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128、深き森 〜人間の奴隷紋

 アイリス・トーリの転移魔法で、俺達は二つの川に挟まれた草原に移動した。彼女が村からは出ないようにと言っていたのに、数人の人間が、川で釣りをしている。


「あっ、アイちゃんだ」


 釣りを見ていた子供に声をかけられ、幼女は微笑みを返している。


「釣りをしてたの? 危ないよ?」


「大丈夫ですよ、アイさん。レプリーが魔物が嫌う魔法を使ってくれたから」


 レプリーは、反対側を流れる川の近くで、何かしているようだ。ゴブリンだった男は、ほんと、この村では信頼されているな。



「へぇ、いい場所だね。すぐ真上を縦断橋が通っているから、逆にこの場所は、通行人からは見えない」


 天界人のリィン・キニク……リィリィさんが珍しそうにキョロキョロと見回している。何かに驚いているようにも見える。


「アイちゃん、ここの人間には奴隷紋がないようだね」


(は? 奴隷紋?)


「あぁ、ムルグウ国で、独立した村として頑張っていた。彼が肩入れしなければ、今頃は潰されているがな」


 リィリィさんと幼女の会話は、見た目と話し言葉がチグハグな気がして、なんだか違和感がある。だから子供達も、キョトンとしてるんだよな。



「奴隷紋を付けられた人間がいるのですか」


 俺は、丁寧な言葉を心がけた。すると、幼女は、なぜか睨んでくる。俺までが言葉遣いの教育をしていると思ったのか?


(ふっ、面白れー)


「魔族は自分の奴隷を取られたくないもんだから、奴隷紋を使うのよ。最悪だよね。人間の命を削って縛り付ける紋なんてさ」


「命を削って付けるんですか?」


「うん、そして生命エネルギーを紋のために使うことになるから、奴隷紋のある人間は、普通の人間より15年くらい寿命が短くなるの。死んだら転生もできず、魂は消滅しちゃうのよ」


「えっ? なぜ、消滅……あっ、核が残らないのか」


 俺は自分で原因を自己解決できた。一応、確認にために、幼女の方をチラ見したが……彼女は、子供達を連れて村の中へと入っていく。この話を聞かせたくないらしい。


「私には、そこんとこの転生事情は、わからないのよ。アウン・コークンさんは転生師ね? アから始まる名前ってことは、とんでもないオリジナル魔法を得た死神の鎌持ちってところかしら?」


 彼は森の賢者、精霊の力をゆだねられてるんだよな。だから、精霊の声を聞いて、俺が死神の鎌持ちだということもわかるのか。


「新人の転生師ですよ。死神の鎌持ちですが、まだ餌やりはしていません。俺がこの森を買った理由は、魔王クースを探すためだと、天界人は思ってるみたいです」


「そうね。だけど貴方は、魔王クースを喰わせる気はなさそうね。あら、貴方もカオル?」


(精霊がチクってるのか)


「前世の名前が、芦田 薫だったんで」


「ふぅん、じゃあ、カオルくんって呼ぶわね。女神ユアンナの付けた最低な名前は、嫌でしょう?」


「ほんと、最低っすよ。名前を呼ばれるとき、ウンコくんに聞こえたり、ウンコくさに聞こえたりしますからね」


 俺がそう言うと、リィリィさんは少し考えて、手をポンと打った。


「アウンコークンさんって呼ぶと、確かに、あーウンコくさ、だわね。ほんと女神ユアンナって、クソ女神よね」


 リィリィさんは、半笑いで怒ってくれている。半笑いで……。




「何の話だ?」


 幼女が戻ってきた。


「あら、アイちゃんにはわからない話よ。クソ女神ってこと」


 幼女は、リィリィさんの説明に、あぁと興味なさげに適当に頷いている。コイツ、ほんとに男っぽいよな。


「そんなことより、この付近に、匿っている人間を移住させたらどうだ? スパーク国にも近いから、悪くないと思うぞ」


「そうね〜。この村が3倍になっても大丈夫だわね。アイちゃん、ちょっと教えてほしいんだけど〜」


「なんだ? リィン・キニクに、わからないことでもあるのか?」


「私は、リィリィよ。あのね、匿っている人間の半数以上には奴隷紋がついているの。私の結界から外に出すと生きられないわ」


(彼の結界? エルフの結界か)


「あぁ、奴隷紋があると、主人から引き離すと数日で死に至るからな。そして死ぬと転生はしない。奴隷紋は、ある種の廃棄処分だからな」


 そうか。天界の魂の転生システムでは、人間は一番下の格だから、忠実な盾となる飼育のサイクルから外れたということか。無駄な魂は廃棄処分……いや、これを脅しに利用しているのかもしれない。消滅したくなければ、上を目指せってことか。


(最低だな)


「アイちゃん、転生師なら、奴隷紋を斬れるかしら?」


「うむ、奴隷紋は生命エネルギーだからな。死神の鎌に吸わせれば、奴隷紋は消える。だが、転生先の選択はできない。同じ個体に生まれ変わるだけだ」


 幼女の説明を聞いて、リィリィさんは嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、私が匿っている人間を、転生師に頼んで転生させてもらえば、奴隷紋のない姿で転生できるわね。そんなこと、アイちゃん、一度も教えてくれなかったじゃない」


「転生師は、理由なく誰かの命を奪うことはできないからな。それに、何のメリットもない。人間に転生させても転生師レベルは上がらないし、死神の鎌を育てるなら奴隷紋を喰わせるより、専用の石を喰わせる方が成長するからな」


 幼女の説明の後半は、天界人的な発想だ。だが、彼女自身がそう考えているというよりは、一般論だろう。不思議に思われるから、魂の転生システムへの反逆者だと、認定される危険があるのかもしれない。


「それなら、カオルくんなら大丈夫ね。店をやるために、人間の店員がたくさんほしいでしょ? 奴隷紋付きは使えないから、奴隷紋を外したいって、正当な理由だわ」


「だが、コイツは、転生させた人間に奴隷紋なんか付けないぞ」


「当たり前よぉ。奴隷紋をつけたら、寿命が35年くらいになっちゃうじゃない。15歳から働くとしても、天界時間で20日しか使えない労働力なんて、ありえなくない?」


 35年? 奴隷紋なしで50年か。人間の寿命って、そんなに短いのか。


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