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108、冥界 〜古の魔王トーリの墓地

「は? 寿司屋? あぁ、漁を依頼したのか」


 毒舌幼女は、住人達の思考を覗いていたことを自ら暴露している。大魔王リストーの行為は、すべての者が受け入れるのか?


(ふっ、暴君だな)


「あぁ、この森には、しいたげられている者達を集める。そいつらの仕事が必要だろう?」


 俺がそう言うと、アイリス・トーリは、わずかに笑ったように見えた。


「表向きの誘拐理由か。おまえにしては悪くない。マチン族を移住させるのは、その店の護衛か?」


(完全に見抜かれているな)


「あぁ、店は、主に人間にやらせる。街道沿いの店は、いろいろな種族の往来があるだろうから、当然、強い護衛が必要だ。だが、森への立ち入りを封じることはできないのが、悩みどころだ」


 これで通じるだろう。彼女も、俺の思考が覗けないらしいが、勘はいいはずだ、



「私に、この森を守れと言っているのか」


(やはり、良い勘してるじゃねーか)


 だが、それができないことも、俺はわかっている。ストレートに依頼しても、彼女は断るしか選択肢がないだろう。それが、天界人魔王の縛りだ。


 チカラを持つ魔王には、首輪をつけないと統制できないのかもしれない。


「おまえにそんな依頼ができれば、楽なんだがな。無理だということは、俺でもわかっている。だが、気にかけておいてくれ。このブロンズ星の治安維持は、大魔王の仕事だろ」


 俺がそう言うと、毒舌幼女は一瞬意外そうに、目を見開いた。


「なるほど、確かに少しはマシになったようだな」


(言葉遣いのことか?)


 誰に聞いたのかは、尋ねるまでもないな。転生塔の管理者リーナさんだろう。



 アイリス・トーリは何かをジッと考えていたようだが、フッと吹っ切れたような笑みを浮かべた。 


「仕事に戻るぞ。おまえが行方不明だから、天災塔の奴らまで、この森を捜している」


「アイツらは、ただ、この森を調査したいだけだろ?」


 俺がそう言うと、彼女はフッと笑った。何かを面白がっているようにも見える。



「奥の部屋から出て行く。皆もしばらくは外へ出るな」


 毒舌幼女は、住人達にそう言うと、俺の腕をつかんで歩き出した。ロロと目が合ったが、なぜか俺に対しても跪き、敬意を表している。


(大魔王とタメ口で話したせいか)


 アイリス・トーリは、何も気にせず、いろいろなことを話していた。彼らを信用しているというよりは、記憶操作でもしているかのようだが……。



 ◇◇◇



「声を出すなよ? 魂を潰されるぞ」


「は?」


 毒舌幼女は、パワースポットのある場所で、そんなことを言った。俺の反論を手で制し、そして俺の腕を掴んだまま、パワースポットの光の中に入っていく。


(うわ、何だ?)


 ぐにゃりと景色が歪み、地面を歩いているのに、身体全体の感覚がおかしい。いや、視覚がおかしいのか。平衡感覚も失われる。




 少し進み、感覚が戻ってくると、彼女に掴まれている左手首がザワザワと騒ぎ始めた。正確にいえば、左手首に入っている死神の鎌が、暴れている状態だ。


 そして目に見える景色は、薄い青紫色に染まっていた。洞窟の中のようにも感じるが、あまりにも色がおかしい。


「もう、話してもいいぞ」


 そう言うと、幼女は俺から手を離した。



「ここは、パワースポットの中なのか?」


「難しい質問だな。正確に教えるなら、ここは死神の棲む冥界だ。ここから溢れた光をパワースポットと呼んでいる」


(冥界だと?)


「ちょ、俺は死んだってことか?」


「は? 何を寝ぼけておる、スカタン! 死神の鎌を持つ者は、冥界への出入りは可能だ。ただ、ここへは普通はたどり着けないがな」


 幼女は、青紫色の光が満ちた薄暗い通路を歩いていく。俺も離れないように後をついていくと、急に明るい場所に出た。だが、地上に上がったわけではない。


 まるで、実験室かのような、巨大な水槽が通路の両側にズラリと並んでいた。



「あっ! あれは……」


 その水槽の一つに、見覚えのある顔を見つけた。


(アンゼリカだ!)


「おい、これはどういうことだよ? なぜ、アンゼリカが実験動物にされてる?」


「騒ぐな、迷惑だ。皆、眠っている」


 幼女は静かな声で、そう言うと、フーッと深いため息をついた。ここに連れてきたら、俺が騒ぐことはわかっていたはずだ。


 なぜ、アンゼリカは冥界にいる? なぜ、実験動物のように扱われているんだ!




「アウン・コークン、少し教えてやる」


 幼女は立ち止まって、俺を振り返った。


(なっ!?)


 彼女のその表情は、言い表せないほど深く悲しんでいるように見える。こんな顔を、俺に見せていいのか?



「ここは冥界だ。嘘偽りは通用しない。番人も居るからな」


 幼女が視線を向けた場所には、スーッと横切る青い影が見えた。死神の番人か。冥界の死神に仕える兵だろうが……まぁ、幽霊に近い。


 番人は、嘘偽りを見抜き、制裁を加える役割だったか。コイツらが、この水槽を管理しているのか?



 幼女は、何かを考えているようだ。しかし、フルフルと首を振った。


「アイリス・トーリ、仕事に戻るんじゃねーのか?」


「すぐにおまえが見つかったというよりは、ある程度待たせる方がいい。何を知りたい? ここなら話せる。この場所は、古の魔王トーリの墓地だからな」


(は? なぜ、そんな……)


「俺に、何を教えるつもりだ?」


「おまえが知りたいと望むことだ。天界では話せぬ。ここならば、何の縛りもない」


(いきなり、何なんだ?)



「アンゼリカは、なぜ眠っている?」


 そう尋ねると、幼女はフンと鼻を鳴らした。愚問だったのか?


「ここには、魔王クースになりたい者が眠っている。条件が整えば、ここから出て執行人によって殺されることで、魔王クースとして刻印転生をすることになる」


「条件が整わない者は?」


「私が転生させる。ここでの記憶を削除し、古の魔王トーリの刻印も消えた状態で、同じ姿で転生させる」


 幼女は、無表情だ。なぜ天界人が、魔王トーリの刻印を消せるんだ?



「おまえは、一体、何者なんだ?」


 俺が思わずそう尋ねると、彼女は寂しげな笑みを浮かべた。



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