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165、冥界 〜知の門と血の門

「青い門が開いたのは、その条件を満たしたからだ」


 冥界神となった彼女は、俺がわからないことを面白がっているようだ。新人転生師である俺には、まだほとんど知る権限がないのだから、知らないのは当たり前のことだろ。


 俺がそう考えていると、彼女はニヤニヤと悪ガキのような笑みを浮かべている。冥界の中では、俺が考えたことを覗けるのが嬉しいのだろう。


(楽しそうだから、まぁ、いいか)



『均衡がもたらされるとき、その門が現れる。これはブロンズ星の精霊に、トーリ・ガオウル様が託されたお言葉だ。門を開くための鍵である森の賢者も、精霊からこの言葉を教えられているはずだ』


 死神が、再び語り始めた。冥界神となった彼女の、記憶の整理を助ける意図もあるのだろうか。


「冥界の門は、青い門以外に何色の門があるんだ?」


 俺がそう尋ねると、死神は怪訝な顔をしたように見えた。


『冥界へ繋がる門は、青い門以外は特別な色はない。すべて血の門だ。開くたびに冥界は朱に染まる』


(血の門? 赤い門ってことか?)


 いや、違うな。種族によって血の色は異なる。


『閉じた門を開くには、生けにえが必要なのだ。だから、血の門と呼ばれる。だが、冥界の門には一つだけ、知の門がある。それを出現させるための言葉は、先程教えた通りだ。均衡がもたらされることが、知の門が現れる条件だ』


(均衡って、何なんだよ?)



 死神が、生け贄という言葉を使ったとき、彼女の表情から笑みが消えた。俺が魂に刻まれたモノの意味を察したのか。彼女は、死神に鋭い視線を向けている。


「爺、まさか、アウン・コークンを生け贄にしようとしたのではないだろうな? 私が世話をしている新人転生師だと知っていたはずだが?」


(彼女は、何も知らなかったのか)


 確かに、リィン・キニクが言っていたように、俺が天界に捕まる前は何も知らなかったようだが、冥界神となった今も……だから、さっき、死神がカオルの名を持つ者の覚悟とか言ってたのか。


『それは、シダ様が彼をワシの元へ連れて来られたとき、彼自身が選択したこと。彼は拒絶しなかったから、魂に我が主人の印が刻まれたのです』


「嘘を言うなよ、死神」


「ワシがシダ様に嘘をつくわけがありません」


「嘘だ! 騙されないぞ、爺!」


(嘘発見器がいるのを忘れてねーか?)


 俺がそう考えると、彼女はハッとした顔をした。やはり、忘れていたらしいな。青い影は、嘘に反応する。奴らが何も騒がないということは、死神の言葉に嘘がないということだ。



「爺、さっきのカオルの名を持つ者の覚悟とは、彼の消滅のことか。私は、そんなことを望んでいない。私は、このスカタンを犠牲にしてまで冥界神になろうとは、一度も考えたことはない。そんな私の意思を知っていたはずだろ? それなのに、爺は……」


(ヤバイな、こいつ)


 彼女は、怒りからか、ますます透き通ってきた。そして半端ないオーラが漏れている。怒りを向けられた死神だけでなく、俺も嫌な汗が出てきた。



「おい、おまえ、なんか透き通ってるぞ。ちょっと落ち着け」


「は? 私は冷静だ。この死神が、新人転生師を騙して冥界の門を開こうとしたのだ。私の意思に反してこんなこと……許されることではない。死神は殺しても死なないが、私なら消滅させることができる」


(おいおい……)


 彼女の怒りに触れ、死神は何も言わなくなった。いや、何も言えなくなったのか。



「おまえなー、いきなり暴君っぷりを発揮してんじゃねぇぞ。俺は、確かに驚いたが、それで構わないと思った。おまえが記憶を取り戻し、冥界神となることができるなら、俺の死は、理不尽な無駄死にではない。意味のある死だ」


「は? 何を言っているんだ、スカタン」


「俺は、おまえに惚れてるって言ってんだよ、クソガキ」


「ふぇっ!?」


(変な言い方をしてしまったな)


 彼女は、予想外のことだったのか、わちゃわちゃと手を動かしている。俺の気持ちは知っていたはずなのに、何を慌てているんだろう。


(ふっ、おもしれー)


「俺が、嘘発見器のある場所で話したかったのは、このことだ。だが、変な言い方になってしまった。おまえの感覚が、シダ・ガオウルなら、俺の言葉は気持ち悪いだろうが……」


「い、いや……」


(嫌がられたか?)


 彼女は、それ以上言葉を発しない。


「俺は、冥界神となったおまえを支える。おまえの感覚が男だろうが女だろうが、それは変わらない。あぁ、俺がこんな風に考えていたから、青い門が現れたのかな」


 そう話すと、彼女は首を横に振っている。


(どういう意味の否定だ?)



『知の門が出現したのは、おまえの思考とは関係ない。いや、大いに関係あるか……』


(どっちなんだよ?)


 死神は、彼女の顔色を気にしながら、言葉を選んでいるようだ。


「爺の言う通り、おまえの思考が大いに関係している。知の門が現れたのは、ブロンズ星の住人に均衡がもたらされたからだろう」


 彼女は、まだ動揺しているような表情をしていたが、死神の意味不明な言葉を、そう追加説明した。


「ブロンズ星の住人の均衡って、何なんだ?」


 一瞬、俺のオリジナル魔法で洗脳したからかとも思ったが、アレは、門が現れた後のことだ。


「人間が奴隷ではなくなったのだ。おまえの店の繁盛によって、街道沿いには人間が集まってきている。そして、カオル姉さんが、高い給料を支払っているからな」


「えっ? 人間が奴隷じゃないから? は?」


 彼女が何を言っているのか、俺には理解ができなかった。確かに人間の奴隷紋は、俺がかなりの数、消し去った。だが、そのときには、門は出現しなかったが?


「口で説明しても、実際に見ないと理解できないだろう。私も、信じられないことだ」


 彼女は、チラッと死神に視線を移した。すると、死神は、うやうやしく彼女に頭を下げた。


(念話か?)



「とりあえず、街道沿いの店に行くぞ。あぁ、それから、あの里にも行かねばな」


「あの里? 魔王クースの生まれる集落か」


「あぁ、あの里が、私の領地だ。おまえに譲渡する」


「いやいや、あの集落が天界に狙われないように深い森を買ったが、別に、俺は、魔王クースを支配するつもりはない」


 俺がそう言い返すと、彼女はニヤリと笑った。


「さっき、私を支えると言ったではないか。おまえに、大魔王の地位を譲る。大魔王は、ブロンズ星の現界と冥界との境を守るのが仕事だ。ほれ、行くぞ」


(は? 何だと?)


 彼女がパチンと指を弾くと、目に見えるものがグニャリと歪んだ。


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