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141、シエラロ火山 〜冥界神ガオウルの遺産

 俺は、アイリス・トーリの転移魔法で、地獄のような場所にやってきた。今、思いっきり噴火中の火山の真上だ。


「おま……ブフォッ」


 口を開くと、喉が焼ける。そんな俺を、幼女はふふんと鼻で笑っている。めちゃくちゃ楽しそうだな。人の失敗で笑うなんて、見た目通りのガキじゃねぇか。



 人間の集落は、シエラロ火山の地底湖だと、バブリーなババァが言っていた。彼女が隠していたみたいだけど、それは随分と前のことだろう。まだ、その集落が存続しているかは定かではない。


(なぜ、火山の上空なんだ?)


 尋ねてみたいが、口は開けない。そんな俺のイライラが伝わるのか、彼女はずっとニヤニヤしている。



『しかし、地底湖の入り口がわからぬな』


(念話かよ)


『おまえなー、こんな場所に浮かんでいるなんて、意味不明なことしてんじゃねーぞ』


『ふん、高い場所から見ないと探せぬだろ。それに、この火山に棲む鳥を使って、キニク国を滅ぼした奴がいる。ここは、その者のテリトリーだからな』


 あー、そうか、キニク国が焼かれたのも、俺が買った森で山火事を起こしたのも……。


『こんな話せない上空じゃなくてもいいだろ』


『は? 話せているじゃないか。しかし、入り口がわからぬな。まぁ、下手に探し当てると、何者かに見張られていても厄介だ。突っ切るか』


 幼女は、そう言うと、俺の腕をつかんだ。そして、重力魔法を使ったのか、バリアも張らずに、そのまま一気に火山に落ちていく。


(ちょ、正気か!?)


『目を閉じろ』


『は? おまえ……』


 掴まれた腕から何かが伝わってきた。



 バシャン!



 まさかのマグマ溜まりにダイブだ。


(あれ?)


 千度を超える温度のはずなのに、熱さは感じない。これは、アイリス・トーリの術か? そのまま、深く沈んでいく。目を開ける根性はない。今、俺はマグマの中だ。


 なぜバリアを使わないんだ? バリアでは耐えられないのか? いや、違うか。バリアがあると沈まない? それも無いか。




「目を開けていいぞ」


 幼女の声が耳から聞こえた。しゃべれる環境なのか? 俺は、ゆっくり目を開き、そのまま固まってしまった。


(なんだ? ここは?)


 ちゅんちゅんと鳴く小鳥が飛び回る大草原だ。地底のはずなのに、地上より明るい。上を見上げると、岩盤が見えることで、俺の頭はさらに混乱した。


「ここは、地上か?」


「は? 何を言っている? 地底湖のさらに地下だ」


「なぜ、こんなに明るい大草原があるんだ?」


 そう尋ねたが、幼女は答えずにスタスタと歩き始めた。何かを見つけたらしいな。


 草原に見えたが、あちこちに家畜らしき動物もいる。この草原の草を食べているようだ。




「何者だ!?」


 強い殺意を感じた。だが、姿は見せない。


「アイと言えば通じるか? カオル姉さんから連絡は来ていないか?」


 アイリス・トーリがそう答えると、わらわらと人が姿を見せた。俺には見えなかったが、すぐそばにも居たのだとわかる。


(忍者かよ)


 姿を現した人間達は、皆、和装というか、作務衣のようなものを着ている。時代劇で見るような忍者服らしき人もいる。



 しばらくすると、俺達のすぐ近くに別の人間が現れた。転移とは違う移動方法だな。地面に何かの道具が埋め込まれているのだろうか。


「随分と早かったのですね。大魔王リストー様、そして転生師の……ウンコくん様」


(おい! わざとだろ)


 俺が顔をしかめたのだろう。クスクスと笑い声も聞こえた。バブリーなババァが、そう言ったのか。話している奴は、ウンコくんの意味は知らないようだが。


「姉さんから、事情は聞いているか?」


「はい、ウンコくん様の人物株を買ったから、その領地の価値を上げる手伝いをするようにと、申しつかっております」


(おい!)


 コイツは、俺がそういう名前だと思っているらしいな。クスクス笑っている奴らは、意味がわかるのか?



「かなりの数の人間が居るな。この集落の人数は?」


「大魔王リストー様、その問いにはお答えできません。まずは、代表が参ります。そして、転送装置の設置をさせていただければ、あとは、必要な人数で協力致します」


(転送装置か、なるほどな)


 彼らは、大魔王リストーを恐れていないのか? そういえば、バブリーなババァは、自分が隠している人間は、普通の人間とは違うと言っていたか。


「じゃあ、その代表を連れていくが……」


「あっ、少しお待ちください。作物を持ってくるようにと命じられました」


 そう言うと、話していた人間は、姿を消した。転移ではなく、これが転送か。マナは全く感じないから、察知できないな。



「少しお時間がかかりますので、集落を見学されますか?」


 別の人間が突然現れた。これも転送装置を使っているのだろう。


「そうだな。カオル姉さんが自慢していたから、興味はある」


 アイリス・トーリがそう答えると、新たにまた数人が現れた。案内係なのか。


「では、ご案内します。大魔王リストー様、アウン・コークン様」


(ウンコくんはやめたのか?)


 あー、受信状況の差か。案内係は、俺の名前を正しく聞き取れたということかもしれない。だが、クスクス笑っていた奴もいたよな?



 案内係は、集落の中を転送装置を使いながら案内していく。だから、集落の全体像は全くつかめない。だが、それが、彼らの狙いなのだろう。


「あの、なぜ、地底なのに明るいのですか?」


 俺は気になることを尋ねてみた。


「えっ? 私が生まれたときから、ここはこんな感じなので、わかりません」


(まぁ、そりゃそうだな)


「ふん、おまえは聞き方が悪いのだ。この転送装置を作ったのは、カオル姉さんか?」


 アイリス・トーリも、明るさの秘密を知りたいらしい。


「いえ、冥界神ガオウル様だと聞いています。その後の調整は、黒い人がたまに来てくださいます」


(は? 冥界神ガオウルって……)


「そう、だから、この地底はどこまでも明るいのね」


 アイリス・トーリは、まるで幼女のように、ポツリと呟いた。この場所は、彼女の亡き父親の遺産とも言える。


 ここに住む人間達は、冥界神ガオウル……古の魔王トーリが、既に消滅していることを知らないのだろうな。冥界神に、今も守られている集落か。



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