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135、天界 〜人物株の発行手続き

「居酒屋ストリート? 知らないことばかりで、理解が追いつきませんが……森の賢者と同郷だということは、以前からのお知り合いで、店の企画を……ではないか。えーっと……」


 プラスと呼ばれた男は、理解しようと努力はしているらしいが、イメージできないだろうな。


「さっき、メルキドロームがどうのという声が聞こえていましたが、関係あるのですか」


 迂闊な男が、アイリス・トーリにそう尋ねた。迂闊な男に聞かれてしまうなんて、迂闊すぎるじゃねーか。


(あん? 笑った?)


 幼女は、わずかに口角を上げたように見えた。


「この経理塔の設備がどれだけ頑丈かを例えただけだ。彼は、メルキドロームに近寄ったことがあるからな」


「えっ? シルバー星の帝都ライールに侵入したのですか。なぜ、それで無事……あぁ、再び天界人に転生したから、新人転生師なのですか? いや、そんなデータは……むむ?」


「プラス、おまえ、頭悪いぞ。コイツがリベンジ転生したなら、今さら、前世の料理がどうのと騒ぐわけないだろ。それに、ライールの皇帝に斬りつけられたが生き延びている。きっと、帝都では要注意人物扱いだろうな」


(は? 幼女は何を言ってる?)


「それは……それなら、経理塔の分も欲しいですね。3単位ではなく、5単位を発行しましょうか」


「ちょっと待て、プラス。新人転生師の人物株を、新規発行で5単位だと? 正気じゃねぇぞ」


 迂闊な男が、小声でそう耳打ちしている。だが、慌てているためか、声が絞りきれていない。ダダ漏れだ。近くに座っていた女性に睨まれていても気づかないらしい。


 そんな様子を、幼女は澄ました顔で眺めている。だが、内心は、ニマニマしてそうだが。



「人物株は、買う人の選別もできますよね?」


 一応、確認しておく。新人だからと、その部分をすっ飛ばされたくない。あの森には、アイリス・トーリの……いや、古の魔王トーリの敵となる天界派には、立ち入らせたくない。


「アウン・コークンさん、もちろん、購入希望者が殺到すれば、ご本人に購入者を決めていただけます」


 俺は、軽く頷きつつ、人物株の発行手続きの画面を眺めた。株主の条件を、特記事項として入れることができるようだな。


(上手い方法はないか?)


 天界には気づかれずに、反天界派だけが買ってくれるような……。チラッと幼女に視線を移すと、彼女が微かに頷いたように見えた。


「特記事項に条件を書かなくていいのか? アウン・コークン。その条件によって、購入希望者が変わるぞ」


(わかっている!)


「どういう条件をつければいいか、わからないけど」


 そう話すと、幼女はフフンと鼻を鳴らした。


「おまえの意味不明な言葉を並べておけば、似た者同士が集まってくる」


(は? あー、居酒屋か)


 その中に、何か隠語的な物を入れることができれば完璧だ。だが、アイリス・トーリの口から出た言葉ではダメか。疑り深い天界人に、何かを悟られるかもしれない。



「アウン・コークンさん、特記事項はどう書きましょうか。これによって、確かに新規発行の場合は、売れ方が大きく変わりますよ」


 プラスと呼ばれる男は、作業の手を止め、一緒に考えてくれているようだな。だが、彼が味方か否かはわからない。


「じゃあ、料理のメニュー開発に参加してくれる人という条件を付けておいてください」


「へ? あ、はい。漠然としすぎていて、その……特殊な店なのですよね?」


「あぁ、じゃあ、例示もお願いする方がいいですか?」


「はい、その方が伝わりやすいです」


(ふふっ、かかったな)


「生魚を使った寿司、わさびや醤油で食べる焼き物、備長炭を使った焼肉屋のサイドメニュー、あぁ、あと出汁だしが旨い料理、でお願いします」


「へ? ちょ、ちょっとお待ちくださいね」


 天界人は一度聞いたことは記憶する。言い直さないでいいのは、助かる。チラッと幼女に視線を移すと何か言いたいらしいが……全くわからない目配せをしてくる。


 俺が首を傾げていると、彼女は口を開く。


「食材集めの手伝いはいらないのか? 奴隷を潰されると、開店が遅れるぞ」


(うん? どういう意味だ?)


 目配せをしているから、言葉通りではないのだろう。


「確かに、アウン・コークンさん、食材の調達を奴隷にやらせるなら、人間を嫌悪する人もいますからねぇ。まぁ、奴隷を使うことを嫌う人には、ご遠慮いただきますか?」


(いや、そうではない)


 考えろ! どうすれば伝わる? 天界の魂の転生システムに反対する人だけに、あの森を解放したい。魔王クースを狙う者が入り込むことは避けたい。


 フッと、あのズルすぎるイケメンの顔が浮かんだ。


(おっ、ひらめいた!)


「人間を卑下しないという条件を付けてください。人間を、笑顔の素敵な店員に教育するつもりなので、人間による接客を嫌ったり脅したりされると、困るんですよ」


「な、なんと! それは、かなり厳しい条件ですよ。最悪、買い手がつかないことも……」


 プラスと呼ばれる男は、アイリス・トーリの表情をうかがっている。


「私は、珍しい店でポイントが稼げるなら、人間を卑下するつもりはない。それにそもそも、弱い人間を脅すバカは、下級魔族くらいだろう?」


「魔王ムルグウは、人間を脅していたが……」


「ふん、弱小魔王も、下級だということだ。自分に自信のないバカは、人間をいじめて憂さ晴らしをしている。くだらぬ」


 彼女の言葉は、そのフロアにいた天界人達に刺さったらしい。プライドの高い天界人は、こう言われると人間に手出しできなくなりそうだな。


(ふっ、やるじゃねーか)


 アイリス・トーリは、あくまでも、金のためというスタンスだ。金に強欲だというキャラを確立しているように見える。


 こうやって、彼女は地道に準備をしてきたのだろう。アイリス・トーリの口からは、具体的なことは聞いていない。シルバー星のバブリーなババァの話で、いろいろなことがわかったからな。


「では、アウン・コークンさん、特記事項に、人間を卑下しないという条件も付けさせてもらいます。えーっと、やはり発行するのは、当初の3単位ということでよろしいでしょうか」


(経理塔は逃げたか)


「ええ、それでお願いします」


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