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145、深き森 〜リィン・キニクと語る

「リィリィさん、えっと今、ボク達って言いました? 一人のことじゃなくて、何人かの森の賢者のことを、鍵だと言っているんですか?」


 リィン・キニクは、鍵という言葉を使って、水竜の話を知っていると強調したかったのだと感じた。俺は、森の賢者としか言ってない。


(合言葉みたいなものか)


「ええ、そうよ。森の賢者と呼ばれる者はすべて、鍵としての役割を、精霊から託されているのよ。だけど、この世界が冥界と完全に分離されてから、まだ一度もその役割を試した者はいないんだよ」


(役割を試す?)


「冥界が分離されたのは、いつなのですか?」


「それは、冥界神が消えたときよ。だけどね、力の引き継ぎはされているの。その依代よりしろになっているのが、後継者の記憶の一部らしいわ。ボク達は、その場所を開く鍵なんだけどね……」


(話が難しいな)


 冥界神ガオウルは息子であるシダ、すなわち前世のアイリス・トーリに、冥界神の力を託したということか? 


 この世界と冥界が完全に分離されたって、どういうことだ? 冥界は死神がいることからも、死後の世界っぽいよな。完全に別世界じゃないのか?



「リィリィさん、たぶん俺は半分も理解できてないと思うんですけど……」


「大丈夫よ。ボク達も、よくわかってないから。そもそも、門を出現させる方法がわからないから、試すこともできないのよ」


(は? 門って……俺だよな?)


「あの、リィリィさん、水竜が意味不明なことを言っていて……俺に門になれって」


 彼が驚くかと思いつつ、そう打ち明けても反応が薄い。もしかして、それも既に知っていたことか。


「そうでしょうね。音が縁を繋ぐと言われているから、カオルくんなら、門になる資格はあるんだと思うよ。門の出現方法は、水竜から聞いた?」


「いえ、森の賢者に尋ねろと言われました」


 俺がそう返答すると、彼はチカラ無く微笑んだ。そして、しばらく、何も話さない時間が流れた。彼は、何かを考えているのだろうか。


 この場所からは、店内の様子は見えるが、音は聞こえない。結界かバリアなのだろうが……静かな時間は長く感じる。



『均衡がもたらされるとき、その門が現れる』 


『森の賢者は冥界の扉を開く鍵』


『冥界神は今も存在する』


『孤独の牢獄に囚われているもの……これは、おそらくシダの記憶』



(は? なんだ?)


 音無き声が聞こえた。囁くような、かよわい声だ。魔王クースの声ではない。もっと、弱い感じの……。



「リィリィさん、いま、何か聞こえませんでした?」


 そう尋ねると、彼はふわりと微笑んだ。


「カオルくん、聞こえたのね。精霊の声よ。私は貴方へ話すことはできないから、カオルくんが本物の門なのかを確かめるようにと、精霊に言ったのよ」


(は? 精霊?)


「俺には知る権限がないんですね。だけど、精霊にはその縛りはないってことか」


「彼らも、精霊は縛れないわね。ボク達が鍵だということも、カオルくんには知る権限はないはずだけど、水竜が話したから解禁されたみたい」


「はぁ……」


 この世界を創り出した奴らが権限で縛っているのは、天界人だけか。いや、他の星系の奴らも、権限がどうのと言っていたな。



「うん、もうカオルくんは知っているから、ボクが話しても大丈夫みたいだね」


 リィン・キニクは、何かを確認したのか、少しぶつぶつと独り言を呟いた後、ふわりと笑顔を浮かべた。


「無言だったのは、精霊が俺に伝えるのを待っていたんですか」


「うん、そうだよ。カオルくん、均衡って何だろうね? ボク達は、そこでつまずいているんだ。姉さんの話とは、今のカオルくんの状態が合わないし」


(姉さん? バブリーなババァか?)


「あの、ライールの皇帝の話というのは?」


「姉さんは、門になれなかったんだよ。冥界で死神に会ったとき、門を出現させる方法を知ったはずなんだ。だけど、姉さんは何かを怖れたから失敗した。たぶん、カオルくんは、怖れなかったから記憶を消されなかったんだよ」


(は? 死神?)


 バブリーなババァも、あの不思議な空間に行ったのか。だけど、記憶を消された。死神を怖れたからか? 嘘発見器みたいな、変な奴らがウヨウヨしていたが……。


「俺は、ライールの皇帝が恐れるようなモノには遭遇してませんよ。それに、門の話は、水竜に初めて聞きましたし……」


「そうなんだよね。ずっと、カオルくんには鍵の話ができなかった。だから、姉さんが水竜に会わせることを企んだみたいなんだよね。あっ、もちろん、アイちゃんは水竜の存在を忘れているから、そこのとこは上手くやったみたいだね」


 確かに、バブリーなババァが、アイリス・トーリと俺を火山の地底湖に向かわせたが……水竜に会うように仕向けたのか?


 忍者のような千代女とかいう女には、バブリーなババァから直接命令があったみたいだが……俺を置き去りにする判断をしたのは、アイリス・トーリだ。


 あぁ、マナを残さない特殊な転移か。人間を運ぶことになったから、俺には自力で戻れと言ったんだっけ。


(まぁ、どうでもいい)



「俺には、門を出現させる方法を知らされなかったんじゃないですかね? やり方を変えたのかもしれません」


「いや、それはないよ。過去の記憶の中を通ったはずだから、知らせる方法を変えたりすることはできない。何か聞いたはずだよ?」


 リィン・キニクは、それを思い出せと、必死なんだよな。だが、俺が首を傾げたことで、諦めたらしい。



「じゃあ、カオルくん、均衡って何だろう?」


 森の賢者に伝えられた言葉の謎解きか。


 均衡がもたらされるときに門が現れるって言われてもな。俺がこの世界に転生してきたこと、では無さそうだ。それなら、もう門は出現しているだろう。


「まるでクイズですね。主語がないからわからないです」


「だよね。何の均衡なのかが伝わってないんだ。おそらく、妨害されるからだよ。あちこちに復活のためのヒントを残したみたいだね」


 古の魔王トーリか……。あの魔王トーリの刻印も、冥界神復活のための方法だろう。ひとつが潰されてもいいように、複数の手段を仕込んでいるらしい。

 

「たくさんの候補がありすぎますね」


 俺がそう言うと、彼は、苦笑いを浮かべている。


「姉さんはね、均衡が、星間の時差のない状態だと考えて、メルキドロームを創ったんだよ」



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