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107、深き森 〜鈴をつけられた?

「カオルさん、この森の北側に街道が作られるのは、森の北部が山火事で焼けたからですか?」


 昼食が終わると、集落の住人がそう尋ねてきた。焼き魚の試食会で俺に慣れたのか、普通に話しかけてくる。


「キニク国が滅ぼされたからみたいですよ。以前は、キニク国を横断するように街道が通ってたそうですが」


 俺がそう答えると、スパーク国から来ているロロ達は頷いている。だが、この集落の原住民は知らないらしい。この森から出たことのない者も多いようだ。



「街道が、森の北部に隣接するなら、山火事で焼けた部分はどうなるのでしょうか。いろいろな国の人達が入ってくるんですよね」


 年配の住人が不安そうにそう呟くと、他の住人達にもその不安が伝染していく。


(魔王クース狙いの奴らか)


 これまでも、この集落は魔王クース狙いの奴らに、数え切れないほど襲撃されているのだろう。死神の鎌に操られたビルクが暴れたのも、ここだろうからな。


 集落の住人の不安そうな様子に反して、ロロ達は平気な顔だ。スパーク国から来た彼らは、やはり死にたがりは変わらないか。


 そういえば、ロロ達は結婚しないんだよな。今の生活よりも、転生して魂の格を上げることが大事らしい。スパーク城の使用人達からも、浮いた話は聞いたことがなかった。


 一方で、この集落には子供も住んでいる。粗末な小屋だが、家族で住んでいる家もあるようだ。


 集落にある意思を持つパワースポットは、古の魔王トーリの刻印のある者を集めている。この集落を維持する住人達には、死にたがる様子はない。これは、天界の転生システムの影響を受けていないからか。


 だが、この集落の者達も被害者だ。古の魔王トーリによる縛りをずっと受け継いでいるのだからな。刻印転生により魔王クースとなる者が、一番の被害者だと思うが……。



「皆さん、俺がこの森の箱庭を買ったから、そう簡単に侵略させませんよ。所有者権限で、俺はこの森への侵略行為を排除できますからね」


(そのために買ったんだからな)


 俺がそう言うと、少し雰囲気は明るくなったようだ。だが、ほんの少しだな。俺が排除すると宣言しただけでは、安心できないか。襲撃者は、大抵は天界人だろうからな。



「カオルくんは、強いですもんね。でも天界とブロンズ星では、大きな時間の流れの差がありますから……」


 ロロは、俺にヒントをくれたらしい。集落の人達がどうすれば安心できるのか……。


(やはり、護衛か?)


「ロロさん、集落を守る人が必要ってことですね?」


 そう尋ねると、ロロは頷いた。天界人を跳ね返す絶対的な守護者でなければ、意味はない。


 ふと俺の頭に、毒舌幼女の顔が浮かんだ。大魔王リストー、このブロンズ星を統べる王だ。これ以上ないほどの絶対的な守護者だが……。


(アイツが味方するわけはないか)


 マチン族のドムをサーチしたとき、担当した転生師にアイツの名前が出てきた。大魔王だから、この集落のことも理解しているだろう。


 だが、説得できる気はしない。大魔王という地位にあるのだから、天界からの縛りは相当なものだろう。古の魔王トーリのパワースポットを潰すことはできても、守護することは難しいか。




 突然、ロロ達が慌てたようにひざまずいた。


(この反応は、アイさん?)


 俺は、わずかに期待しながら振り向いた。だが、そこにいたのは、アイさんではない。


 俺の心臓がドクンと音を立てた。



「やはり、ここに居たのだな。念話が通じないから、ここだと思った。仕事を放り出して何を遊んでいるのだ、スカタン!」


(ふっ、元気じゃねーか)


 口をへの字に結び、幼女が仁王立ちしていた。


「おまえなー、いきなりそれかよ。この森では、俺は領主だぜ」


 アイリス・トーリが、この村でどう知られているかはわからない。この反応は、アイさんに対するモノと同じだ。地位のある天界人だと思われているのか?


 毒舌幼女は、跪く人達に視線を移して、何かをしている。あぁ、思考を覗いているのか。


「私は、ブロンズ星を統べる大魔王だ。領主如きが、ピーピー騒ぐなよ?」


(へぇ、それはバレていいのか)


「その姿のときは、天界人のアイちゃんじゃねーのかよ」


「は? おまえ、口の利き方がマシになったんじゃなかったのか? 新人の頃と何も変わってないじゃないか、スカタン!」


「俺は、相手を見て話し方を変えている。おまえがそう教えたんだよ!」


 転生塔で、リーナさんと初めて会ったときに、コイツが言っていたことだ。


「おまえは、ほんとに超ド級のスカタンだな。しかも、鈴をつけられただろ? 天界にこの場所がバレたらどうするんだ、スカタン!」


(コイツ、絶好調だな。スカタンを何回言った?)


「鈴って、何だよ?」


 そう尋ねると、毒舌幼女は俺の魔法袋を奪いやがった。そして、勝手に中身を物色している。普通なら、こんなことはできない。俺の魔力を大幅に上回る者にしか、装備中の魔法袋は奪えないはずだ。



「これだ! 一応、私の指示に従っているようだな」


 彼女は、魔道具の入った麻袋をひらひらさせている。


「転移塔で山火事見舞いとしてもらったんだ。魔道具塔の試作品だと言っていたが、鈴ではない。天界への転移の魔道具だぜ」


「アウン・コークン、これは探知器だ。持つ者の居場所の情報が知られる。魔法袋に入っていても効果は変わらない。これを仕込んだ奴は、おまえが北西部の洞窟に潜ったと感知したようだ」


「洞窟なんか、行ってねーぞ」


「大きな川沿いに降りたのだろう? 川上にいけば、洞窟がある。そこには、古の魔王トーリの遺跡があるから、魔王クースを生み出す集落もそこにあると考えたらしい」


 そう話しながら、毒舌幼女は鈴の魔道具を入れた麻袋の状態を確認している。壊す気はないようだな。


「俺は、川下に行った」


「だろうな。あの湖にも、調査が入るはずだ、皆、しばらくは近寄らないように」


 彼女がそう言うと、集落の人達は戸惑いながらも了解の返事をした。


「待てよ! 寿司屋ができねーだろ!」



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