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143、深き森 〜洞窟のような1号店

「シダ・ガオウル様を救えとは、俺に何をさせたいのですか」


 俺は、姿を見せない水竜に尋ねた。冥界にいるという水竜は、この世界の仕組みをすべて知っているかのようだ。


『シダ様が冥界神となれるよう、力を尽くせ。それが、知る者の義務だ』


(は? どういう意味だ?)


「具体的には、何をしろと言っているのですか」


『シダ様を孤独の牢獄から解き放つ門となれ』


「意味がわからないのですが……」


 そういえば、古の魔王トーリらしき声も、息子を孤独の牢獄から救ってくれと言っていたか。


『ワシは、これ以上は話せぬ。森の賢者に尋ねるが良い。あの者は、鍵だからな』


(リィン・キニクのことか?)


 だが、森の賢者と呼ばれるハーフエルフは、一人ではないはずだ。その中の特定の誰かを指しているのだろうか。



 それを確認しようとした瞬間、俺は水の中にいた。猛烈な勢いで水の流れを逆行していく。滝を登っているのか?


 浮遊感を感じだときには、空中に放り出されていた。俺は慌てて、浮遊魔法を使う。


(どこだ? ここは)


 見渡す限り、真っ白な雪原が広がっている。ブロンズ星のどこかには違いないが、与えられた地図情報にはない場所だ。


 下を見ても、川はない。確かに水の中から放り出されたはずなんだが……。


(とりあえず、戻るか)


 俺は転移魔法を唱え、スパーク国のあの穀物畑へと戻った。



 ◇◇◇



「あら、カオルくん、遅かったわね」


(今日は、くん呼びか)


 あの穀物畑には、リィン・キニクと、たくさんの作務衣を着た人間達がいた。人間達は、数人ずつ転送装置を使って来ているようだ。


 それなら俺も、転送装置で戻ってくる方が早かったんじゃないか? いや、水竜に会わせたかったのか。だが、アイリス・トーリは、水竜のことを忘れているんだよな?



「リィリィさん、彼女に置き去りにされたので、戻る方法に困りましてね」


水遁すいとんを使って戻ってくるって聞いたよ。無茶振りよねー。普通なら火遁かとんでしょ」


(その普通がわからない)


「えーっと……」


 ここで、水竜の話をしていいのかがわからないな。何のバリアもない場所だ。


「あぁ、人間ちゃん達は、あちこちに転送装置を設置しているよ。アイちゃんが連れて回ってる。古い道具なのに、よく使えるものねー。魔道具じゃないから、天界には察知されないわぁ。うふふっ」


 リィン・キニクは、天界がかなり嫌いらしい。中性的な美しいイケメン顔が、意地悪く歪んでいる。確かにマナを使わない装置なら、天界人には察知できないからな。


「あの……」


「あっ、カオルくんが居ない間に、お姉さんが勝手に店を作ってるよ。見に行くでしょ?」


 やはり、この場所では、水竜の話はできないな。リィン・キニクは、何かを察して俺の言葉を遮ったような気がする。


 俺が水竜と話したことを察したのか。だとすれば、水竜が言っていた鍵は、彼のことを指しているってことだよな?


「スパーク国側の店ですか?」


「そうそう。なんだか、趣味を疑うような店になってるのよねー。お姉さんの時代の記憶を再現したみたいだけど……ボクには理解できない」


「バブル時代ですよね? リィリィさんは、1999年がどうのと言っていたから、同じ時代じゃないんですか?」


「私の方が若いわよ。あっ、でも、こっちの世界では逆ね。なんだか、時間軸が歪なのよねー」


 リィン・キニクは、前世は女性だったからか、日本の話をするときは完全に女性モードだな。自分のことをボクと呼ぶときは、男の感性なのだろうか。



「人間ちゃん達も一緒に送るわねー」


 彼はそう言うと、穀物畑に転送されてきていた作務衣を着た人間達を転移の光で包んだ。



 ◇◇◇



「カオルくん、ほら、見てよー。これって、さすがにないわよねー」


 リィン・キニクは、完全に女子化しているのか、仕草も女性っぽい。見た目は中性的だから、全く違和感はないんだが。


 ギリギリ俺の領地内だが、出入り口は、スパーク国の土地も占領している巨大な建物。昼間なのに、入り口を飾るネオン管のような装飾がバブリーだ。


 森の一部を表現しているのか、洞窟のように見える謎すぎる建造物は、作務衣を着た人間達を威嚇する効果もありそうだな。


「なんだか、遊園地のアトラクションみたいな外観ですね」


「そうなのよー。全然、居酒屋っぽくないでしょ? これでも、地味すぎたって言ってるのよ。ささ、中を案内するわね。人間ちゃん達も来てちょうだい」



 中に入っていくと、それなりに客が入っているようだ。そうか、もう営業を始めているんだな。


 しかし、これは、完全に遊園地のアトラクションみたいだな。洞窟をしばらく歩いて店内に入る仕様になっている意味も不明だが、店内は薄暗く、たくさん並ぶテーブル席が、ゆっくりと動いているんだ。


 メニューは、文字ではなく、写真になっているのは、識字率に配慮したのだろう。だが、かなり高めの設定だな。しかも、勝手に俺の名前の通貨で表示されている。


(勝手に通貨を発行したのか?)


 アウン・コークンだから……通貨はコークンなのか。メニュー1品が20コークンから50コークン。1コークンは100円くらいだから、2000円から5000円という値段だ。



「値段は、かなり高めですね」


「うん? そうかしら? 一人当たり300ポイントくらいになるから、普通じゃない? セバス国のレストランなら、こんなものよ」


(客単価3万円!?)


「居酒屋で、それは高くないですか?」


「安いと舐められるから、妥当な価格よ。それよりも、この内装、落ち着かないわよね。強制的に長居する人を追い出すために、回転式にしてあるらしいけど」


 客の回転率を強制的に上げるのか。バブリーなババァの考えることは、エグいな。



「人間ちゃん達、こっちに来てくれる? カオルくんもね」


 リィン・キニクに誘導されて店内を歩いていく。床がじわじわと動いているし、店内の照明も前後左右にチカチカと動くから、歩きにくい。食事をする人達は逆に楽しそうだが。



「はぁい、こちらの店長を紹介しますね」


 なぜか、そこには、タキシード姿のロロが立っていた。



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