するのですね」


「うふふ、正解よっ。入場料を取らないことで、初めての人の取り込みが簡単なのよ〜。そして、上級魔族はプライドが高いから、誰かが高いグッズを買うと、対抗心が凄いの。そういうのを煽るのは、同族の得意とするところよ」


(ハーフエルフって恐ろしい)


 そうか、寿司屋で休憩していた森の賢者は、煽り係なのか。相手の思考を覗くことができるし、長い時を生きているから種族ごとの特徴を熟知しているのだろう。



「なぜ、煽られて高いグッズを買うのか、私には全く理解できない。森の賢者が、呪いに弱い魔族を洗脳でもしているのだろう」


(毒舌幼女は、毒舌全開だな)


「アイちゃん、それは違うわ。洗脳ならすぐに解けちゃうじゃない。あーん、どう説明しても理解できないのね。あっ、物販の部屋には、今の演目を映しているから、カオルくんと一緒に観てみてよ」


 リィン・キニクに合図され、レプリーが頷いている。



「物販の方へご案内します」


 レプリーは、歌劇団風の演者が出て行ったのとは別の扉を開けた。彼についていくと、観客の通路の方に出たようだ。


(迷路のような通路だな)




 明るく広い通路の一部に大量の魔族が集まっている。そして、大型のスクリーンから流れている音楽。今の舞台を映しているのか。


「おわっ、テファちゃんの演目が始まってしまう。早く劇場に入らないと、グッズが買えない!」


「はぁぁ、ユミンちゃんは可愛いなぁ」


 スクリーンを眺めている魔族も多い。慌てて、出口に駆け出す人もいる。今は、アイドルのステージのようだ。



「やはり、皆、洗脳されているとしか思えない。人間が歌って踊ることが、なぜ見せ物になるんだ?」


「あぁ、まぁ、アイドルにハマるとこうなるんだよ。もしかして、カオル姉さんの方は、男性アイドルか?」


「アイドル? 理解不能だ。だが、これこそが、冥界の青い門を出現させる要因にの一つになっているらしい」


 アイリス・トーリは、首を傾げていた。俺も、彼女の言葉に首を傾げるしかなかった。


(アイドルが冥界の青い門を出現させた?)


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