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157、天界 〜理不尽な拘束

『カオル、生け贄になれと書いてあるよ。時間の制限もあるね。記憶を維持して地上に戻ってから5日後に、キミの核を使って門を出現させるって。地上に戻るときに、キミの核に門となる刻印が刻まれたみたいだね』


 突然の強い光に包まれた瞬間、森の精霊主が幾何学模様の文字を読み上げたときの言葉が、頭によみがえってきた。


(何だ? 何をされた?)


 振り返ると、凛とした声の主の姿が見えた。見たことのない女性だが、この感じは知っている。絶対に敵わないと絶望させる威圧感……。



「カオルというのは、貴方のことですか? アウン・コークンさん」


「今、俺に何をしたんだ?」


「貴方の心の深層部にある言葉を再生しただけですよ。アウン・コークンさん、ブロンズ星の時間で10日ほど姿を消していたそうですね。やはり、冥界に行っていましたか」


(コイツ……)


 いや、下手なことは考えない方がいい。おそらく俺の考えは覗かれる。


「俺を監視していたのですか? 天界は。いや、ゴールド星の情報管理局? いずれにしても、トレイトン星の方ですよね」


「いろいろと知っているようですね。アウン・コークンさんには、知る権限はないはずだけど? 姿を見せなかった10日間も冥界に行っていたということは、単独ではないわね。案内人は誰かしら?」


(どこまで見えている?)


「俺は、魔力切れで森に引きこもっていただけだが?」


「魔力切れ? うーん、精霊が邪魔をするのは、どういうことかしら。森の賢者に会わせるわけにはいかないわね」


(精霊が邪魔をしている?)


 彼女は、何かの術を使っているようだな。だが、知りたい情報が得られないのか? 麦畑で遭遇した幽霊みたいな人よりも、能力が低いのかもしれない。


 いや、あの後、俺はいろいろなことを知ったからか。



「アウン・コークンさんは、私の手には負えないわ。悪いけど、拘束させてもらうわね」


(は?)


 避ける間もなく、俺は青い光に包まれた。抵抗は無駄だと直感した。トレイトン星の奴らは、天界人をはるかに上回る。だが、法治国家だよな? こんな理不尽なことをしてもいいのか。


 光が収まってくると、俺は青いおりの中にいた。経理塔に居たはずなのに、真っ白な部屋だ。亜空間を作り出したのか?



「彼は何をしたのですか! 罪人のような扱いはやめてください。経理塔に何の恨みがあるのですか」


(声は聞こえる)


 今の声は、経理塔の俺の担当者だ。周りも、ガヤガヤと騒がしい。俺は、経理塔からどこかへ動かされたわけではないようだ。この声が幻術でなければ、の話だが……。



「あら、貴方は……プラスさんには、まだ権限がないようね。アウン・コークンさんは、監視対象になっています。天界の安全を揺るがしかねないのですよ」


「こうしている間にも、アウン・コークンさんに次の同意を頂かないといけなくなりました。彼を解放してください。彼のような新人転生師を、夢幻牢に入れる必要がありますか!」


(夢幻牢?)


「プラスさん、騒がないでください。彼の目には何も映っていないでしょうけど、大きな声は届いてしまいますよ」


 この声は、俺がさっき話していた営業スマイルの男だ。どうやら、この男が、トレイトン星の女性を呼んだらしいな。


 夢幻牢について女神からの知識を探すと、天界人を捕獲する投げ牢らしい。どんな力を持つ天界人も、その場に拘束することができる光の牢屋らしい。


(なんだ、ただの目隠し牢か)


 外から見れば、ただの檻に見えるようだ。だが、囚われている者の目には何も映らないから、外にいる奴らが罪人に見られる心配はないらしい。


 天界人は、一度見たモノは完全に記憶するから、目隠し牢? そんなものに意味があるのか?


 声を通してしまうのは、視覚を封じることに特化することで檻の強度を最大限に引き上げているようだな。


 檻に触れてみると、魔力をグンと吸収される。



「アウン・コークンさん、聞こえますか?」


「聞こえるけど、音が反響するからどこから聞こえているか、わからないな」


「アウン・コークンさん! 聞こえますか!?」


(は? こっちの声は聞こえないのか?)


「プラスさん、アウン・コークンさんは記憶を読まれないように自衛しているんですよ。彼を守る精霊が、声の伝達を阻害している状態です。彼が普通じゃないとわかりますよね?」


 ハッと息をのむような音が聞こえる。だが、今の説明はおかしい。女神の知識では、これは視覚に特化した檻で、外からは中にいる者の姿は見えるし、こっちの声も聞こえるはずだ。


(あー、怖れているのか)


 俺に与えられているオリジナル魔法……クリーニング屋魔法は、すべてを洗い流すのだったな。初めて使ったとき、俺が発した言葉でムルグウ国の内乱が止まった。


 すなわち俺の言葉は、その気になれば、強力な洗脳ができてしまう。


 だから、トレイトン星の女性は、さらに術をかけたのだろう。俺にではなく、経理塔のフロアにいる全員に、俺の言葉が聞こえないように……。



「アウン・コークンさん! 聞こえますよね? 貴方を担当するプラスです! ブロンズ星の口座の件は、人物株を出資された方々にご意見を伺ってきます! 了承が得られたら、アウン・コークンさんのお申し出の通りに、店長による出金ができるように致します! ご安心ください!」


(めちゃくちゃ大声だな)


 俺は、大きく頷いてみせた。


「あぁ、よかった! 聞こえたのですね。直ちに、人物株の出資者に連絡を取ります。アウン・コークンさんが、夢幻牢に囚われたことも伝えましょうか?」


(は? いや、それはダメだな)


 そんなことをすると、バブリーなババァがメルキドロームを使うかもしれない。


 俺は、首を横に振った。


「わかりました! では夢幻牢の件は内密にしておきます。こうしている間にも、ブロンズ星はどんどん時間が流れてしまいますね。直ちに連絡します!」


 そう言うと、彼が離れたような気がした。気配も何もわからないが、なんとなく伝わってくる。


(ふっ、いい奴かもな)



「最低でも、5日間は、ここにいてもらいますよ」


 トレイトン星の女性の言葉は、俺の心をどん底に突き落とした。



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