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117、旧キニク国 〜魔王セバスに聞かせる芝居

 階段を使って2階へ下りていくと、腕を組み、口をへの字に結んだ幼女がいた。どうやら、この塔への立ち入りを拒否されているようだ。


 天界の塔だから、大魔王といえども、思うようにはいかないのか。そういえば、アイリス・トーリの天界での地位は知らねぇな。


 俺の後ろで、ビルクがギクリとしたのが伝わってきた。まぁ、鎌を暴走させて始末されることになったビルクとしては、アイリス・トーリは恐いだろう。


 さっきの話からして、彼女は、この塔の管理者らしき男……魔王セバスが出てくるのを待っているのかもしれない。


 彼女はこの塔を、管理塔だと言っていたか。監視塔と呼ぶ方が適切な表現だと思うけどな。


 この場所に塔を建てることは契約違反だとも言っていた。魔王セバスが勝手にしたことのようだが……古の魔王トーリの領地だった場所に、天界は塔を建てたかったのだな。


(忠誠の魔王だったか?)


 魔王セバスは天界に忠誠を誓っているということだよな。二つ名は、ある種の識別なのかもしれない。もしくは敵対する者への警告か。


 雷帝の二つ名を持つ大魔王リストーは、幼女アバターを身につけていても、しょっちゅう放電しているからな。




「こんなとこで、何をしてるんだ? セ・ン・パ・イ」


 俺がそう声をかけると、彼女はキッと睨んだ。そして、何ヵ所かに視線を移している。あちこちに、魔王セバスの配下がいると言いたいらしい。


 俺は、微かに頷いて見せた。すると、幼女はさらに不満げな表情を……わざと作っている。合図に気づいたらしい。魔王セバスの配下がいるなら、これを逆手に取る良い機会だからな。



「おい、スルーしてんじゃねぇぞ?」


 わざと、雑な言い方をしたことで、近くにいた兵は、警戒をゆるめたようだ。俺が彼女が大魔王だとは知らないとでも思ったか。


「おまえには関係のないことだ」


 幼女は、不満MAXな表情で、俺から視線を外す。芝居というより、本気でムカついているような気もするが。


(ふっ、おもしれー)



「暇そうだから、声をかけてみただけだが……暇だろ?」


「は? 私にそのような口の効き方を……」


「ちょっと人間を集めたいんだけど、集団転移魔法とか使えねーか? センパイ」


 魔王セバスの配下が、聞き耳を立てている。3階で感じた盗み聞きの気配もあるな。


 確か魔王セバスは、俺が彼女の正体を知ることを、知っていたよな? セバス国で、ビルクを殺すときに居たからな。


「は? 私に何かを依頼するつもりなのか? そんなことは……」


「大魔王は、ブロンズ星の治安維持が仕事なんじゃねーの? 俺が人間を集めたら、誘拐だとか騒がれて事件になっても知らねぇぞ」


 意味不明な理由を口走ると、彼女は呆けた顔をした。


「おまえ、まさか、私を脅しているつもりか? 人間なんて、どこでどれだけ消えても、事件にはならぬ」


(ククッ、おもしれー)


 俺の話の意図がわからず、目をパチクリさせる彼女。それは、魔王セバスの配下も同じだがな。



「俺、自分の転移はできても、集団転移なんてやったことないから、不安なんだよな。それから、水魔法を使える魔族も欲しい」


 そこまで話すと、彼女は気づいたようだ。やはり察しはいい。俺が店の従業員を集めるという理由をつけて、森に隠したい人を移住させる気だ、とな。


「魔族を誘拐すると、事件になるぞ。下級魔族でもダメだ」


「下級魔族に、水魔法が使える種族がいるのか? 山火事を消す程度の水魔法だぜ?」


 そう話すと、彼女は一瞬悔しそうな表情を浮かべた。下級魔族で、ろくな水魔法を使える種族は少ないからか?


「そんな魔力の高い魔族は、誘拐などできぬ。そもそも人間を集めてどうする?」


(ありゃ? その質問は失敗だろ)


 彼女は、芝居をすることに必死で、俺の店の件が知られていることを忘れている。これは少し不自然だな。軌道修正してやるか。


「おまえなー。店の従業員に決まってるだろ? わさびを探してたときに、店をやるって話しただろーが」


「あぁ、くだらない話だから忘れていた」


(不仲を演出中か?)


 魔王セバスの配下の関心が、薄れていくような気もする。おそらく、俺はチョロいと思われているしな。



「とりあえず、人間を集めたいから手伝ってくれよ。どこに人間の集落があるかも、おまえなら知ってるだろ?」


「は? 断る!」


(ちょ、断るなよ)


「おまえ、寿司屋に興味はないのか? 生の魚は美味いぜ」


「は? 生魚には毒があるだろ」


「北西の湖に、生食できる魚がいるのは調査済みだ。あとは、酢飯と醤油だよな。だがその前に従業員だ。手伝ってくれよ、暇だろ?」


「断る!!」


(また、断るだと?)



 俺は、ビルクに視線を移した。そして彼女を説得するようにと合図をしたが、ビルクはビビって、ちぎれんばかりに首を横に振っている。


 まぁ、コイツが天界派かどうかもわからないが……。味方だったとしても、ビルクに芝居は無理だろう。




「あの、少しよろしいですか?」


 なぜか、兵が小声で話しかけてきた。


「はい?」


「天界人は、ただ頼んでも動きませんよ? 自分に利益のないことですから。報酬を用意しませんと……」


(親切心か?)


「報酬ですか? 俺、あまりポイントは持ってなくて」


「それなら、貴方の領地の特産株を発行されたらどうですか? 俺は、経理塔の者なのですが……」


 その兵は、妙な笑顔を張り付けている。そういえば、経理塔は、特産株の取り扱いをしてるんだったな。



 すると、幼女がニッと笑って口を開く。


「特産株じゃなくて、人物株を発行するなら、出資してあげてもいい。ポイント出資の代わりに、労役提供をしてやってもいいぞ?」


(は? 人物株って何だ?)


 そう考えた瞬間、女神から与えられた知識が浮かんできた。領主に出資するということか。特産株は、領地に出資するんだったな。



「それはいい! 正式契約は天界にて、俺が担当させていただきますよ!」


 自称経理塔の者は、営業スマイルを浮かべている。コイツは、魔王セバスの配下ではないってことか?



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