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130、深き森 〜ドーム状の建物

 俺が土下座を禁止すると言った瞬間、村長は、慌ててひざまずいた。なぜ、そうなるんだ?


「意味なく跪くのも、禁止します」


 俺がそう言うと、拒絶されたと感じたのか、レプリーの村の村長達は慌て始めた。


(根本的な意識改革からだな)


 チラッと、アイリス・トーリの顔を見ると、彼女は俺の出方を見極めようとしているようだ。天界人リィン・キニクとの話の中でも、俺に賭けると言っていたな。



「戻ったようだ」


 アイリス・トーリは、あごをクイっとあげた。村の外だと言いたいらしい。天界人リィン・キニクが、移住者を連れてきたんだな。


 奴隷紋のある人間は、いったん殺して転生させる。この村の人間には、見せたくないな。



「村長さん、皆さんに聞いてもらいたい大事な話があります。集会所のような場所はありますか?」


「ええっ、あ、あの、はい、ええっと、村の者に話すときには、タオル工房で……」


「じゃあ、そこに集まってもらってください。俺は少し村を離れます。夜、遅くならないうちに戻りますから、急なことで悪いんですけど、お願いします」


「え、あ、あぁ、はい、承知しました」


 村長は、何を想像しているのか暗い表情だ。だが、転生させた赤ん坊の世話を頼めるのは、彼らだけだ。そのときに、俺の考えを話そう。いつまでも、こんなにオドオドされているのも疲れる。



 ◇◇◇



「遅くなってごめんなさいね」


 天界人リィン・キニクは、爽やかに微笑んでいる。イケメンのエルフは、微笑むだけで絵になるよな。


(なんか、ムカつく)


 俺と一緒に、アイリス・トーリも村から出てきた。そして、彼のことはスルーして、何もない草原へと歩いていく。


「あら、隠してあるのに、アイちゃんには見えちゃうのね」


「リィリィさん、草原に連れてきた人を隠してあるんですか?」


「ええ、そうよ。奴隷紋のある人間は、なるべく結界の中から出さない方がいいのよ。苦しめちゃうから」


 あぁ、そういうことか。奴隷紋を付けた所有者から離すと生きられないと聞いている。痛みや苦しみを与えるのか。


(最低だな)



 彼に案内され、草原を歩いていく。辺りが、うす暗くなっているためか、近寄っていくと結界の存在が俺にもわかった。見たことのないタイプだな。やわらかな光が霧のように集まっている。


 その霧のような結界は、簡単に通り抜けることができた。不思議な結界だ。エルフが使う術は、やはり普通の魔法とは違うらしい。


 結界の中には、大きなドーム状の何かがあった。どこかのなんちゃらドームに似ている。だが、屋根は植物で作られているのか、屋根に植物が生い茂っているのか、草原に溶け込むような建物だな。



 アイリス・トーリは、そのドームに入れないのか、立ち止まって俺達を待っているようだ。


「リィン・キニク、これで、ほんの一部なのか?」


「リィリィよ。ええ、危険な状態の人達を集めてきたわ」


 幼女は、俺の方をチラッと見て、何かを考える素振りをみせた。数が多いのかもしれないな。


「この半数に、奴隷紋があるのか」


「半分以上かな。でも、安心してちょうだい。精霊の祝福を使うわ。転生してから10年は、通常の10倍の速度で成長する。ただ、寿命は変わらないから、老人の時間がその分、長くなってしまうのだけど」


(精霊の祝福?)


 女神から与えられた知識にはないものだ。森の賢者である彼の固有能力だろうか。


「奴隷転生を使えば、記憶を維持したまま転生させるから、問題はない。老人になれば、また転生させればいいだけだ」


 アイリス・トーリのその感覚は、俺には理解できない。だが、この世界に長く生きている彼女にとっては、それが常識なのだろうな。天界の魂の転生システムの弊害だな。魂にしか意味はないという世界では、天寿をまっとうするという概念が存在しないのかもしれない。




「さぁ、どうぞ」


 天界人リィン・キニクが入り口を開けた。


(は? マジかよ)


 ドームの中は明るかった。屋根のドーム部分がやわらかな光を放っているようだ。芝生が敷き詰められている。その芝生の上には……。


「リィリィさん、なんだか競技場か野球場みたいですね」


「うふふ、そうなのよ〜。人間を運ぶ器を造ると、こうなっちゃうのよね〜」


 彼は、嬉しそうに手をパンっと叩いている。無邪気な人だな。幼女がポカンとしていることから、その理由を察した。


 この世界では、誰も野球場だなんて言わないよな。彼は、俺がそれに気づいたことが単純に嬉しかったのだと思う。


(だが、しかし……)


「リィリィさん、何人いますか?」


「わからないわ〜。100人くらいかしらね?」


 いやいや、どう見ても、その3倍は居るだろ。奴隷紋を持つ人数を言っているのかもしれないが。



「リィン・キニク、おまえ、コイツを試しているな?」


 アイリス・トーリは、無表情でそんなことを言った。怒っているのか? あ、違う。口角が僅かに上がった。


「そうね、カオルさんにどれくらいの能力があるかは、見えないんだもの。しかも、この森で、死神の鎌を使えるのかな」


(あっ……無理じゃね?)


 魔王クースの生まれる森で死神の鎌なんか出したら、きっと、鎌がエサを食いたがる。その衝動に耐えられる気がしない。俺は、ロロ達が守っている集落を襲撃してしまうのではないか?


「ふん、リィン・キニク、おまえ、バカだろ。コイツは冥界の記憶を維持していると教えただろ? もはやコイツの鎌は、魔王クースを吸収することはできぬ」


(えっ? そうなのか?)


「へぇ、死神に遭遇したんだね。じゃあ、カオルさんは鎌に操られる心配は無くなったんだ。でも、鎌の成長は遅くなるわね」


「ふん、もともとコイツは、鎌を育てる気はない」


「でも、転生師レベルを上げるにも、戦闘力を上げるにも、鎌の成長は必須じゃないの?」


 俺の知らないことを、二人が話している。だが幼女は、やはり俺のことをよくわかっている。


「リィン・キニク、そんな心配は無用だ。コイツの魔力は異常だからな。さて、準備を始めるか」


 そう言うと、アイリス・トーリは、何かの詠唱を始めた。



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