表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

125/215

125、深き森 〜天界のトラップ

 俺達は、森の中をあちこち移動して、森にかかる縦断橋を利用する人のために、道を作っていった。


 とは言っても、整備された道路ではない。通れない部分に小さな橋をかけたり、歩きやすくするために整えたり、生い茂る深い森に人が通れる道を作っただけだ。


 俺が、橋を作ったり木を切り倒すと、アイリス・トーリはそれを補強したりバラバラに砕いたりしている。彼女の魔力は強すぎるから、たまに木を一瞬で消し炭にしていることもあった。


(ふっ、楽しそうだな)


 ぶつぶつと文句を言いつつも、道がキチンと通っていない部分を、俺に指示してきたりもする。


 彼女は、森を熟知しているから、魔物の主要な生息域をうまく避けているようだ。下手に踏み込んで、森の縦断橋に近寄られても困るからな。



「よし、こんなもんだろう。戻るか」


(へぇ、一緒に来る気か)


 彼女は、転移魔法を使った。だが着いた場所は、レプリーの村ではない。すぐ真上に縦断橋が見える広い草原だが、あの村からは、人間の足では歩けないくらい離れている。


「なぜ、原っぱなんだ? 転移先を間違えたか」


「いや、ここに集落を作ればいい。橋の管理もしやすいだろう?」


「集落を作ってから、ここに住まわせる人間を集めてくるのか?」


「は? おまえの住む集落ということにしておけばいい。橋の真下に、この森の領主の集落があれば、天界も橋を爆破しないだろう」


(爆破だと?)


 だが、そうか。縦断橋の中で、管理塔からスパーク城を監視するのに一番邪魔なのは、確かにこの橋だろうな。それに、天界が魔王クースの生まれる洞窟だと思い込んでいる川の下流付近だ。この先には、巨大な湖がある。


「ここに集落を作れば、ますます、あの洞窟に天界の目が向くからか」


「それもあるが、大きな川の近くに集落を作る方が、何かと便利だからな」


「それなら、ここに建物を集めればよかったな。ひとつしか置いてない」


 森の中の平原のあちこちに、余った3階建の建物を適当に置いてある。何かの避難所になるかと思ったんだよな。


「何かの目印として、置いてあるのではないのか?」


「いや、余ったから、適当に散らばらせてある。人間が森で迷ったときに、野宿をするよりはマシかと思ってな」


 俺がそう説明すると、彼女は呆けた顔をしている。



「おまえなー、結界を張ってなければ、何かの巣になるだけだ。そして、魔物を避ける結界があると、弱い人間には入れない」


(げっ……まじかよ)


「何とかしてくれよ」


「それなら、その建物に、管理する者を置くことだ。天界人なら喜んで管理の仕事を受けるだろうが……」


「いや、天界人は、使わねーよ。あちこちに散っているマチン族を集めてもらおうかな」


「マチン族は、パワースポットに引き寄せられるぞ」


(勝手に転移しちまうか)


「あぁ、そのたびに気合いで、持ち場に帰ってもらわないとな」


 俺がそう言うと、幼女は鼻で笑っている。愚策だとでも言いたいらしいな。


「天界人を使えばいい。人物株の配当代わりに、森の中の建物を貸し与えればいいだろ。放っておいても、宿屋を経営するはずだ。あの建物は、そもそも宿屋だからな」


「は? 森に天界人が入り込むじゃねーか」


「だが、そうなると、絶対に縦断橋は壊されないぞ」


 まぁ、そうかもしれないが……。アイリス・トーリは、この森に、天界人を寄せ付けたくないのではないのか?


(あっ、反天界派か)


 そうだ、人物株の出資条件に定めればいい。大株主になるには、俺の面接を義務付ける。そして大株主だけに、森に点在する建物を貸せばいい。


 隠れ家にもなるし、宿屋にもなる。使い方は、いろいろだ。


「なるほど、俺が面接をすればいいだけか」


「マナの濃いこの森自体に、魅力を感じる天界人も多いはずだ。それから、あちこちの魔王も、隠れ家として利用したがるかもしれんな」


「は? 魔王の隠れ家?」


 まぁ、あり得ない話ではない。有力な魔王は、ストレスがたまってそうだからな。




「じゃあ、そろそろ人間の村に戻るか」


 俺がそう言うと、彼女はそれを制した。何かを察知したのか?


「いや、意外と早かったな。今動くと、さっきの天界のトラップに、引っかかるぞ」


「何の話だ?」


 そう聞き返すと、幼女は、ため息をついた。


「わさびや備長炭の依頼を出しただろ。その受注者の転移先を、おまえの居場所にしたじゃないか。天界はアレで、おまえの滞在先を知ることになる」


「あっ……罠か」


 だから、この場所から動かないのか。この草原を俺の集落にしろとか言っていたくせに。まぁ、俺の住む集落がバレても、大した問題ではないが。



「受注されたって、よくわかったな」


「あぁ、印を付けておいたからな」


(は? 印?)


「もしかして、確認ボタンを押してドヤ顔をしていた、アレか」


「ドヤ顔とは、失礼だな」


 気分を害したのか、幼女はキッと俺を睨む。だが、不思議と全然怖くない。やはり、コイツと一緒にいると楽しい。




 目の前に、不思議な陽炎のような何かが見えた。


『アウン・コークンさん、依頼の受注者をひとり送りました。よろしくお願いします』


 頭の中に、そんな声が聞こえてきた。すると、陽炎のような何かが、徐々に実体化し始める。


 陽炎がピカッと強い光を放った。


 光が収まると、そこには性別不明な金色の長い髪の人が立っていた。30代半ばくらいに見える綺麗な顔をした、スラリと背の高い……女性か?



「わぉっ! この森に来てみたかったんだよね〜」


(声は男だな)


「やはり、おまえが来たか。リィン・キニク」


 アイリス・トーリは、冷たい視線を彼に向けた。


「ちょっと、アイちゃん? リィリィと呼んでちょうだいって、何度言えば覚えるのかしら」


(は? オネエ? いや、女か)


「リィン・キニクさん? キニクって……」


 俺が呆然としていると、その人の視線が俺に向いた。


「ボクは、リィン・キニク。魔王キニクの父だよ。キミが、アウン・コークンさんかな? よろしくね」


(魔王キニクの父親!?)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ