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146、深き森 〜精霊主

 俺は、返す言葉を失った。バブリーなババァが、均衡が時差のない状態だと考えて、メルキドロームを作った?


 均衡とは何か。そんなクイズの答えになりそうなものは、数えきれない。だから、古の魔王トーリが残した方法が今も、潰されずに無事だということか。


(はぁ、均衡か……)


 バブリーなババァは、メルキドロームを使って天界を攻撃すると言っていたか。メルキドロームは天界を攻撃できるほどの強力な兵器だ。だが、それを使っても、ほんの僅かな時間だけ、天界の機能を停止させることしかできない。


 彼女は、その僅かな時間だけで良いと言っていた。ブロンズ星に行くことができるからだと言っていたが、あの時の言葉は、正確ではないだろう。ブロンズ星に行くためだけの方法なら他にもあるはずだ。実際、バブリーなババァは今、ブロンズ星に来ているんだからな。


 俺にはあの時、知る権限がなかったから、あんな言い方しかできなかったのだと思う。


 すべての星の時差が無くなる瞬間か。確かに、この世界に均衡がもたらされるが……時差を無くしたときに扉が現れるのか?


(簡単すぎねーか?)


 古の魔王トーリが、そんな仕掛けを施しているなら、天界、いやゴールド星にいる他の星系の奴らは、簡単に門を出現させて、完全にぶち壊すことができるはずだ。


 それに門の出現方法は、ひとつではないと感じる。妨害する勢力がいることがわかっていれば、当然、潰されることも想定しているだろう。


 森の賢者が受け継いだクイズ以外にも……あっ、それが、冥界で伝えられたはずのことか。俺が気づかなかったということは、言葉ではない気がする。


 アイリス・トーリも知らないということだよな? 知っていたら、森の賢者に伝えるはずだ。あー、いや、冥界神になりたくないなら、言わないか。まぁ、忘れているだけかもしれないが。



 しかし、あのとき……アイツは、泣いたんだよな。俺の記憶が消されなかったことに驚いて、まるで本物の幼女のように泣いていた。


(やべ、やっぱ、俺は……)


 ズキンと胸が痛んだ。そんな感情を隠すように、俺は軽く咳払いした。




「カオルくん、大丈夫? なんだか、言葉が出てこないみたいだね」


 俺のごまかしに気づいたかのように、リィン・キニクは口を開いた。まぁ、言葉を失っていたのは事実だ。


「リィリィさん、もう大丈夫です。メルキドロームのことを言われたから、ちょっといろいろと……」


「あちゃ、ごめんなさいね。姉さんが、カオルくんを斬った時のことを思い出したのね。瀕死の怪我を負ったのを思い出したから、胸が痛くなったのね」


(は? 何を……あぁ……)


 俺は、無意識のうちに胸を押さえていたようだ。痛そうな顔をしたのか。


「いえ、まぁ、それも含めていろいろと考えていましたが……均衡って、そんな簡単なことでしょうか?」


 俺がそう言うと、彼は、目を輝かせた。


「カオルくん、何か思い出したのかな?」


(いや、ちょっと待て)



 リィン・キニクは、本当に信用できるのか? 彼から聞いた話を素直に信じてもいいのか?


 バブリーなババァは、嘘がわかる幻獣を使っていた。そして、冥界では嘘発見器みたいな奴らがいた。


 だが、リィン・キニクは、何も使わない。彼には精霊の声が聞こえているのかもしれない。だが、俺にはそれを聞く術がない。俺は、リィン・キニクの言葉に嘘がないかを知ることができないのは……。


(フェアじゃねぇな)


 そう考えた瞬間、目の前に緑色の光が現れた。



「あらら、ボクは、カオルくんに疑われているのね。確かに密室を作ってコソコソ話をするのは、怪しいね」


 リィン・キニクは、相変わらず笑顔を浮かべている。精霊から俺の考えを聞いたみたいだが、気を悪くする様子もない。



『リィリィ、確かに怪しいわよ。そして、カオルは異常に疑り深いわね。騙されることに対する警戒心が異常よ』


(は? 別に警戒なんてしてねーぞ)


「この緑色の光がしゃべってるんですか?」


「ふふっ、この光は、カオルくんが呼び出したのよ?」


「はい? 何も呼んでませんけど」


「カオルくんは、ボクを疑っている。ここはカオルくんの領地だから、ボクはキミを騙したりしないよ?」


 リィン・キニクは、謎の笑顔を浮かべたままだ。疑われたことを喜んでいるかのようだな。



『リィリィは、確かに喜んでいるわね。あたしに会いたかったんじゃない?』


「この緑色の光は、精霊なんですか」


「ええ、この森の精霊主よ。毎日呼んでたのに、ずーっと無視されていたの。魔王クースを生み出す森の精霊は、気位が高いのよ」


(精霊主?)


 女神から与えられている知識を探すと……精霊のリーダーみたいなものか。古い森には精霊が棲み、そして精霊の数が増えるとその長の役割を持つ精霊主が生まれるらしい。


『カオル、その知識は天界人の偏見だよ。精霊主とは、私のように役割のある精霊のことをいうの。ちなみに、この森には、精霊主は私以外にもいるわよ』


 リィン・キニクは、話の繋がりがわからないから、一瞬ポカンとしていた。この声は、彼にも聞こえているらしい。



「どんな役割ですか」


「カオルくん、緑色の光を放つ精霊は、樹木の精霊なの。この森の樹々が知ることを、すべて記憶しているわ。精霊ちゃん、門の出現方法に関する話を教えてくれる?」


 精霊の返事を待たずに、リィン・キニクが精霊に語りかけた。森の賢者を無視し続けた精霊が、素直に教えてくれるわけはないじゃないか。



『カオル姉さんは、門になれなかったのよ』


『シンカンセンって何?』


『耳が痛いの? カオル姉さんは、何かを怖れたから失敗したのよ。でも、もういいの。ごめんなさい』



 さっきまでの声ではない。この声は……。


「そう、アイちゃんは、だからもうやめるって言っていたのね。姉さんを傷つけたと感じたから……」


 アイリス・トーリの声だ。いつもよりはトーンが低い落ち着いた声。それほど落ち込んでいるのだと感じた。


 これは、冥界から出たあの場所か。頭の中に、まるで写真のような2人の女性を写した画像が浮かんだ。泣き崩れるバブリーな服を着た女性と、彼女を慰める……えっ? 幼女じゃない。


 もうひとりの女性は、アイさんだった。



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