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150、深き森 〜着々と進む準備と命の期限

「カオルくん、皆さんを街道沿いの寮に連れて行きましたよ」


 ロロが戻ってきた。その瞬間、リィン・キニクは、この部屋に張っていたバリアを消したようだ。


「ロロさん、ありがとう。街道沿いの様子はどうでした? 何か、変わったことはないかな」


「船みたいな店が営業準備をしていました。おしぼり用のタオルをあるだけ持ってこいと言われたので、村長に依頼してきましたよ」


(寿司屋か)


「そっか、着々と進んでいるんですね」


 俺の様子がおかしいと感じたのか、ロロが首を傾げて、俺の顔をジッと見ている。鋭いな。


「カオルくん、店のメニューに問題がありましたか? スパーク国の一般的な感じの料理だと思うんですけど」


(あっ、見てねーな)


 すると、リィン・キニクが口を開く。


「珍しい料理がないなって話してたのよ。でも、研修のための店だから、これでいいのかもしれないね」


「そうですか。うーむ、珍しい料理も簡単な物なら、あってもいいですが、接客を学ばせる店みたいなので……」


 ロロは、リィン・キニクの適当な話に、真面目な顔で悩んでくれているようだ。作り方が簡単な物なら……。


「寿司屋が開店するなら、その店のメニューから何かを持ってきてもいいかな。魚の生食に慣れてもらいたいし」


 俺がそう言うと、ロロは目を輝かせた。


「その店から、配達してもらうのですね! それは良い方法だと思います」


(配達?)


 運ばせる、という意味の持ってくるではないんだけどな。同じメニューをこの店にも置くと言ったつもりだったが……。まぁ、転移魔法を使えば、それも可能か。


「あら! それは面白いわね。街道沿いに、個性的な店を並べて、この店でも食べられるなら、いい宣伝になるわね」


 リィン・キニクも、ロロの勘違いだと気づいたみたいだが、上手く話を合わせてくれる。デリバリー店なら、厨房は最低限で良いのかもな。



「それなら、配達用の店員も必要ですね。あちこちに転送装置を設置しているみたいですから、子供でも大丈夫かな」


「いいわね! 配達員さんには、可愛い制服があるといいかも。その方が警備の人達も守りやすいし」


(なるほど、確かにな)


 そういえば、奴隷転生をさせた赤ん坊は、最初の1年で10歳くらいまで成長すると言っていたな。彼は、その子達を配達員にしようと考えたのか。


 奴隷転生をしてからは、うーん、1年は経ってないだろうけど、人物株の発行のために天界に行っていたから、よくわからない。



「リィリィさん、赤ん坊はもう大きくなりました?」


「ええ、配達員さんならできそうよ。7〜8歳ってところかしら。1年間だけは超成長させているからね」


 リィン・キニクは、他にも人間を隠しているはずだよな。俺がいるうちに、すべて、奴隷紋を外してやりたい。


「じゃあ、リィリィさん、他の奴隷になっている人間達も連れてきてください。10歳から先は通常の成長なんですよね?」


 俺がそう言うと、彼は目を輝かせた。俺が生きている間に、奴隷転生をさせたかったのだろう。だが、彼からは言えなかったのかもしれないな。


「カオルくん、わかったわ。あの人間の村のある草原でいいかしら?」


「はい、大丈夫ですよ。それから、あの二人は……」


 アイリス・トーリと、バブリーなババァは、俺のサーチには引っかからない。大魔王リストーと、シルバー星の帝都ライールの皇帝だからな。


「あちこち、ウロウロしているわね。アイちゃんは、地底湖にいた人間ちゃん達と一緒みたい。姉さんは今は、魔王セバスが建てた天界の管理塔に居るわ。たぶん、箱庭のパーツを買って、店を建てているのね。姉さんは天界には戻らないから、あの管理塔は役立っているみたい」


「完全に楽しんでますね、あの二人」


 俺がそう言うと、リィン・キニクは一瞬、辛そうな表情を見せた。そんなつもりで言ったんじゃないのにな。


「そうね。ボクも、わくわくしているよ」


 彼は無理矢理、笑顔を作っている。


(下手くそだな)


 俺はもう切り替えが終わっているのに、彼はそう簡単にはいかないらしい。罪悪感なのだろうか。だが、逆に期限がわかる方がいい。ある日突然、知らないうちにというよりは、何百倍も良いに決まっている。




「ロロさん、あの、アンゼリカはどうしていますか?」


 サキュバスに転生したあの女は、魔王スパークに惚れていた。今、少女は冥界の水槽の中だ。魔王クースになることを望む者達が眠るという実験室のようなあの場所で、条件が整うことを待っている。


 あの女を転生させたときとは、少し運命が変わっただろう。11歳で魔王スパークに殺されて魔王クースとして転生するはずだった。だが、もう11歳いや12歳になっているか。



「カオルくん、あの……」


 ロロは、リィン・キニクを気にしているようだ。彼が森の賢者だとわかっているはずだけどな。すると、リィン・キニクが口を開く。


「カオルくんが転生させたサキュバスちゃんかしら? たぶん、隠れ集落にいるわよ。天界の管理塔が建ってからは、魔王クースは増えてないわ。魔王クースの成長を止めたんじゃないかしら」


 アイリス・トーリが、そうさせたのか? 俺が記憶を消されなかったから、魔王クースを利用する必要がなくなったと考えたのか。いや、俺がアンゼリカを守ろうとしていることを知っているからだな。



 するとロロも、口を開く。


「カオルくん、あの集落は、塔に発見される危険から、僕も外に出されました。一部の人しか出入りができません」


「結界が濃くなっているんですね。それは賢明な判断だ」


「マチン族は出入りできるようです。ドムさんは、あの集落を守っています。だけどマチン族でも、ドムさんの息子さんは出入りできないみたいです」


 ドムの息子ダンは、俺が転生させたからな。古の魔王トーリの刻印はない。だから、レプリー達の村にいたのか。


「そっか。ダンは子供だからかな」


「あぁ、そうかもしれません。あの集落で生ま育った子以外、子供はいませんね」


(上手くごまかせたか)


 集落の様子が気になるが、まずは奴隷転生だな。今の俺があの集落に一人で向かうのはリスクがある。閉じ込められても困るしな。



「カオルくん、じゃあ、ボクは人間ちゃん達を連れてくるね。暇だったら、街道沿いの漁船を何とかする方がいいと思うよ」


 そう言い残すと、リィン・キニクは、スッと姿を消した。



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