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149、深き森 〜カオルの覚悟

「カオルくん、冥界から戻ったのはいつなの?」


 リィン・キニクの声は、暗く沈んでいた。今までとはあまりにも違う。


「森の北側の街道を造っていた頃ですよ。もう、余裕で5日以上経ってます」


「あの塔が建ってからね。ブロンズ星では1年くらいかしら……」


 彼の表情は、とても暗い。そうか、5日後というのは、ゴールド星の時間か。天界の時間ともいえる。


(あと4日もないかもな)


 ズキンと胸に痛みが走った。核の痛みだろうか。俺は、また理不尽な理由で死ぬのか……。いや、違うな。俺は、今、不思議と穏やかな気分だ。これでアイツを救ってやれる。それなら、俺の死には意味がある。


 俺の核を使って門を出現させるということは、俺の生命エネルギーを使うということだ。役割を果たしたら、核が消滅するのだろうな。ただの転生なら、バブリーなババァが怯えるわけがない。消滅するから戸惑ったのだろう。


 だが、古の魔王トーリのことだ。こんなにいろいろな仕掛けを残しているなら、俺の核が消滅した後にも、何か仕掛けがあると思える。


 冥界から出るとき、確か、核の古傷が痛んだんだっけ。その後に、魔王トーリらしき声が聞こえた。あれは、核に刻印が施された痛みだったのか。



「カオルくん……大丈夫、じゃないよね」


 リィン・キニクは、とんでもなく暗い表情だ。俺を気遣っていることが伝わってくる。


 俺は、あの文字が読めなかったから、怯えることもなく、そのまま冥界から出た。冥界から出ることが、すなわち承諾を意味するのだろう。ふっ、俺は確かに、生け贄だな。


 すべてを知っていたとしたら、あの時、俺はどう判断しただろうか。迷ったかもしれないが……やはり、承諾したと思う。


 俺の消滅で、アイツを永遠の呪縛から解放してやることができるなら、それは理不尽な無駄死にではない。


(ふっ、惚れたもん負けだな)



「リィリィさん、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます。ちょっと驚きましたが……」


 俺は笑みを浮かべたつもりだが、上手く笑えてないのか、彼は辛そうな表情を見せている。


「アイちゃんは、知らなかったと思うわ。こんなことになると知っていたら、絶対に、カオルくんを冥界には連れて行かないよ」


「わかっています。このことは他言しないでください。水竜は、森の賢者に聞けと言った。それ以外の人に話すと、アイリス・トーリの耳に入る可能性があるからだと思います。俺は、彼女には知られたくない」


 俺がそう言うと、リィン・キニクは、うな垂れるように頷いた。暗い、暗すぎるぞ、イケメンエルフ。



『カオル、おそらく門の役割が終わったあとは、冥界の住人になると思う。キミが考えているように、魔王トーリは、自分の息子に、心を壊してしまうような後悔はさせないはず。門となるのは、シダ・ガオウルと縁のある親しい人物なのだから、核無き生命体になるんじゃないかな』


(幽霊か?)


「あー、番人とかになりそうですね。嘘発見器の青い影みたいな奴に、冥界で会ったんですよ」


『冥界の住人の種族は、あたしにはわからないけど……』


 緑色の光……森の精霊主は、俺から逃げるように消え去った。はぐらかしやがったのか。俺はただの幽霊になるのかもしれねーな。


 だが、アイツの側にいてやれるなら、それでもいい。冥界神になって、ぼっちだと可哀想だからな。


(しかし、ロロ達との約束……)


 あと4日も無いなら、ブロンズ星では4年も無いということだ。ロロ達が寿命まで生きた後、俺が転生させてやると約束していたが、果たせなくなったな。


 まぁ、でも、天界に戻らなければ、まだ4年近くあるってことだ。その間に、俺が生きた証を残したい。死にたがる奴らが少しでも減るように、そして生きることを楽しめるようにしてやりたい。


(ふっ、なんだか、らしくねーな)


 俺は、生け贄にされることが決定しているのに、なぜか、落ち着いている。天界人としての終わりが見えたから、ホッとしているのかもしれない。


 そもそも転生師なんて、俺には向いてない職業だ。アイツを本来の姿に戻してやることができるなら、冥界の住人に……幽霊になるのも悪くない。


 冥界神になったアイツを、たまにからかって元気づけてやろう。あっ、幽霊だと喋れないか。だが冥界神なら、幽霊とも会話できるよな。


 アイツは、また、スカタンを連呼するだろうか。



 ◇◇◇



 しばらく、沈黙の時間が流れた。リィン・キニクは、言葉を失っているようだ。ずっとうつむいたまま、ボーっとしているように見える。


「リィリィさん、俺は残された時間で、可能な限り、天界の転生システムを改革しますよ。だから協力してください」


 俺がそう言うと、彼はハッとした表情で俺を見た。無理矢理、何かを吹っ切ったようだな。首をふるふると振ると、笑顔を見せた。


「そうね! カオルくんの居酒屋ストリートを完成させて、そして、人間による最高の接客を楽しまなきゃね」


「はい、ブロンズ星での時間は、まだ4年近くはあるはずです。その後、冥界神が復活すると、この世界の何かが変わりますよね」


「冥界神が復活すると、天界の権限は半減するわね。転生師が関わらない死は、冥界神の意向により転生が決まるわ。天界は、転生師を大幅に増やすでしょうね」


(すでに想定済みか)


 これまでにも、森の賢者達や反天界派の人達は、そういうシュミレーションをしてきたのだろう。ただ、門の出現方法がわからなかっただけか。



「俺がいなくなった後も、この森が天界に侵略されないようにしておかないといけないな」


「そうねぇ、姉さんがそういうのは得意だけど……姉さんには、カオルくんのことを話しても大丈夫よね?」


 バブリーなババァか。信頼できることは、わかっている。だが門になることを失敗した人に、それは言えないよな。おまえの代わりに俺が生け贄になる、ってことだもんな。


「リィリィさん、皇帝のことは信頼していますが、やめておきましょう。水竜は、森の賢者に聞けとしか言わなかった」


「……わかったわ。じゃあ、姉さんがこの星にいる間に、居酒屋ストリートを作るってことにしましょうか」


「はい、そして、俺の人物株の時価をガツンと上げる。他の天界人が買えないくらいにね。今の出資者4人に、俺が居なくなった後のことを委ねたいですからね」



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