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148、深き森 〜門を出現させる方法

「不思議な木霊こだまですか?」


 リィン・キニクにそう尋ねられ、俺は、冥界での記憶を探す。天界人の記憶力は、一度見聞きしたものは忘れないというが……。


「姉さんが耳を押さえて震えている姿からも、何かおぞましい声を聞いたんだと予想しているのよ。アイちゃんは聞いてないから、試練を受けた姉さんだけに聞こえた声か音だと思うよ」


(古の魔王トーリの声か?)


 だが、おぞましい声ではない。アイツを孤独の牢獄から救ってくれというものだ。


 冥界への門……おそらくアイツの記憶を依代よりしろとした冥界神としての力を封じる何かを開いてくれ、ということは理解したが……。



「リィリィさん、俺は何もおぞましい声や音は聞いてないです。新幹線という単語から、木霊こだまにたどり着いたのは、なぜですか?」


 俺がそう言うと、彼はガックリと力が抜けたらしい。手掛かりが掴めるかと期待していたのだろう。


「姉さんと話した中で、新幹線の名前じゃないかってことになったのよ。姉さんの性格上、ただで記憶を消されるようなことはしないわ。必ず手掛かりを残すはず。おぞましい声に怯えた、ほんの一瞬の失敗のせいで、認められなかったのだと考えられるって」


(新幹線の名前?)


「新幹線なら、のぞみとかひかり……あぁ、こだまもありますけど……」


「のぞみ? 何その可愛い名前!?」


 リィン・キニクは、目をパチクリさせている。彼がいた時代には、のぞみは無かったのか。今なら逆に、のぞみがメインだと思うけど。バブリーなババァが生きた時代も同じか。


「俺が知る新幹線は、のぞみですけどね」


「へぇ、姉さんの時代は、ひかりとこだましか無かったみたいよ」


(ひかり?)


 冥界での青紫色の光を、俺は思い出した。


 死神が出て来たときに、アイツは舌打ちをしていたか。雷撃で、容赦なくぶっ飛ばしていたが……死神を爺と呼んでいた。


 ということは、バブリーなババァは死神から、何かの手掛かりを託されたのだろうか。それで恐れたから、資格がないと判断され、記憶を消された?


 アイツは無意識だったのかもしれないが、死神にイラついていた。死神に遭わなければ、バブリーなババァは記憶を失わなかったと考えたのか。


 記憶を維持することが、門を出現させる条件のひとつだと考えて間違いはなさそうだが。



「光でしょうか……。死神に会ったとき、奴は話の途中で、強い光を放ちましたが」


 俺がそう呟くと、リィン・キニクは、目を輝かせた。それが正解だと言わんばかりに、緑色の光……この森の精霊主も、数回点滅したように見えた。


 精霊主は、門を出現させる方法を知っているのではないか? だとすると性悪だな。まぁ、立場上の制約があるのかもしれないが。



『カオル、失礼ね。何かを伝えるなら、光の中に封じるのは常識なのよ。それも教えてあげたのに、リィリィは信じないの』


 緑色の光、精霊主、自分は性悪ではないと言いたいらしい。


「光だけでは、言葉は伝えられないのよ! 精霊とは違うんだからね。必ずそこには音が介在するわ」


 リィン・キニクが、すぐさま反論した。人と精霊では、感覚のズレがあるらしい。確かに光の信号なんて、伝わらないよな。


(うん? 光の信号?)


 死神が強く輝いたとき、俺は、死神の見た目にとらわれていた。顔がガイコツじゃないことが納得できなくて……リッチのような姿に抵抗を感じていたんだよな。


 青紫色に光った死神の背後に、何かグニャリと曲がった幾何学模様のような……あっ、あれが文字か? 


(ちゃんと見てなかったな)



「リィリィさん、何か、書くものはありませんか? 紙とペンみたいな……」


 俺がそう言うと、彼は画面のような魔道具を出した。指で触れると書けるようだ。


「今はこれしか無いわ。何か思い出し……えっ」


 天界人の記憶力って凄いよな。あの時に見た幾何学模様を描いていく。


(意味不明だけどな)


「こんな感じの模様が出ていましたが……」


 俺が描いた幾何学模様を見て、彼は固まっていた。その表情は、どんどん青ざめていく。


「リィリィさん?」


「あっ、ごめんなさい。そっか、カオルくんは、この文字を知らないのよね。まだ知る権限がないから」


「幾何学模様は、文字なんですか?」


「ええ、トレイトン星で使われる文字よ」

 

 トレイトン星? あぁ、バブリーなババァを襲撃してきた奴らか。この世界を創ったとんでもない強さの……。


 この世界は、もともとトレイトン星からの移住者や転生者で構成されているんだよな? ゴールド星の半数以上は、その星や星系からの移住者だ。そして、古の魔王トーリも……。



「何て書いてあるか、リィリィさんには読めるんですか」


「ええ、だけど、これは一部だけかな。ええっと……門を出現させる方法は、いくつも用意されているみたいね」


(歯切れが悪いな)


「何と書いてあるのですか?」


 俺がそう尋ねると、彼は戸惑っているのか、誤魔化すような笑みを浮かべている。



『カオル、生け贄になれと書いてあるよ。時間の制限もあるね。記憶を維持して地上に戻ってから5日後に、キミの核を使って門を出現させるって。地上に戻るときに、キミの核に門となる刻印が刻まれたみたいだね』


 リィン・キニクに代わって、森の精霊主が幾何学模様の文字を読み上げたようだ。


(俺が、死ぬってことか?)


「刻印って、砕かれた主たる刻印のことではなくて?」


「カオルくん、それとは別の方法よ。魔王クースの件は、天界が邪魔をしているから上手くいかない。アイちゃんには、まだ何も無いわ」



 あぁ、主たる刻印を持つアイツの刻印を砕くために、天界は、シダ・ガオウルの転生時に、性別を変えたのだったな。


 魔王クースが、砕かれた主たる刻印のカケラを持って生まれるのは、主たる刻印を復活させるためだ。天界がアイツの刻印を砕く可能性を、古の魔王トーリは想定していたということだ。


 主たる刻印が冥界神の証のような物で、それがあれば、アイツは失った記憶を取り戻し、冥界神になることができるのだろう。


 門と鍵も、主たる刻印も、すべては封じられた何かにたどり着くための手段だということだ。


 俺に刻まれた刻印には期日があるみたいだが、5日なんて、とっくに経過したよな?



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