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161、天界 〜カオル固有のオリジナル魔法

『警戒してください! 警戒してください! 経理塔に異常な魔力反応! 警戒してください! 警戒してください!』


 トレイトン星系から来た女の、とんでもない魔力に、塔が揺れている。俺を夢幻牢に閉じ込めるほど力があるくせに、水竜に異様に怯えて、その手に魔力を集めている状態だ。


(なぜ、そんなに怯える?)


 それほど水竜は、恐ろしい存在なのか。あの水竜は、古の魔王トーリが従えていたという。あぁ、魔王になる前の、冥界神トーリ・ガオウルのときか。


 冥界神トーリ・ガオウルの後継者である息子を殺し、彼をも滅ぼしたのは、天界とトレイトン星系の者だ。だから、水竜の恨みを買っているのかもしれないな。


 だが、あの女の素性は知らないが、ここにいる初老の男、賢者ガオウルは、トーリ・ガオウルを自分の息子だと言った。水竜は、自分の主人だった者の父親だと認識しているように見える。


 そんな賢者ガオウルの関係者が、水竜を恐れて……異常な魔力を集めている。


(あの女の方が、脅威じゃねぇのか?)



「水竜リビノア、この術を解け。上下の感覚や足場を奪うと、エメルダは魔力制御ができない」


 賢者ガオウルがそう言うと、水竜があざわらっているような気配を感じた。水竜は、その姿を見せない。俺は手に持つ死神の鎌にさらに魔力を込めた。


(あっ、この場所がすべてか)


 俺の目には、手に魔力を集める女と、賢者ガオウル、そして、規則正しく揺れる膜のような何かが見えている。


 俺の予想が正しければ、俺は……いや、経理塔のこのフロア全体が、水竜の身体の中なのではないかと感じた。それなら、姿など見えるわけがない。そして、トレイトン星系のあの女が異常な魔力を手に集めている理由も、わかる気がした。



『ククッ、少し違うな。だが結論は合っている。ワシの水を寄せ付けぬ炎を、我が主人は持っていた。カオルは、ワシの水に溶け込んでくる。ふふっ、面白いものよ』


(は? 何の話だ?)


 結論なんて、俺はまだ何も導いていない。ただ、あの女の魔力の振動が激しくなってきて、ヤバそうなことだけは、明らかだ。



「水竜リビノア! 昔話を語って何になる? 直ちに術を解け! 手遅れになるぞ」


 賢者ガオウルの声に、焦りが混ざってきた。室内であんなにも異常な魔力を暴走させると、確実に経理塔は吹き飛ぶだろう。おそらく、通常の天界人が持つ魔力量の何十倍か。


(笑うしかねぇな)


 俺は、もう危機感さえ感じなくなっていた。圧倒的なモノに遭遇すると、思考は停止するのだろう。じゃなきゃ、頭がショートしてしまう。



『警戒してください! 警戒してください! 経理塔に膨大な異常な異質な魔力反応! 警戒してください! 警戒してください! 避難してください!』


(あっ、避難に変わった)


 無機質な声も、あの女が集めるエネルギーに、思考停止したみたいだな。



「水竜リビノア! 猶予はない! 即、術を解け!」


 賢者ガオウルが黒い雷撃のようなものを放った。だが、揺れる膜には何のダメージもなさそうだ。


「きゃぁぁ、もう、限界ですぅ。賢者ガオウル様、避けてください!」


(爺さんは見えてないのに避けれるかよ)



 とんでもないエネルギーの塊が、賢者ガオウルに真っ直ぐに飛んでいく。


「おい! 爺さんに直撃だと言って……くそっ」


 俺は、死神の鎌を構え、賢者ガオウルと魔力弾の間に移動した。


(うっ、嘘だろ)


 なぜ初老の男を助けるような行動をとったのか、自分でも理解できない。なぜか、自然に身体が動いてしまった。



 ギュルルルルルルルルルルルルッ!



 死神の鎌は、魔力を纏うことができる。斬り捨てることもできるはずだ。だが尋常じゃない、こんなあり得ないエネルギーは、なぜか俺が持つ鎌に絡まりついている。


(エサとして食えるか?)


 いや、放たれた魔力弾を、鎌が食えるとは思えない。


(くっ、しびれてきた)


 とんでもないエネルギーを、受け止め続けることは不可能だ。だが、打ち返すとあの女が死ぬ予感がする。



『カオル、言ってやるがよい。自惚れた馬鹿は、痛い目に遭わないと理解できぬ』


(水竜リビノアが煽ってきやがる)


 だが、そうだな。このまま、あの女のせいで爆死だなんて、あまりにも理不尽すぎる。



「おい、おまえ! 何をやってんだ! トレイトン星系の奴らは、神よりも上だとか、偉そうにほざいていたくせに、水竜にビビって天界をぶっ壊す気か」


「ふぇぇえ〜」


(は? ふざけやがって)


 まさか、天界人は死ぬけどトレイトン星系の奴らは、こんなエネルギー弾が爆発しても、死なないのか。


(その根性、叩き直してやる!)



『おまえなー! ふぇぇえじゃねーだろ。俺が耐えられなくなったら、経理塔はぶっ飛ぶぞ。俺の背後には転生塔だってある……』


(そうだ、幼女は今どこだ?)


 冥界の門が出現して、水竜が出てきて……もし、アイツが幼女アバターを着て、転生塔にいるなら……もしかして、あの女は、アイツを狙ってこの魔力弾を撃った?


(くそっ!)


『トレイトン星系か何だか知らねぇが、おまえら、人の命をなんだと思ってんだよ。おまえらも、ブロンズ星にいる奴隷扱いされている人間も、同じ命だろ。何に生まれたかじゃなくて、どう生きるかが大切なんじゃねーのか!』


(あれ? 俺の声……なんだか響いてねぇか?)


 それに、手に感じていた強いエネルギー弾が変質している? キラキラと輝く水のように……あっ、俺のクリーニング屋魔法か。


 そう意識すると、キラキラとした水のような光は、俺の鎌の中へと吸い込まれていく。


(俺が、あの女の魔力を制御している?)


 いや、違う。水竜の力か。水竜の膜の中にいて、そして俺は、溶け込んでいるとか何とか言ってたな。



『カオル、続きはどうした?』


 水竜の声が頭に響いてきた。

 


 そうだ! 今、天界とブロンズ星には時差はない。同じ時空に存在する。それなら、続きは……。



『この声を聞く者に告ぐ! すべての命は等しく尊い。今を生きろ。核の格を上げようとして死に急ぐことは、愚かなことだ。どう生まれたかは関係ない。どう生きるかを考えろ。最期に楽しかったと笑う奴が、真の勝者だ!』


 俺はそう言うと、鎌を大きく振るった。


(ブロンズ星に届け!!)



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