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12、天界 〜研修⑤ クレーム対応、至急用件

 管理者のフロアから、俺は10階へと移動した。


「あぁ、アウン・コークンさん、ムルグウ国の鎮圧ありがとう。おかげで最悪の事態は回避でき、一連の仕事は、最小限に抑えることができましたよ。いや、最小限だったとは言えないか。あはは」


(いきなり何だ?)


 事務所へ入るとすぐに、見知らぬ男に声をかけられた。だが、ムルグウ国への介入を失敗した転生師だと直感した。


「俺は、新人なんで、そんな風にを言われても、なんだか困るんですけど」


「あはは、そうだよね。まだ、研修の転生者の承認が終わってないと聞いたよ。いきなりこんなことで、戸惑っただろう?」


 彼は、申し訳なさそうに、頭を下げている。そして、あまりにも元気がない。すれ違う人には、別れを告げる言葉をかけられている。


(追放でもされるのか?)




「もう、顔色はマシになったね」


 フロア長のアドル・フラットだ。俺は、もともと顔色が悪いんじゃないのか?


「少し眠りましたから」


「うーん、そうだね、丸一日ってところかな?」


(えっ? そんなに?)


 じゃあ、ゴブリンだった男、レプリーは、もう2歳になっているのか。あんな内乱があった国だ。無事に生き延びているか、不安になってくる。



「フロア長、ムルグウ国は……」


「ふふっ、大丈夫だよ。現地時間では、あれから1年ほど経つからね。もう国は復興しているし、内乱も起こっていないよ」


(そうか、よかった)


 俺がホッとしていたのがわかるのか、フロア長は、やわらかな笑みを浮かべている。吸血鬼のような顔をしているくせに、温厚な人だな。



「アウン・コークンさん、勲章の星を受け取ってきたようだね」


「あぁ、はい」


「特別なことのように感じるかもしれないけど、10階で勤務する人達は、ほとんどが勲章の星を持っている。だから、気負う必要はないよ」


(調子に乗るなということか)


「はぁ、俺は、新人なんで……」


「ふふっ、じゃあ、新人くん。女神様から知識を与えられているはずだけど、10階は少し違うから、説明しておくよ」


 フロア長は、表情を引き締めた。


(うわっ)


 彼が常に笑顔を浮かべている理由が、今、はっきりとわかった。


(真顔だと、怖っ)


 俺は、思わず背筋が伸びる。



「他のフロアとは違って、10階では、ほとんどすべてが自由なんだよ。このフロアの仕事をするしないも自由だし、デスクはどれを使うかも自由だ」


「仕事はしなくてもいいんですか」


 俺は、事務所に視線を移す。多くの人が働いているように見えるんだが。


「お客様相談室の報酬は、完全に出来高制なんだよ。だから、仕事をした分だけ、ポイントが得られる。仕事をしなければ、ポイントは得られない。それだけだ」


「は、はぁ」


「ただし、昨日のような緊急要請は、話は別だ。動ける状態なら拒否権はない。それがこのフロアのメインの仕事だからね。まぁ、別のフロアで働く死神の鎌を持つ人も、緊急要請は強制なんだけどね」


(だから、か)


 俺の研修を担当した幼女、アイリス・トーリがあの部屋を借りさせた理由がわかった。そして、10階に連れてきた理由も……。


 死神の鎌を持つということは、そういうことか。


 幼女が言っていた言葉が、今やっと理解できた。緊急要請に不可欠なんだ。他の奴らより戦闘力が高いということか。



「緊急要請は、多いのですか」


「難しい質問だね。多いときは、何十件も重なって、人選に苦労することもある。暇なときは、何ヶ月もボーっとしていたこともあったかな」


(へぇ、のんびりできるのか)


「そうですか」



「まぁ、新人くんは、一度クレーム対応をしてみようか。1件片付けてくれたら、仕事の流れがわかるだろうからね」


 そう言うと、フロア長は、近くの椅子に座った。もしかして、直々に指導する気か?


(それが彼の仕事か)




 パソコンのような画面に、ズラリと何かが表示されている。やはり、マウスもキーボードもない。


「ここにはサポートはないからね、目で選択するんだ。今回は、至急用件を開いてごらん」


(サポート? あの人工知能のことか)


 画面の大量の文字も、一瞬で読み取ることができる。この身体は、とんでもないスペックだな。



 俺は、至急用件を開く。すると、次々と表示されたものが消えていく。だが、すぐに新たなものが表示される。


「消えたり現れたり、動きが激しいですね」


「自室で仕事をする人もいるからね。至急用件は、すぐに対応すべき案件だから、報酬も高いんだよ。一度選択すると取りやめはできないから、気をつけなさい」


(誰かが開くと、消えるのか)


 用件のタイトル横には、報酬も表示されている。報酬の高いものは、一瞬で消えるようだ。



「あぁ、また、これか。新人くん、一番上のものを頼めるかな? 誰も引き受けないものは、リストの上にあがっていくんだよ」


「他のものとは違いますが」


「至急用件は、ほとんどが転生した者が、転生者特典を使って申請してくるものだ。だけど、魔王からのクレームや、村や集落からの要請もある。これは村からの要請だね」


 そうか。転生師が承認、確定した後、何かが起こったときには一度だけ、天界に助けを求めることができる。それが、転生特典だ。


 つまり、担当の転生師がいない転生者は、お客様相談室が世話をするのか。


 村や集落の要請には、貢ぎ物が必要なのだろう。神に、いや、天界に捧げる供物か。



「皆が嫌がる仕事ですか」


「そうだね。現地に行かなければならない案件は、この要請時までさかのぼって時を越えるから、疲れるんだよね。それに変装も必要だから面倒だ」


「時を越える転移と、変装?」


「心配はいらないよ。必要な物は支給される。あっ、新人くんにありがちな点を忠告しておく。地上では、魔法袋しか使えない。いま、持ち物はすべてアイテムボックスの中だろう? 使う物があれば、取り出しておきなさい」


「いえ、大丈夫です」


(ハンドタオルだけだからな)


 俺は、一番上の案件を開いた。



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