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127、深き森 〜ムカつき驚くカオル

「だから、この場所で待っていたのね」


 ハーフエルフの天界人リィリィさんは、ふわりと柔らかな笑みを浮かべた。中性的なイケメンが笑うと、なぜか俺は、条件反射的にイラっとする。


「清流がどうのと、彼は言っていたぞ」


 アイリス・トーリは、拗ねた顔で、そう反論した。なんだか、本物の幼女のように見えるな。彼女は、リィン・キニクに心を許しているのだろうか。


「確かに、わさびは清流で育てるわね。だけど、この世界にはマナがあるから、問題ないわよ」


 ふわりと微笑むと、彼はパサリとローブをひるがえし、両手を空に向けた。


(けっこう細マッチョだな)


 腕を見ると、リィリィさんが男だとわかる。



 しばらくすると、サワサワと心地よい風が吹いてきた。魔法ではない。なんだ? 大気が揺れているような不思議な感覚。


 ヒュルヒュルヒュル


 風が変わった。木々を大きく揺らす強い風が起こっているが、俺には心地よい風としか感じない。


(これが精霊の力?)


 魔法のような即効性はないが、ゆっくりと少しずつ目に映る景色が変わっていく。


 ただの草原だった場所には、小川が流れ始めた。近くのあの大きな川から、ここまで流れを引き寄せてきたのか。


 草原には、野草がたくさん花を咲かせている。そして小川には、おそらくわさびが生えている!



「ふぅっ、こんな感じかしら。わさびを収穫する人手も必要ね。この付近に、集落を作りたいわね」


 彼がそう言うと、アイリス・トーリが口を開く。


「妙に張り切ってるじゃないか、珍しい。そんな顔を見たのは500年ぶりだな」


(は? 500年?)


 そうか、ブロンズ星の1年は、天界では1年だ。


「当たり前じゃない。居酒屋ストリートよ? それにこのミッションの報酬は、人物株だと聞いているわ。張り切るのは当然でしょう?」


「居酒屋とは、そんなに夢中になるものか?」


「当然よ。でもアイちゃんは、何が気に入るかはわからないわね。私と真逆で、中身は男だものね」


(えっ? 知ってるのか?)


 俺が驚いた顔をしたようだ。彼は、ふわりと柔らかな笑みを浮かべた。イケメンスマイルは、ムカつくんだよ!


「私は女だ。おかしなことを言うな」


 アイリス・トーリが反論している。だが彼は、幼女が古の魔王トーリの息子だったことを知っているような口ぶりだ。



「リィリィさん、貴方はスペードですか? それともハートですか?」


 俺は、試してみたい衝動を抑えられなかった。この男が、反天界派なのか。天界派の天界人には、俺の人物株を持たせたくない。


「あら、やはり、その歪な状態は、カオルの仕業だったのね。そうね〜、私はハートかしら? 半分だけスペードかも」


(どういう意味だ?)


「リィリィさん、尋ねておいて、あれですけど、俺はその意味を知らないんですよ」


「あら、カオルは、愛かプライドかって問いたいらしいわよ。私はそもそも、この星が養豚場になっていること自体、許してないわよ。愛とかプライドっていう綺麗事じゃない。私は、天界なんて潰せばいいと思ってるもの」


(このカオルは、俺じゃないよな?)



「リィン・キニク、街道沿いには、監視塔があるぞ」


 幼女がそう言うと、彼は、スーッと目を細めた。遠視か。そして、そのままあちこちに視線を移動している。



「魔王スパークの監視用だね。それに、この森のどこかにある冥界への入り口を探そうとしているのかしら。魔王クースの集落も探したいだろうから……私の息子はこのために殺されたのね」


 穏やかな表情をしているが、彼の言葉にはヒヤリとする鋭さを感じた。


「魔王キニクは、自己転生してヒナになっている。それをさらに焼こうとして山火事を起こしたようだが、彼が消した」


(は? 魔王キニクを狙った山火事?)


 俺の知らないことを、幼女はペラペラと喋っている。まぁ、大魔王だからな。当然、俺とは格が違うが。


「息子はこの森に隠れているようだね。ふむ、ますます、ぶっ潰したくなってきたね。でもそれだと、また、他の星系から変な爺さんが来るかしらねー」


「とりあえず、彼が人間を保護することで、仕組みが大きく変わるはずだ。それにアウン・コークンは、私の理解者だ」


 アイリス・トーリがそう言うと、彼は目を見開いた。


「シダ・ガオウルに関する記憶があるということか!?」


「あぁ、そうだ。だが、天界は気づいていない」


「ふふっ、面白くなってきたね。私は、精霊の声として、冥界神のことを聞いている。天界を潰せそうなんだけどな。そうしないということは、他に作戦でもあるのかな」


(完全に味方だよな?)


 そうか、この依頼にアイリス・トーリが何かを仕込んだから、彼女の味方が、俺のミッションを受注したのか。


「彼は、システム自体は悪くないと考えている。その運用に問題があると思っているらしい」


「それなら天界を潰せばいい。魂の転生システムを起動させているのは、ゴールド星だよ」


「私達が動いているとわかると、ゴールド星から潰しに来る。第二の魔王トーリが生まれるだけだ。だから、彼に賭けてみようと皇帝も言っていた」


(皇帝? バブリーなババァか)


 アイリス・トーリの話に、彼は少し考えているようだ。天界がキニク国を潰したのなら……自分の息子を殺されたのなら、許せないだろう。




「とりあえず、居酒屋ストリートを作ってから考えようか」


 リィリィさんは、ふわりと微笑んだ。イケメンスマイルが眩しくて、ムカつく。


「彼がすでに保護している人間の村に行くか? マチン族もいるが」


 アイリス・トーリがそう言うと、彼はまた目を見開いている。


「マチン族を手懐けたのかな? アウン・コークンさんは、かなりのやり手だね」


「手懐けたというか……助けられてますよ」


「へぇ、そっか」


 彼は、妖しげな笑みを浮かべている。マチン族と、対立しているのか?



「私が転移魔法を使う。ふざけるなよ? リィン・キニク」


「ふふっ、この森ではさすがに転移から落っこちました、はできないよ」


(は? 大魔王の転移をレジストするのか?)



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