138、スパーク国 〜厄介な何かを連れてきた?
「どこを見ているんだい? お嬢ちゃん」
アイリス・トーリの死角に突然現れた黄緑色の……目がチカチカする女。こんなスーツはありえないよな?
(まさか、コイツが出資者か?)
彼女は、スゥハァと深呼吸をしてリラックスした様子だ。穀物畑が心地よいのだろうか。
「どこから現れたんだ? 匿名希望のお嬢さん」
幼女は、彼女の姿を見つけて口をへの字に結び、再び空を見上げた。
(は? コイツが、お嬢さんだと?)
肩パッドが入った黄緑色というかアマガエル色のスーツに、黒いハイヒール。髪は切ったのか肩までのストレートだ。
「どこからって、当然、天界経由で転移してきたさ。シルバー星からは、直接この星には来られないからねぇ」
ふと俺と目が合うと、彼女は俺のサーチを始めたらしい。挨拶の前にいきなりサーチとか、感じ悪すぎねぇか?
(あぁ、核を確認したのか)
彼女は満足げに頷き、そしてやっと俺の顔を見た。だが、おかしいな。シルバー星で会ったときに感じた圧倒感は感じない。隠しているのだろうか。
「久しぶりだね、カオル」
(あー、名前を教えていたな)
「はい、あの、俺の人物株を買ったのって……」
「私だよ。それからさ、茶碗蒸しには椎茸を入れてほしいんだけど、ブロンズ星にはロクなキノコがないんだよねぇ」
(は? シイタケ?)
確かに彼女は……シルバー星のザイールの皇帝は、日本人だったとは聞いた。バブル時代に不動産で儲けて、ややこしい人達に殺されたんだったか。
「あの、備長炭は……ってか、なぜ貴女が、僕の人物株を買ってくれたんですか」
「備長炭なら、焼き鳥だろう? キンキンに冷えた生ビールで、プハァッとやりたいねぇ」
バブリーなババァは、俺の質問には答えない。一方で、幼女はずっと空を見上げている。
(何かあるのか?)
「お姉さん、まさかとは思ったけど、厄介なのを引き連れてきたんじゃないですよね?」
魔王スパークも、空を見上げた。だが、青いのどかな空だ。彼女をお姉さんと呼ぶのか。見た目はオバサンだけど、まぁ、天界人の見た目はアバターで変えられるが。
「アド・スパーク、この穀物畑は麦だね」
「ええ、そうですね」
「よし、カオルに今すぐ売ってくれ。上物かい?」
(は? いきなり穀物売買か?)
「収穫直前ですよ。お姉さん、場所を変えて欲しいな」
「売るね? よし、カオルは買ったね?」
「へ? あ、はぁ」
バブリーなババァは何を言っている? 魔王スパークは、苦笑いなんだよな。幼女はずっと空を見上げている。
「おい、来るぞ」
幼女が叫ぶと、バブリーなババァはニヤリと笑った。
「じゃあ、穂先だけ刈り取るから、アドは庭に運びな」
バブリーなババァが手をパサッと振ると、広い穀物畑を風が吹き抜けた。穀物の穂先だけを切ったのか? 空中に浮かんでいた穂先は、パッと消えた。転移か。
そして、バブリーなババァが再び手をパサッと振ると、穂先が戻ってきた。
(は? 何の手品だ?)
「カオル、適当に話は合わせてくれ。あぁ、それから私は、天界に行くと力が半減、さらにブロンズ星に移動するとその半分にされちまうから、よろしく頼むよ」
バブリーなババァは、畑にプスプスとハイヒールで穴を開けながら歩いていく。
「さっきから、訳わからないんですけど。そもそも畑に来るのに、なぜハイヒールなんですか」
「今日は、ワンレンのイケイケお姉さんにしてみたよ。ハイヒールじゃなくて、ピンヒールだよ」
(どっちも一緒じゃねーか)
「畑が穴だらけですよ? それに、アマガエルみたいな……」
そう指摘すると、バブリーなババァはニヤッと笑い、空に向かって手をあげた。
その次の瞬間……。
(ちょ、マジかよ?)
空が一気にオレンジ色に染まった。そして燃える何かが降ってくる。
ドカドカドカドカ!
広い畑は、降り注いだ何かによって、炎に包まれた。
(は? 敵襲? 隕石?)
「おい、おまえが買った穀物が焼かれていくぞ」
アイリス・トーリはそう言うと、炎の中で、アゴをクイクイと動かしている。そうだ、消火しないと!
俺は、フワッと空中に浮かび上がる。
(グッ、上の方が熱いな)
空からまた、隕石らしきオレンジ色の何かが降ってくる。
(熱っ!)
俺は、この火を消そうとイメージし、魔力を放った。
バッシャーン!
バケツをひっくり返したような水魔法になったが、一発で消えたな。なんとなくだが、魔力の使い方がわかってきた気がする。
「おや? 部外者は手出し無用だ。何の権限があって介入する?」
浮かんでいる俺のすぐ背後に、突然、複数人の気配を感じた。
(や、やべー)
勝てる気がしない。天界人か?
チュドーン!
俺の目の前を雷光が走った。まさかの下から上へ落雷したかのようだ。俺の背後に浮かんでいた奴らに直撃したみたいだな。
だが、奴らは、若干ぐらついた程度だ。
(ヤバすぎる、絶対に無理だ)
「おや、ご挨拶がこれですか? 大魔王リストー」
「おまえらこそ、何の権限があって、この星に来た? 私の邪魔をする害虫は駆除する!」
幼女アバターを身につけているから、アイリス・トーリも、力が抑えられているんだったよな。
(ビビってる場合じゃねぇな)
俺は、彼らの方を向いた。男1人と女2人か。数だけなら、こっちの方が有利だが……威圧感が半端ねぇな。
「俺は、転生師アウン・コークンです。貴方達は、天界人には見えませんが、何をしにここに来られたのですか」
こういうときには、心が覗かれなくなったのは助かる。それに、この暗殺者のような顔は不機嫌を装えば、ビビっていることを隠せそうだ。
「ふぅん、歪な子だな。だが、キミが何を考えているかは、わかるんだよ。残念だったね」
全身、紫色の女が、ニタッと笑った。大魔王を上回るのだと言いたいらしい。
(くそっ)
「どちらさまでしょうか? まさか、他の星からの侵略者? それなら直ちに救援要請しますが」
「あはは、おかしな子だね。こっちには正当な権限があるんだ。その小娘を引き渡してもらおうか」
(小娘? バブリーなババァが?)




