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110、冥界 〜冥界神ガオウルの息子シダ

 話を終えると、彼女は再び歩き始めた。いつもとは違う弱々しい雰囲気に、俺は、何も反論できなくなっていた。


(くそっ、コイツが一番の被害者じゃねーか)



 アイリス・トーリは、古の魔王トーリの息子としてブロンズ星に転生した。そして理不尽な理由で天界によって殺され、魔王トーリが付した主たる刻印を砕く目的で性別を変更して、天界人として転生させられた。


 それなら、すべての記憶をリセットしてやればよかったのに……そうできない理由があったのか?



 アイリス・トーリは、古の魔王トーリの後継者としての力を受け継ぎながらも、主たる刻印がない。その刻印の意味はわからないが、王となるべき何かを備えるものなのだろう。


 その主たる刻印を復活させようとして、魔王クースが生まれるのか。魔王クースが実体化すると、その刻印のカケラが現れるようだ。


 それを天界が始末するのは、その主たる刻印に秘められた何かが、この世界の存続に関わる重大な力を与えることになるためか。いわゆる古の魔王トーリの遺産だな。



 古の魔王トーリの墓地であるこの場所には、この地の王であった男の強い呪縛が残されていると感じる。強大な力を持つ男は、ブロンズ星の役割に反対していたのだったな。


 シルバー星のあのバブリーなババァが言っていた、ブロンズ星がシルバー星の養豚場だという話は……。


(あー、もう、面倒くさい!)




「もうすぐ冥界から出る。ここで話した情報は、おまえにあの森の領主を続ける覚悟がなければ、結界を越えられない。記憶消去のために頭痛が起こるが、口は絶対に開くなよ? 魂が壊れるぞ」


 そう言った彼女は、いつもの毒舌幼女だ。もう気持ちを切り替えたのか。


「おまえ、天界にこんなことをされたとわかっていて、なぜ天界人なんかやってられるんだよ?」


「ふん、初めからわかっていれば、天界の縛りが生じる前に、天界を潰そうとしたかもしれん。だが、私が自分の過去を知ったのは、大魔王になってからだ」


「天界人に転生したとき、古の魔王トーリの息子だったという記憶はリセットされていたのか?」


「あぁ、何も覚えてなかったな。あっ……」


 幼女の周りに、急に青い大量の影が現れた。これは……。



『ソノコトバ、イツワリダ』


(冥界の番人か)


 彼女は、チッと舌打ちをしている。冥界では、嘘をつけないというのは、こういうことか。



「もうよい。あの先から地上へ出るぞ。光の中では、どれだけ頭が痛くても、絶対に口を開くなよ」


 彼女はそう言って歩き出そうとしたが、青い大量の影が、それを阻んでいる。嘘を訂正しないと通さない、ということか?


 幼女は、ため息をつき、死神の鎌をスーッと取り出した。コイツも持っていたのか。その鎌は、冥界の不思議なオーラに照らされて、いろいろな色に輝く。


 彼女が鎌を出すと、青い影は少し離れたようだ。死神の鎌は、すべての命を刈り取る。冥界にいる番人といえども、無事ではすまないのだろう。



『テイセイセヨ。イツワリハ、ミトメヌ』


 青い影がそんなことを言っているが、彼女は気にせず歩き始めた。鎌で脅して、押し通る気だな。


 だが、ここは冥界の中でも、たどり着けない場所だと言っていた。古の魔王トーリの墓地だからだろう。そんな場所で、息子だった魔王トーリの後継者が、こんなことをしても良いのか?



「おまえ、自分の背より長い鎌を振り回して、強引に通っていいのかよ」


「アウン・コークン、もう口を開くな。そろそろだ」



 青く強い光が集まる場所が見えてきた。あの中に入ると、冥界から出られるということか。


(あっ、ラスボスがいるじゃねーか)


 幼女が、チッと舌打ちしている。普段はいないのか?



 青紫色に光るリッチのような魔物……いや、コイツは、死神か。女神から与えられた知識によると、死神は、冥界にいるときは青っぽく輝く。その光が、冥界の色そのものになるとか。



『シダ様、ここでの嘘は訂正してください』


(シダ様って誰だ?)


「うるさい! 爺が出てくる必要はない。もう地上へ戻るところだ。訂正しなくても、どうせ彼の記憶からは消えることだ」


 アイリス・トーリが、殺気を帯びたような怒りを死神にぶつけている。しかも、爺と言ったか? 死神は彼女の爺なのか?


『坊ちゃんが話さないなら、私からお話しましょう』


(は? 坊ちゃん?)


「ふん、好きにしろ」


 幼女は、口をへの字に結び、持っていた鎌を消した。




『アウン・コークンという名か。女神ユアンナは、思想に注意を払うべき者と死神の鎌持ちには、識別のためにアから始まる名をつけている。そなたは、シダ様に縁のある者か?』


 死神も、俺の考えがわからないのか?


「シダ様というのは、彼女のことを言っているのか? 縁といえば、彼女は死神の鎌持ち全頭の教育係だ」


 俺がそう答えても、死神は違うと言いたいのか、不自然に頭を揺らす。



『そうか、天界の縛りを受けていないから知らぬのだな。シダ様は、ここにおられる。今はアイリス・トーリという名だ。天界が、シダ様を天界人に転生させたときには、私が重要な記憶を預かっていた。そして、この場所にたどり着かれたときに、お預かりしていた記憶はすべてお返しした』


「古の魔王トーリの息子だったときの名前か。なぜ様呼びを?」


『ふむ。魔王トーリと呼ばれる前は、我が主人は、冥界神であった』


「冥界神なんて、聞いたことないぞ」


(冥界にいる神は、死神だろ?)


『そのように歪められたか。冥界神ガオウル様を知らぬか。トーリ・ガオウル様は、この星では魔王トーリと名乗られた。シダ・ガオウル様は、冥界神を継がれるはずだった』


(は? 冥界神を継ぐ?)


 彼女の方に視線を移しても、口はへの字のままだ。


『そなたは、カオルと呼ばれていたな? 音には縁が繋がる。以前、ここに来たカオルという名を持つ女は失敗したがな。あの者を遠ざけるために、天界はわざわざ星まで造った』


(シルバー星のバブリーなババァのことか?)


『シダ様との縁はあるか? そなたの名は?』



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