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131、深き森 〜奴隷転生

 アイリス・トーリの小さな身体が輝きを放つと、ドーム内は、不思議な光で覆われた。なんだかよくわからないが、重さを感じる。


「あら、アイちゃん。逆じゃないの?」


(何が逆なんだ?)


「コイツは、まだ自分の力の調整ができない。過剰な魔力で、この奇妙な小屋を壊しかねないからな」


「まぁ、カオルちゃんって、そんなに魔力量が多いのね!」


(今度は、ちゃん呼びか)


 彼は、俺のことをカオルくんと呼ぶと言っていたくせに、戻ってきたらカオルさん、そして今度はカオルちゃんかよ。一瞬、指摘しょうかと思ったが、やめた。放っておいても、また呼び方は変わるだろう。



「アウン・コークン、奴隷転生だ。やり方はわかるな?」


「えーっと、たぶん」


 当然やったことはないが、力の使い方は頭に浮かんでいる。ただ、この森の中で死神の鎌を使って大丈夫なのかは、自信がない。


 しかし、幼女の身体が輝いているから、俺が失敗してもフォローしてくれるつもりだろう。


「ちょっと、アイちゃん。ここにいる全員を転生させるのではないのよ? 奴隷紋のある人間だけよ? じゃないと世話係が足りなくて、赤ん坊を死なせてせしまうわよ」


 天界人リィン・キニクは、転生のことは本当にわかってないみたいだな。ターゲットだけに術が届くようにできることも、知らないらしい。


「まぁ、見ていればいい。新人が失敗したら、私がサポートをする」


 アイリス・トーリがそう言うと、彼は少しホッとしたみたいだが……。奴隷転生は、通常の転生より楽にできる。転生師になったばかりの超新人でも、失敗はしない。


 こんなことを考えていると、失敗フラグになりそうだが……。まぁ、大丈夫だろう。ただ、一度にどれだけの人数が可能かはわからない。



 チラッと幼女の方に視線を移すと、軽く頷いている。俺は、ふーっと肩の力が抜けるのを感じた。緊張していたらしい。だが、小さな背中は、とても頼りになると感じる。


(よし、やるか!)



 俺は、左手首に触れ、死神の鎌をスーッと抜き出した。なぜこんなに大きな物が、手首に収まっているのかは不思議だ。


 目をつぶり、鎌を持つ手に魔力を込める。鎌から放たれた何かが、対象者を探して広がっていく。ドーム内の全域に広がった感覚が伝わってきた。


(対象者は、あぁ、アレか)


 目を閉じているのに、いや、目を閉じているからこそ、他人の魔力紋が見える。アレが奴隷紋だな。奴隷紋を付けた者も見えるな。ほとんどが俺が行ったことのない土地の一般人だ。商人? あぁ、奴隷商か。


 二重に奴隷紋が付いている人間も多い。奴隷商が、死んだら自分の所に転生してくるように仕掛けをしているのか。短い奴隷の命……それを無限ループさせている。


 奴隷紋が付いた人間は、死んだら消滅するんじゃないのか!? この奴隷商がやっていることは、天界が想定したことからは外れている。


(あまりにも理不尽じゃねーか!)


 一旦、奴隷商に奴隷紋をつけられたら、何回生まれ変わっても、同じことの繰り返しだ。天界の魂の転生システムによって、転生前の記憶は引き継がれる。ずっと、永遠に奴隷の記憶ばかりが蓄積されるなんて……。


(ありえねー!)



「おい、魔力が乱れているぞ。関係ない人間にダメージを与えるなよ?」


 幼女の声が聞こえて、俺は少し冷静になった。そうだ、こんなことに怒っている場合じゃない。


 おそらく、リィン・キニクは、奴隷紋が二重に付けられた人間だらけだとは知らないだろう。だが、彼らを選んで優先的に連れて来たということは、何かを察しているのかもしれない。


 あぁ、生命エネルギーの消費が早い人間を選んだのかもしれない。二重の奴隷紋は、その分、寿命を縮めるだろう。



 目を開けると、俺の鎌から放たれた何かが、対象者をすべて正確にとらえているのが見えた。ターゲティング完了だ。


 鎌をぐるりと回すと、俺の身体は空中に浮かんだ。人間達は、俺を見上げている。怯えているかと予想したが、違った。何の感情もない目だ。死んだ目をしている。


(くそっ)


 彼らの苦しみが聞こえてくる。彼らがこれまでにどんな扱いを受けてきたか、次々と、あり得ないスピードで浮き上がってくる。天界人の目は、それをすべて記憶できてしまうんだよな。


 目を背けたくなるような光景ばかりだ。人間達は、道具以下の扱いか。奴隷商の魔族達をぶっ殺したくなってくる。



『奴隷紋を持つキミ達を転生させる。記憶はそのまま引き継ぐ。転生後は、赤ん坊になるが、森の賢者が精霊の祝福を与えると言っている。約1年で10歳くらいまで成長するようだ。次の人生は、俺の店を手伝ってくれたら嬉しい。それが嫌な者は自由にして構わない。奴隷紋は、俺が完全に砕く!』


 俺は念話を使った。すべての者に聞こえているはずだが、反応はない。完全に心が死んでいるな。



 俺は、鎌をヒュッと横一文字に振り抜いた。すると、ターゲティングした者達は、胸から血を噴き出して倒れていく。


(集団殺人だな)


 すかさず転生の光で、彼らを包み込む。勝手に俺の奴隷紋が付けられそうになっている。俺は、慌てて奴隷紋の形成をかき消した。


(あぶねー)


 一旦、身体から抜け出た魂は、元の身体へと返っていく。すると、血まみれの身体はマナに変換され、転生の光の中で新たな身体が形成されていく。


(うー、キモいな)


 俺は、あまり臓器は得意ではない。



「おい、リィン・キニク、精霊の祝福はどうした?」


 幼女にそう言われて、彼はハッと我に返ったようだ。彼も臓器は得意ではないのかもしれないな。


 森の賢者は、黄緑色の無数の光の粒を放った。その粒ひとつひとつが、転生中の身体へと吸い込まれていく。あれが、精霊の祝福か。核を、薄らと神秘的な黄緑色の膜が覆っているように見える。



 そして、転生の光が消えた。


 奴隷転生251人、すべて奴隷紋未設定、という設定を促す表示が頭に浮かんだ。ふん、そんなくだらない設定なんて、誰がするかよ。



「まぁぁぁっ! スッポンポンだわ」


 リィリィさんの悲鳴が聞こえた。



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