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119/215

119、ムルグウ国 〜人間の村へ

 俺達は、レプリーの村に転移してきた。


 アイリス・トーリの素性は、人間達は知らないだろう。ここは、魔族ということにしておこうか。



「わわっ! カオル様だ!」


 村の入り口近くにいた男が、俺に気づいた。あぁ、タオル屋だったか。村のあちこちから視線を感じる。なんだか、住人が増えてないか?


「あのさ、俺は魔族ってことにしておいて……って、おい!」


 小声で、口裏合わせをしようとしたのに、アイリス・トーリは俺の話をスルーして村の中に入っていく。


(ったく、大魔王様は……)


 仕方ない。俺は、彼女のあとを追った。




「わぁっ、アイちゃんだ。今日もかわいい〜」


「アイちゃん、遊びにきたの〜? 嬉しいな」


(は? アイちゃん? かわいい?)


 彼女は、あっという間に数人の女の子に囲まれた。人間の子供に、アイちゃんと呼ばせているのか。


「こんにちは。今日は、私はお仕事で来たの。あの人相の悪い人に依頼されたお仕事なの」


(は? なんだ、その話し方は)


 めちゃくちゃかわいい幼女のような話し方をしている。なんだか俺が、幼女をこき使っているように聞こえるじゃねーか。


「アイちゃん、知らないの? あの人はカオル様だよ。ムルグウ兵を追い返してくれたすごい魔族なの」


 7〜8歳の女の子が、小声で幼女に教えている。幼女は、チラッと俺の方を振り返り……ニヤッと笑いやがった。


「違うよ。あの人は、魔族じゃなく天界人だよ。遠くに領地を持ってるんだよ」


(ちょ……魔族だってことに……はぁ)


 女の子達は、急に怯えたような目をしている。天界人が人間に対してどういう態度を取ってきたかが、簡単に予想できるな。




「カオルさん!」


 どこからか、元気な声が聞こえた。この声は、マチン族のドムの息子ダンだな。この人間の村に一緒に来たことがある演技派の子だ。6〜7歳だったか。天界のイベントで、俺が大量に転生させたうちのひとりだ。


 ダンは、パタパタと子供っぽい仕草で、駆け寄ってきた。彼は、おそらくわざと、子供らしさを演出しているのだろう。人間の大人達を安心させようとする意図を感じる。


 白いフードを被るマチン族は、白帽子と呼ばれて恐れられているからな。


 ドムに、この村に移住希望者を集めるようにと頼んでおいたのは、少し無神経だったかな。



「ダン、久しぶりだな。迎えが遅くなって申し訳ない」


 俺がそう言うと、ダンは首を横にふるふると振って、満面の笑みを向けてくれた。


「あっ! アイちゃんが来てる!」


 ダンは、幼女の姿を見つけると、少し頬を赤く染めている。ちょ、まさか、おまえは俺のライバルか!?


「彼女のことを知ってるんだっけ?」


「はい! アイちゃんは、マチン族の守り神の印を授かる子みたいです。父ちゃんがそう言ってました」


(守り神の印か)


 ドムは、アイリス・トーリの本当の素性がわかっているのだろうか。冥界神を継ぐはずだったことを……。主たる刻印がないから、冥界神にはなれないようだが。


「あっ、カオルさんは、わからないかもです。アイちゃん自身も、まだよくわからないみたいですけど」


 俺が変な顔をしていたのか、ダンは慌てて言葉を補足した。アイちゃん自身もわからないということは……どういう設定だ?


「ダン、あの子がマチン族の守り神の印を授かるって、どうしてわかるの? 誰かが言ってた?」


「マチン族の半分以上は、守り神の印を授かる人に近寄ると、何かを感じるらしいです。ぼくにはわからないけど」


(古の魔王トーリの刻印か)


 確かに、ダンにはその刻印はない。俺が、別の星の住人だった魂を、ブロンズ星に転生させたのだからな。




「カオル、意外に早かったな」


 マチン族のドムだ。とても懐かしそうな顔をしている。あれから、数ヶ月は時間が経ったよな?


「ドム、待たせたな。箱庭を買ったら、山火事騒ぎが起こってさ〜」


(ちょっと、言い訳がましいか)


「ふっ、知ってるよ。アイさんが、ちょくちょく連絡に来てくれていたからな」


 ドムまでが、幼女に親しげな視線を向けている。大魔王だと知ってるよな? ドムも、俺のライバルか!?


「そうか、彼女がそんな連絡をしてくれているとは、知らなかったよ」


 俺がそう言うと、ドムは意外そうな表情を浮かべている。そして何かを思い出したのか、魔法袋を探っているようだ。


 ドムは、細い剣を取り出した。


(あぁ、忘れてた)


「カオル、これを返しておくよ」


 魔王スパークが俺にくれた剣だ。ドムが不安そうにしていたから、人質というか物質として、渡しておいたものだ。


 俺は、フッと笑って受け取り、腰に装備した。俺の領地になったあの森では、剣がある方が便利だ。魔王クースが生まれるパワースポットの近くで、死神の鎌は使えない。




「ドム、俺、寿司屋をすることにしたから、マチン族には警備を頼みたいんだ」


 俺が突然そんなことを言ったからか、ドムは目をパチクリさせている。


「カオル、すしや、って何だ?」


「まぁ、飯屋だな。俺の前世の料理だ。握り寿司と巻き寿司があってな。あっ! 海苔もないじゃねーか。寿司屋への道は険しいな」


 俺が頭を抱えたからか、ドムはケラケラと笑っている。笑わせるつもりじゃないんだが……。


(ふっ、安心したみたいだな)


 俺は、マチン族を俺の領地に住まわせると約束したが、完全には信じられなかったのだと思う。天界人は、マチン族をしいたげてきたからな。


 ドムは穏やかな笑顔だ。彼の顔を見ていると、俺は、理不尽に虐げられている者達を守ってやりたいと強く思った。



「ドムさん、この人相の悪い人ねー、わさびがどうとか、わけわかんないの。生魚を食べる店だって〜」


 幼女が、幼女のフリをして、話に割り込んできた。


「ええっ? 生魚? カオル、それは危険だろ」


 ドムが、表情を引き締めた。それに反して幼女は、ニタリと笑っていやがる。ふっ、だが、アイリス・トーリも、楽しそうだな。


「生食できる魚をあの森の湖で見つけたんだ。あとは、酢飯と醤油とわさびなんだ」


「おい、カオル、意味がわからんぞ」



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