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126、深き森 〜わさびを知るリィン・キニク

 リィン・キニクという名の天界人は、楽しそうにキョロキョロと周りを見回している。魔王キニクの父親だと言っていたが、見た目は、30代半ばだ。中性的な綺麗な顔をしている。金髪で長髪でスラっと背の高いイケメンだなんて……ムカつく。


(変な耳だな)


 彼は、天界への依頼を受注した天界人のはずなのに、耳が尖っていて長い。こんなアバターがあるのか? 天界では見たことがない。



「あの、リィン・キニクさん、ミッションを受注してくれたんですよね? わさびや備長炭がわかりますか?」


 俺がそう尋ねると、キョロキョロしていた彼は、妖しげに首を傾げた。やっぱり女性か? だが、確かに父と言ったよな?


「リィリィよ、アウン・コークンさん。アから始まる名前なのね。ウンコークン……あら、やだ、女神ユアンナってば最悪ね。くそ女神じゃない」


(日本語がわかるのか?)


「コイツの口癖だ。すぐに、くそっと言っていたが、どういう意味があるのだ?」


 アイリス・トーリは、その天界人に尋ねた。天界人には排泄物は、わからないんじゃないか?


「そうね〜、臭い魔物のフンという意味ね。くそっていうのは、悔しいときに呟く言葉だけど、フンという意味があるんだよ。それをストレートに表現すると、ウンコね」


(ウンコの説明なんて、初めて聞いた)


 話を聞いたアイリス・トーリは、ポカンと呆けた顔をしている。幼女らしい顔とも言えるか。



「リィン・キニクさんは、日本人だったんですね」


「リィリィよ。ええ、前世というのかは定かではないけど、日本人だったわよ。わさびは、わかるけど、備長炭は知らないわね。何をする準備なのかしら? 至急用件になっていたけど、現地で説明があると言われたのよね〜」


(わさびを知る日本人!)


「街道沿いに店を出すつもりなんです。寿司屋と焼肉屋。あわよくば、居酒屋ストリートにしたい」


「まぁっ! 寿司屋なの!? それに居酒屋ストリート!」


 天界人は、ワナワナと震えているようだが……。


「はい、だから寿司屋には、わさびや醤油、それに酢飯や海苔が欲しいんですが、どれもまだ手に入ってません。焼肉屋は、備長炭で焼くスタイルでいこうと考えています」


「すごいわね! でも店員はどうするの? この星の住人が、まともな接客をするとは思えないわね。まぁ、オーナーには愛想よくできるかもしれないけど」


 人間を使うとは言わない方がいいか。彼が元日本人だったとしても、天界人だからな。


「これから、集めていきますよ」


「そうなのね! じゃあ、森の賢者リィリィに任せなさい!」


(は? 森の賢者?)


 俺に与えられている女神の知識を探ってみる。だが、森の賢者に関する知識は無さそうだ。



「あの、リィリィさんは天界人なんですよね? 森の賢者って……」


 俺は、アイリス・トーリに、説明を求める合図を送った。すると、ウンコの説明で呆けていた幼女は、何かに気づいたかのような顔をした。


「リィン・キニク! 彼は、以前からおまえがうるさく言っていた人間の保護を、この森でやりたいようだ。だから、おまえが匿っている人間をこの森の街道沿いに移住させればいい」


(人間を匿っている?)


「あら、アウン・コークンさんも、考えていることは同じなのね? 人間が虐げられていること自体、許せないわよねー」


 この天界人は、オネエなのだろうか。昔からの知り合いのような勢いで、ぐいぐい来る。それに、俺のことを恐れないのは、やはり自分に自信があるのか。



「あの、根本的なことを伺ってもいいですか」


 アイリス・トーリは、俺の疑問には気づかない。失礼かもしれないが、ストレートに尋ねるしかない。


「何かしら?」


「森の賢者って、どういう意味ですか? それに見た目が中性的なんですけど、男性ですか」


 そう尋ねると、その天界人は、アイリス・トーリにチラッと視線を移した。幼女が頷いたことを確認してから、口を開く。


(用心深いタイプだな)



「私のことを話すわね。私は、日本人だったときは、女性だったの。とある短期大学で管理栄養士として教壇に立っていたわ。1999年には地球が滅亡するって言われてたから、その前にヨーロッパに旅行に行ったの。その旅の途中で……気がついたら、このブロンズ星のどこかの森の中にいたわ」


「昭和? いや平成ですか」


「平成って元号? 私は昭和生まれよ」


「昭和の次は平成という元号です。この世界に転生してきたら、男だったんですか」


「ふぅん、懐かしいわね。ええ、そうよ。しかも、上級魔族ね」


 彼は、耳を指差している。尖っている長い耳だけど、何だかよくわからない。


「天界人ではないのですか?」


「今は、一応、天界人よ。私のようなエルフ族……とは言ってもハーフエルフなんだけど、とても希少種で長寿なのよ。だから、よくわからないうちに、天界人に認定されたみたい」


 すると、幼女が口を開く。


「自己転生をするから、天界人にされたのだ。だから、やめておけと言ったのに」


(二人は、長い付き合いか)


 エルフ族についての女神から与えられた知識を探すと、長老を森の賢者と呼ぶという伝説らしき内容を見つけた。天界も、正確には把握できていないようだ。



「あの、森の賢者というのは、エルフのことですか?」


 そう尋ねると、アイリス・トーリが口を開く。


「精霊の力を持つエルフ族のことだ。純血のエルフ種は、もう絶滅しているからな。ハーフエルフの数人に、精霊の力がゆだねられている。だが、これは、天界は知らぬことだ」


(口止めか)


「そう、なんですね。リィリィさんが女性のような言葉を使うのは、やはり前世が女性だったからですか」


 そう尋ねると、彼は首を傾げた。


「女っぽいかしら? アイちゃんがいると、こんな話し方になってしまうのよ。アイちゃんってば、言葉遣いがダメなのよね」


(教えているのか)


 前世では、先生だったみたいだから、無意識に教育的なことをしてしまうのかもしれない。


「うるさいな。さっさと、わさびとやらを作れ」


 幼女が拗ねた。



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