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124、深き森 〜縦断橋、設置完了

「アウン・コークンさん、受注者が現れたら、直接、貴方のいる場所へ導けばよろしいですね」


 アイリス・トーリに確認ボタンを押されて慌てていたくせに、もう、それを忘れたかのように取り繕う男。


「はい、それで構いません。よろしくお願いします」


 俺は、幼女に目配せをして、その部屋から出て行く。その場にいた魔王セバスの配下達は、彼女の動きしか見ていない。俺が、箱庭に何を仮設置したか、全く気にもしていないようだ。


(客寄せ幼女だな)



 管理塔から出ると、俺は彼女の腕をつかみ、転移魔法を唱えた。移動先は、目の前の橋の仮設置場だ。


「なぜ、この距離で転移魔法を使う?」


「天界の奴らが気付く前に、点滅している橋を設置完了させるぞ。手伝え」


「は? おまえ……はぁ」


 俺は、幼女をその場所に残し、橋の反対側へと転移した。ジワジワとスパーク国側を微調整で動かすど、彼女もそれに合わせて街道側の橋を動かしてくれる。


(よし、実体化した!)


 幼女の元に戻ると、すぐさま、別の場所へ移動して同じ作業を繰り返す。アイリス・トーリは、ずっと呆けているが、メインの縦断する橋が完成すると、やっと理解できてきたようだ。



「おい、次はジャンクションの調整だ」


「ふっ、わかった」


 俺達が転移をしたところに、天界の管理塔から、数人の人が出てきた。何かを叫んでいるが、聞こえない。


 幼女の腕をつかんで、あちこち転移しながら、ジャンクションを調整した。想像以上に、森の上にかけた橋は存在感がある。


「縦断する橋からは、森に降りられないようにしたい」


 俺がそう言うと、幼女は、ふふんと笑った。


「当たり前だ。集落に近すぎるからな」


「あくまでも、橋を利用する人の転落防止だ」


「わかっている。飛行するバカがぶつからないようにする必要もあるな」


 そう言うと、幼女は、橋に強力な魔力を流した。すると橋の両端が高くせり上がってきた。そして、反対側と繋がっていく。まるで巨大なドームが設置されたかのようだ。


「これだと、トンネルじゃねーか。景色が見えない道は、歩くのがつらいぞ」


「は? 何を言っている?」


「人間が、スパーク国から、街道へ荷物を運ぶことを考えてみろ。延々と続く上り坂が、どれくらいで下り坂に変わるか、目で見ないと疲れるだろ」


 そう説明しても、彼女は、首を傾げた。だが、サーッと手を振ると、空が見えてきた。は? 空がシマシマだ。部分的に、取り外したのか。壁の強度維持には、ドーム状にしておく必要があるらしい。


 ぴゅーっと風も感じる。完全に覆われているより、こっちの方がいいな。それに、橋への横風も弱まるか。


 俺は空へと浮かび上がり、まさに高速道路のような橋を眺めた。この橋は、管理塔の8階くらいだろうか。ここから管理塔は見えないが。



「追手が来たぞ」


 目の前に現れた幼女は、俺の手をつかみ、転移魔法を唱えた。転移の直前、目の前に鬼の形相をした、魔王セバスの顔が見えた。


(くくっ、気づきやがったか)


 橋はすべて、設置完了だ。街道沿いの少し森寄りにズラリと並べた3階建の建物も、すべて設置完了している。点滅の状態なら移動は容易たやすいが、設置したらそうはいかない。




 幼女が俺を連れて来たのは、森の北西にある洞窟だ。ここに、魔王クースが生まれる集落があると、天界が勘違いしている洞窟の1階の天井付近の突き出た岩場だった。


「なぜ、こんな狭い場所……」


「シッ! 絶対、動くな」


 俺の文句を制し、彼女はジッとしている。バリアも張らない。


 その直後、数人の影が現れた。そして、そのひとりが淡い光を放っている。この洞窟をサーチしているのか。それなら、バレるじゃねーか。だが、幼女はジッとしている。



「ここに入ったのは確かなはずですが、魔法の痕跡を追えません」


「ふむ、歩いて奥に進んだか、それとも集落への転移装置があるのか」


「転移装置を使っても、マナは残ります。全く魔法の痕跡がありません」


 天界人が4人か。俺達を追って来たらしい。うち、一人は魔王セバスか? さっきとは少し違って見えるが。


「中を捜索しますか?」


「いや、さすがにそれはできない。アウン・コークンの領地だ」


「ですが、こちらには正当な理由があります! 管理塔からの視界を著しく妨害するような工作物は、完全に設置を終える前に、撤去させる必要があります」


「大魔王を連れて来たのは、我々の注意を逸らすためだったのかもしれませんな」


「いや、そうとも限らん。あの新人は、何も考えていない可能性もある。下手に騒ぐとボロが出るぞ」


「はっ、だがしかし、あんな工作物で森を覆われたら、スパーク国の監視ができません」


「ふん、ならば壊せばよい。放っておいても、あんな巨大な工作物は、もろいだろう。魔物が森の中を駆け回るだけでも、崩れるのではないか?」


「とりあえず、下の階層までは行ってみますか」


「確か、下の階層には、妙な魔法陣があるという目撃情報もあります!」


 奴らは、俺達の真下をウロウロと歩き回り、洞窟の奥へと消えていった。


(気づかなかったのか?)




「もう、いいぞ」


 幼女は、天井近くの岩場から、地面へと飛び降りた。


「さっきのは、天界人か?」


「あぁ、魔王セバスと、その腰巾着だ」


「サーチしてるぜ? 降りてよかったのか?」


 俺も地面へと飛び降りた。なかなかの高さだな。


「下の階層に行ったからな。アイツらが魔法陣と呼んでいたのは、空間結界だ。怖がる者達を隠すための場所だから、外部とは遮断される。ここらを爆破しても聞こえぬぞ」


(いやいや、やめとけ)


「ふぅん、まぁ、うまくいってよかったぜ。やはりスパーク国を監視する気だったんだな」


「あぁ、それに森の監視もな。しかし、よく並べたよな。あははは」


「おまえが引き付けてくれている間に、微調整はしたからな。あとは、森の中の橋造りだ」


「まだ、私に頼るのか」


 ふっ、そう言いつつ、嬉しそうじゃねーか。



 俺は、彼女の腕をつかんで、転移魔法を唱えた。



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