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15、スパーク国 〜邪魔な耐性

「は? おまえ、それって、俺を誘ってんの?」


「いえ、あの、そういうつもりでは……」


 俺が振り返ると、彼女の顔色が変わった。そんなに俺の顔が怖いのか。それとも、俺に襲われるとでも思ったか。


(仕事中に、客を襲うかよ)


 彼女は、震えている。だが、俺を恐れているというよりは、言葉通り一人にされたくないのか。俺がこのまま立ち去ると感じて、焦ったのかもしれない。



「ちょっと酒を買ってくるだけです。誤解を招くような言い方をしないでください」


 やわらかな口調で、そう言うと、彼女は少しホッとしたらしい。


「すみません。こういうのって慣れてなくて……」


(はぁ、コイツ、また煽ってる)


 上目遣いで、不安げに俺を見て……しかも胸元が、はだけてるじゃねぇか。片乳が見えてるっつうの。


「さっさと寝てくださいね。眠らないと、明日キツイですよ」


「あ、はい。あの、戻ってきますよね?」


「酒を買ってくるだけです。あぁ、何か要りますか?」


 そう尋ねると、彼女は落ち着いた顔で、首を横に振った。


「鍵は持っていきますから、気にせず寝てください」


 俺の言葉に、彼女は頷いている。だが、不安で起きているだろう。早めに戻るか。



 ◇◇◇



 一階に下りると、店主が何かを察したような顔をしている。


「お兄さん、ちょっと騒がしいかもしれないが、格安にしてあるんですよ?」


(は? クレームだと思われたか)


「確かに、良い部屋とは言えないですね。それより、酒を買いたいんだが」


 俺がそう言うと、店主は、商売人特有のイヤらしい笑顔を見せた。俺の所持金がわかっているからか。


「横の店では出していない、良い酒がありますよ」


「良い酒じゃなくて、この辺で流行っている酒が欲しいんですけど」


「それなら、旅の人は、よくこれを買っていくよ」


 店主が指差したのは、瓶入りのにごり酒のようなものだ。スパーク国は農業国だから、穀物を利用した発酵酒の種類が多そうだな。


 ひと瓶が2〜3スパークか。200円から300円。酒だと考えると安い。俺は、10スパーク硬貨で釣りが出ないように組み合わせ、4本の酒を買った。


(残金は、硬貨49枚、490スパークだな)



 ◇◇◇



 部屋に戻ってくると、意外にも彼女は眠っていた。こんな状況でも寝るってことは、よほど疲れていたのか。



 俺は、買ってきた酒をテーブルに並べた。転生して初めての酒だ。まず、店主が勧めていた酒の蓋を開けた。


(この感じは、嫌いかもしれない)


 一口飲んでみると、予想ほどは悪くない。中途半端でシャバシャバな甘酒という感じだ。アルコール度数もほぼ無さそうだな。


 ラベルを読んでみると……あれ? 普通の酒だ。アルコールを感じないのは、俺の身体のせいか。



 俺は、女神から与えられた知識を探る。


 この身体には、様々な耐性があるらしい。戦闘力も高い。スペック的には、ブロンズ星の中堅魔王を抑える程度!?


(は? 中堅魔王よりも上だと?)


 だから、ムルグウ国の内乱を鎮圧できたのか。天界人の中でも、転生師は武闘系らしいからな。ある程度のチカラがないと、転生なんて、させられないのかもしれない。



 窓から外の様子を眺めつつ、他の酒も開けてみる。悪くない味もあるが、どれも低アルコール飲料のように感じる。


(この耐性は、邪魔だな)



 彼女が目覚めたら、どこに連れて行くべきか……相談の内容を思い出しても、それに関する指示はない。


 一度見聞きしたものは記憶できても、それだけでは仕事なんてできない。まぁ、当たり前のことだ。


(失敗したいところだが……)


 しかし、俺が適当なことをすると、この女の人生がめちゃくちゃになる。希望する場所があるなら、連れて行ってやるべきだろう。



 俺は、眠っている彼女の記憶に侵入する。人の頭の中を覗くなんて趣味が悪いが、これも転生師の能力の一つだ。


(天界では覗けなかったよな)


 疑問に思ったことは、すぐに答えを探す。


 女神から与えられた知識によると、天界人には、この魔法は効かないらしい。神や塔の管理者以上なら、その能力によっては可能なのか。


(幼女は、覗いていたよな?)


 まぁ、新人の研修をするんだから、それなりの地位なのかもしれない。ひどい毒舌だったが。



 俺は、気分を切り替え、彼女の記憶をざーっと見ていく。この目のスペックは便利だ。



 彼女は、あの村で生まれ育ったようだ。村の中に婚約者もいたらしい。ある日、魔物に襲われて死にかけている。彼女の命を救った男が、子供の父親か。


 なぜか、その男についての記憶は、曖昧だ。強姦されたからか。それで俺に対する警戒心も強いんだな。無意識に煽っているようだが。


 その後、彼女は村で子供を産んでいる。婚約者とは破談になったようだ。その生まれた子は、人間だったらしい。


(人間だから忌み子?)


 混血の魔族からすれば、格の低い人間の子は望まれないらしい。そして彼女の目の前で、即座に斬り殺したのか。


 その日のうちに、彼女の家族は、逃げるようにして村を離れている。彼女も一緒に出たはずが、彼女だけが翌朝、村に戻ってしまったようだ。


(妙な話だな)


 彼女の記憶にも、魔法を使った様子はない。気がついたら、村の中にいたということだ。




 村長が、彼女の身体に何かの印があると言っていたな。そこに何かの手がかりがあるか。


 俺は、彼女の身体に印を探す。といっても、服を脱がせるわけじゃない。魔力を帯びた箇所を探していく。


(無さそうだ、困ったな)



 あとは……子供の父親に関する記憶が、不自然に少なすぎる。もう一度、彼女の記憶を探る。そして、その男と接した地点を……。


 バチッ!


(痛てぇ、弾きやがった)


 記憶を見られないように、結界でも張ってあるのか? 力尽くで破壊してもいいが……そうすると術者にバレるか。




 明け方まで、ボーっと外を眺めながら、策を考えていると、突然、彼女が光った。


(転移魔法か)


 俺は、慌てて、その光をかき消した。



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