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129、深き森 〜原始人レベルの文化

「じゃあ、カオルくん、とりあえず一部だけ連れてくるね」


 そう言うと、リィリィさんはスッと姿を消した。今のは転移魔法だろうか。なんだか、少し違う気もする。エルフが使う術は、俺達の魔法とは別の仕組みなのかもしれない。



「森の賢者でも、一度に全部を連れてくるのは、難しいんだな」


 俺がポツリと呟くと、アイリス・トーリは、憎たらしい笑みを浮かべて口を開く。


「スカタン! 一気に赤ん坊だらけになったら、誰が面倒を見るんだ? ここの人間に頼むと店の開店が10年以上先になるぞ」


(出た、スカタン)


 あぁ、そうか。転生すると赤ん坊になるのか。天界人ビルクは、転生後も若くない姿だったが、あれは初期アバターになっていたんだったな。


 俺も、この世界に来たときから、10代後半の姿だ。これは、天界人だからだ。親から生まれるのではなく、魂だけの存在で、初期アバターに入るような転生方法は特殊すぎる。


(あっ、親……)


「転生させるには、その数の母親が必要か」


 俺がそう呟くと、幼女は、また変な顔をしている。人間を人間に転生させるなら、母親が必要じゃねーのかよ?


「はぁ、新人転生師、尋ねる前に考えろと教えただろ」


 アイリス・トーリの言葉は、研修のときよりは、音の響きに温かみを感じる。毒舌だが。


 しかし、ゴブリンだった男レプリーは、人間の赤ん坊として母親から生まれたはずだ。サキュバスに生まれたアンゼリカも同じこと。大量に転生させた中のひとり、マチン族のドムの息子ダンも、母親から生まれただろう。


「考えても、わからねーけど」


 俺がそう反論すると、彼女は、ブッと吹き出した。


(は? 何?)


 そして、ケタケタと笑っているんだよな。こいつ、こういう顔もするんだな。




「アイちゃん! あっ、カオル様も、魚が焼けたって言ってます」


 人間の子供が呼びに来た。大魔王のことを、ちゃん呼びで、新人転生師の俺を様呼びする少女に、アイリス・トーリは笑顔を向けている。


「ありがとう、すぐに行くね〜」


「うん!」


 少女は、彼女には手を振り、俺には頭を下げる。だが、アイリス・トーリは、逆にそんな扱いが嬉しいみたいだな。


 孤独な幼女は、自分の素性を知らない者の中に入っているときが、心休まる時間なのかもしれない。


「おまえ、あんまり無理するなよ?」


 俺の口からは、無意識にそんな言葉が飛び出していた。


「は? 私が無理しないでどうする? 奴隷転生にさえ気づかない新人転生師の教育は、楽ではないのだぞ」


(あー! 奴隷転生か!)


 俺が気づいたことがわかったのか、幼女は、憎たらしい笑みを浮かべると、村の中へ入っていく。ここで、天界人リィン・キニクを待つわけじゃないのか。


 奴隷転生は、奴隷を得るために、奴隷紋がある人間に対して行う特殊な転生だ。これを使うと、記憶を引き継ぎ奴隷紋のない人間の赤ん坊として転生する。だから、子供でも大人の知識のある奴隷が手に入るのだ。


 そのときに、俺の所有物だという奴隷紋を付けることもできる。術者は魔力も消費しない。だが、俺は、そんな縛りはしない。あぁ、幼女とリィリィさんが話していたのは、このことか。



 ◇◇◇



「お口に合えばいいのですが……」


 俺達は、村長の家に案内されていた。素朴な木のテーブルには、土器かと疑うような皿の上に、焼いた魚が山積みだ。


(原始人レベルか)


 幼女は、慣れた様子で空いている椅子に座り、山積みの焼き魚を手づかみで取ると、そのまま、かぶりついている。


 俺も、それを真似て食ってみる。まぁ、悪くはないが、せめて塩を振ってほしい。


「川の魚なんですね。なかなか美味しいですね〜。皆さんも一緒に食べましょう」


 幼女は、幼女のフリをしている。


 彼女がそう言ったことで、村長が手を伸ばした。そして、村長が口をつけるのを確認してから、次の者が手を伸ばす。完全な序列ができているようだな。


 レプリーの村の、村長の家でこれだ。人間だから大丈夫だと思い込んでいた俺は、頭をガツンと殴られたようなショックを受けた。


 原始人から進化してもらわないと、居酒屋の店員なんかできない。寿司屋も焼肉屋も不可能だ。


 マチン族は、一応、トーリの名を継ぐ男だけは特別扱いだったようだが、それ以外は、特に序列は無さそうだったよな。



「魚がこんなにすぐ近くで手に入るなんて、夢のようです!」


 村長が、俺に媚びるようにそう話す。彼は、ずっとこういう話し方をしてきたのだろうな。


「それは、アイ……ちゃんの魔法ですよ。この場所を見つけたのも、彼女です」


 俺がそう言うと、村長は、幼女に深々と頭を下げる。


「私は、ここに移動させただけですよー。それより、森の空を見ました?」


 幼女が、また幼女のフリをしている。


「巨大な何かわからない物が現れましたな。あれは、森の屋根でしょうか」


(そう見えるのか)


「あれは、橋なんですよー。彼が、森の上を通る橋をかけたんです。街道へ出るときや、スパーク国へ行くときは、森の中を通らなくても移動できるんですよ」


 幼女が、幼女らしく、かわいく説明している。だが子供が話すことだと信用されないのか、村長は俺の顔を見ている。


(ククッ、おもしれー)


 アイリス・トーリは複雑そうな表情で、俺を睨む。かわいい幼女のフリを忘れているようだ。


「村長さん、森のあちこちにたくさんの橋をかけました。俺は、天界の橋エキスパートなんですよ。必要な川にも橋をかけていきますが、森の中は、危険な魔物が多いので、往来に使ってください」


 俺がそう説明すると、村長の家にいた全員が、俺の方を見た。そんなに、橋が珍しいのか。


「まさか、我々のような弱き者のために……あ、ありがとうございます、カオル様!」


 村長は、立ち上がると、俺の元に駆け寄ってきて平伏した。


(また、これかよ)


「ちょ、村長さん、そんなにオドオドしないでください。そうだ、皆さんに、ちょっとお願いがあります」


「何でも、承ります!」


 そして、また平伏している……。


「まずは、その土下座を禁止します」



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