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137、スパーク国 〜匿名希望の購入者

 俺が怪訝な顔をしていると、アイリス・トーリはため息をついた。今度は、三本指で頬杖をつき、右手でピースサインをふらふらと振っている。


(数字のつもりか?)


 彼女が示しているのが、3と2? 画面の32番目ということか? 23番目? それとも、3枚目の2つ目? とりあえず、古い方から32番目の購入希望者を見てみると、あぁ、当たりだな。



 購入理由の画面には、一行だけ。


 暇な僕が見つけたよ。


 これは、魔王スパークだ。アイリス・トーリは、大量の購入希望者の中から彼を探したのか。


(すごいな、さすが大魔王か)



「残りのハーフ単位は、この方にします。暇そうなので」


「はい、了解しました。ですが、アウン・コークンさんの要望を理解されているかはわかりませんよ? あっ! こちらの方は、アド・スパークさんですね。ご安心ください、彼なら大丈夫です。人間にも優しい平和主義ですからね」


 経理塔の他の人達も、アド・スパークと聞き、軽く頷いている。発行前にも、きっと彼が買うと言ってたしな。



「アウン・コークンさん、えーっと、匿名希望の方が、貴方の領地へ備長炭を作りに行くと連絡がありました。あ、あの、どうしましょう?」


(俺にケンカを売ってきた日本人か)


「その方も、出資は労働力でということでしょうか?」


「いえ、既に入金手続きは完了しています。ブロンズ星の通貨に替えて、アウン・コークンさんのブロンズ星の口座に入金します」


「はい? 俺の口座?」


「ええ、ブロンズ星では、天界のポイントは使えません。出資金は、現地で使われるでしょうから、ブロンズ星の共通通貨に交換して入金します」


(そんな口座なんて知らねーぞ)


「口座を開設した記憶はありませんけど」


「いま、さっき作りました。時差があるので、入金は少し遅れるかもしれませんが、確実に実行しますのでご安心ください」


 プラスと呼ばれる男は、営業スマイルを浮かべている。とりあえず、あの管理塔に行けばいいのか。そういえば、1階は両替所だったか。まぁ、銀行だ。



「管理塔に行けば、誰でも入出金ができる。あの場所にある唯一のメリットだな」


 アイリス・トーリはそう言うが、どこにあっても転移魔法を使うから関係ない。あっ、店員達でも入出金できるのか。


(それなら、便利だな)



「アウン・コークンさん、匿名希望の方が……」


「あぁ、はい。じゃあ、領地で……と言っても広いので、天界の管理塔付近にお越しいただきましょうか。何か目印がないとわからないな。この経理塔に来ていただくのは……」


「いえ、それは大丈夫だと思います。あの人は、貴方がどこにいてもわかるはずなので、アウン・コークンさんがブロンズ星に移動された後に、会いに行ってもらいますね」


「は、はぁ」


 知らない顔を見つける力があるのか。いや、天界人だから、俺の顔写真か何かを調べることも可能だな。


 しかし、天界で会うのではなく、ブロンズ星で会うのか。今、ここに来てくれたら話は早いのにな。


 チラッと幼女に視線を移すと、なんだか性格の悪そうな顔をしている。まるで、経理塔の人達を面白がっているかのようだ。



「じゃあ、ブロンズ星へ移動するか」


「あっ、ちょっと待って。魔道具塔で、パーツを買ってくる」


「おい、天界での数十分は、ブロンズ星の何日だ?」


(あー、放置したままだな)


「わかった。じゃあ、ブロンズ星に行くけど……は?」


 アイリス・トーリは、俺の腕を掴むと窓から飛び降りやがった。そして、着地前に転移魔法を使ったらしい。文句を言おうとしたが、やめた。


(めちゃくちゃ楽しそうじゃねーか)



 ◇◇◇



 ブロンズ星上空から、彼女は再び転移魔法を使った。


(あん? 間違えてねーか?)


 着いた場所は、森の中ではない。広い穀物の畑だった。この田舎な雰囲気は、スパーク国か?


「おまえ、俺の領地じゃねーぞ」


「は? 当たり前だ。天界に監視されている状態で、村になど行けるか」


 アイリス・トーリは、ふんすと鼻息荒く、ふんぞり返っている。完全に幼女だな。威張る幼女……だが、中身は男の感覚の大魔王なんだよな。



「なぜ、こんな穀物畑なんだ?」


「目立つからに決まっている」


 いやいや、幼女は穀物よりも背が低いから、はっきり言って見失いそうだ。俺でさえ、微かに頭が出ている程度だ。しかも、あぜ道もあるのに、なぜ畑の中なんだ?



「やぁ、遅かったね」


 上空から声が聞こえた。見上げるまでもなく、魔王スパークの声だ。アイリス・トーリに気づかなかったのか、幼女がいるのを見つけて、彼は少し驚いた表情を浮かべた。


「魔王スパーク様、お久しぶりですね」


「ふふっ、カオルの感覚だと、ほんのさっき会ったばかりじゃない? 剣を使ってくれてるんだね」


 俺の腰に視線を移すと、魔王スパークは、反則級のアイドルスマイルを浮かべている。


「あの森では、鎌は使えませんからね」


 使えるようになったことは、伏せておく方がいいだろう。俺が嘘をついても、やはり魔王スパークはわからないみたいだな。


 相手の考えが文字として見えるという特技が使えないことを、彼は逆に楽しんでいるようにも見える。


「領主になったのに使えないのかな?」


 魔王スパークは、俺ではなく幼女に尋ねているようだ。彼は、彼女の味方なんだよな?



「魔王スパーク、なぜ、ハーフ単位にしたのだ?」


 アイリス・トーリは、話題を変えた。すると、彼はふわりと笑みを浮かべた。鎌が使えると言っているようなものだな。


「うん? 僕が見つけたときには、ハーフ単位しかなかったよ? 残りのハーフ単位は、アイちゃんが買ったのかな?」


(アイちゃん呼び!?)


「ふん、発行数を見てないのか。あぁ、ブロンズ星にいるとわからないか。アウン・コークンの人物株は、3単位を発行したぞ」


 すると、魔王スパークは怪訝な顔をしている。


「部外者は嫌だなぁ」


「心配するな。1単位は、世話好きエルフが買った」


「あぁ、リィリィさん? ここひと月ほど、毎日来てるよ」


(そんなに時間が経ったか)


「張り切っているからな。彼の思惑と合致したしな」


(思惑?)


「人間を保護してるもんねぇ。あと1単位は?」


「もう、来るだろう」


 そう言うと、幼女は空を見上げた。



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