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156、天界 〜経理塔にて特産株を発行する

 俺は、バブリーなババァに任せて、経理塔の男と一緒に、天界へと戻った。いや、戻ったというより、天界に来たという感覚だ。


「おお! アウン・コークンさん、ありがとうございます! 貴方の領地の森の特産株を待つ予約が、この10分で凄まじいことになっています」


(は? 10分?)


 いや、この10分と言ったか。俺が、人物株を発行するためにここに来てから、まだ10分しか経ってないのかと思った。


 だが、このフロアにいるメンバーは、あまり変化はない。この男も同じ服を着ているから、天界時間で同日なのは確かだ。



「アウン・コークンさん、こちらを確認ください。一応、最低価格の1株5ポイントで、特産株を発行します。初回の発行株数は、1万株でいかがでしょう」


(そんなに売れるのか?)


 1株500円で1万株ってことは、500万円だ。


 俺を経理塔に連れてきた男が、画面を見せてきた。彼が俺の担当だったか。


「俺はわからないので、任せますよ。特産品についての記載が漏れていますね。特産品は、街道沿いの店の飲食券にしてください。発券も、経理塔に任せますよ」


「えっ? もう特産品のことを決めておくのですか? 特産品は、天界時間で15日後までに決めていただいたらいいですよ?」


(そんな頃まで俺は生きてねーよ)


「特産株を100枚以上買ってくれた人には、買ってくれた日から、天界時間で毎日1枚飲食券を渡してください。そうだな、1名飲食無料で同行者は半額にしますよ」


「なぜ、そんなにサービスをするのですか」


 経理塔の男は、怪訝な顔だ。


 そういえば、俺が転生してきたことで、天界は冥界神の復活が近いと危険視しているのだったか。俺の変化を、何か察知されたのだろうか。


「店を知ってもらうためですよ。それと、店員に暴行する人がいれば、特産株を返却してもらいます。店では単純に料理を楽しんでもらいたい。特記事項に記載しておいてください」


「は、はい。わかりました。なんというか威圧的な特記事項ですが……」


「構いません。教育した店員が殺されると、俺の損失になるので」 


 損失という言葉を使うと、彼は軽く頷いた。


「では、これで発行します。この特記事項のせいで、株価は期待できないかもしれませんから、買い手は付くかな……」


 ボソボソと何かを呟きつつ、担当者は、俺の領地の特産株を発行した。




「う、うわっ!」


 少し離れた場所で叫ぶ声が聞こえた。


「プラス! すぐに増やせ! 予約だけでも10万株以上あっただろ。1万株しか発行しないと暴動が起こる」


(俺の特産株か?)


 俺の近くにいた担当者は、慌てて画面を操作している。


「アウン・コークンさん、100万株にしてもいいでしょうか。様々な手数料は、今回は結構です。余った分は経理塔が買わせていただきますので」


(100倍かよ)


「お任せしますよ。特産品の手続きも経理塔にお願いしますので……」


「おい! プラス! 1000万株にしとけ! 店の評価を見てないのか!」


 別の場所から怒鳴る声が聞こえた。俺が視線を移すと、ハッとして、媚びたような笑みを浮かべる男。フロア長だろうか。



「じゃあ、俺はブロンズ星に戻るので、よろしくお願いしますね」


「は、はい、お任せください。ひゃぁ〜! もう900万株売れてます。ちょ、経理塔は……」


「プラス、残りの100万株をおさえた。ほんの20秒だったな。もう、相場が動いている。とんでもない勢いだ」


 経理塔の人達は、熱くなっているようだ。買い付けられた金は、ブロンズ星の通貨に替えて、俺の口座に振り込まれるようだ。


 人物株の莫大な資金もあるから、とんでもない金額だろう。


(あっ、そうだ)



 担当者は画面にかじりついているが……待つ時間が惜しい。


「あの、プラスさん、ブロンズ星の俺の口座なんですけど」


「あ、はいはい。えーっと、すみません、緑色のランプのとこにいる人に言ってもらえませんか。すみません、いま、ちょっとやばくて……」


(だろうな)



 俺は、指示された方に視線を移した。緑色のランプは、手が空いているという印らしい。


 話が聞こえていたらしく、一人が手をあげた。


「こちらで承ります。アウン・コークンさん」


 なんだかフロア全体が、俺を見る目が変わった気がする。俺の姿は、金に見えているんじゃないか?



「大したことじゃないんですが……」


 俺が近寄ると、手をあげていた男は営業スマイルを浮かべている。


「何なりとおっしゃってください。ブロンズ星のアウン・コークンさんの口座についてですね」


「はい、口座からの出金なんですけど、俺以外の人が引き出せるようにしてもらいたいんですよ」


 そう話すと、彼は怪訝な顔をした。まぁ、当たり前か。


「代理人でも、管理塔に行ってもらったら可能ですが? アイリス・トーリさんが一度、引き出されていますよ」


(は? 初耳だな)


「天界人だけしか、管理塔には入れませんよね? 店の経費のために、天界人がいちいち入出金をするのは大変なので、店長でも引き出せるようにしたいんですよ」


 女神の知識によると、人物株を買った出資者にしか、代理権はないらしい。だが、俺が居なくなると同時に、アイリス・トーリは冥界神になる。それに、バブリーなババァはシルバー星の住人だ。リィン・キニクは、門の鍵となる森の賢者。冥界神が復活すると、立場が変わるかもしれない。


 そんなことになれば、魔王スパークだけに金の管理を強いることになる。さすがに、それは気の毒だ。



「アウン・コークンさん、なぜ、そのような手続きをしたいのですか? 莫大な資金が預けられています。店員に任せるのはあまりにも危険ですよ」


 彼は、他の人に何か目配せをしていた。目配せをされた人は、スッと姿を消した。


「俺は、面倒な金の管理は、やりたくないんですよ。店のことは、店長に任せる方がいいでしょう?」


「いやいや、アウン・コークンさんの財産ですよ?」


「俺は、金の管理には向かないので」


 そう言ってみても、彼の表情は変わらない。反論しようとした彼の視線が、俺の背後に向いた。



「まるで、貴方の死期が近いかのような言い方ですね」


 凛とした女性の声が聞こえた瞬間、俺は強い光に包まれた。



皆様、いつもありがとうございます。

前回投稿分に、誤りがあり訂正しました。

主人公の期限がおかしいなと思われた方が多かったと思います。すみません。9日ではなく4日です。混乱させてしまい、申し訳ありません。

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