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105、深き森 〜原住民の食事情

「あら、鈴の反応が消えたわね」


 天界の転移塔の一室では、先程アウン・コークンに魔道具を渡した魔女っ子が、焦った表情を浮かべている。


「わ、私は、キチンと説明しました。使う前日には、魔力の充填を開始するようにとも……。魔王クースの森には妙な風が吹くから、魔道具の魔力信号が流されているのかもしれません」


「まぁ、いいわ。あの子、何も考えずに飛翔魔法を使っているから、映像で追えるわ。ふむ、あの森の中央だと聞いていたけど、かなり北西部に降りたようね」


「森が焼けてしまったから、そう見えますね。あの付近では、厄介な洞窟を発見したという調査報告がありました」


「へぇ、魔王クースを生み出す場所は、その洞窟で決まりかしら? ふふっ」




 ◇◆◇◆◇



 俺は、大きな川のすぐそばに降りた。川幅が広く、流れは穏やかだ。上空から見たときよりも、数倍広く感じる。


 川上の方には、高い山が見える。この川の水は、山々からの湧き水が集まってできているのだろう。川下の方は、海はないだろうから湖か?


 俺は、川に沿って、川下へと低い位置を飛んでいく。森全体を見渡せる高さまで上がると、川がよく見えないからな。


 しばらく飛ぶと、ひらけた場所に出た。


(海か?)


 上空から、こんな場所があるとは気づかなかった。あぁ、そうか。この森には、魔王クースを生み出すパワースポットがある。上空から見つけられなかったのは、そのためか。


(隠しているらしいな)



 広い海のように見えるが、これは湖だろう。天災塔で会ったラキエルが、大きい湖があると言っていたのは、これのことだ。


 しかし、ラキエル……魔王ラキエルの国は、ここからは随分と離れている。それなのに、この湖のことを知っているということは、ここに何度も立ち入っているということだな。


 この森は緩衝地帯だったから、誰が立ち入ってもよかったのだろうが、今は俺の領地になった。この森に集落を作るなら、やはり防衛をしっかりしないとマズイな。



 湖の中をジッと見ていくと、湖を守る水系の魔物がいるようだ。湖底には、洞穴のようなものも見える。


(なんかワクワクする!)


 魔物だけでなく、普通に魚もたくさんいるようだ。海鮮居酒屋は確定だな。だが、毒を持つ魚ばかりでも困る。ロロ達が知っているかもしれないから聞いてみるか。


 周りをぐるりと調べてみると、この湖に通じる道はいくつかあるようだ。ロロ達がいる集落からも、この湖に来るのかもしれないな。




「あっ! か、カオルさん?」


 湖岸を歩いていると、粗末な身なりの魔族に声をかけられた。ロロ達のいる集落の原住民だ。たった二人か?


「あぁ、こんにちは」


 俺は、怖がらせないように気をつけて、笑顔を作った。


「こんな所で、何をされてるのですか? あっ、領主様だから」


「呼び方は、カオルでいいですよ。大きな湖があると聞いていたから、食べられる魚がいるのかと思って見に来たんです」


 俺がそう言うと、彼らはパッと笑みを浮かべた。


「美味しい魚は、たくさんいますよ! 俺達も漁に来たんです。見ていてください」


 俺に声をかけてきた男は、湖に向かって何かの魔法を放った。すると、水面から勢いよく魚が飛び出す。それをもう一人の若い男が凍らせて岸に引き寄せた。


 湖岸には、凍った魚が数十匹、転がっている。それを魔法袋にスーッと収納する。よく慣れた連携だ。



「すごい、一瞬で捕まえられるんで……えっ?」


 若い男が俺の手を掴んだ。


「逃げますよ!」


 水面に大きな水柱が上がった。その次の瞬間、俺達は転移の光に包まれていた。



 ◇◇◇



「あっ、カオルさん?」


 転移した先は、ロロ達のいる集落だ。しかも、青い光のパワースポットの近くだった。


「領主さ……カオルさんが湖に居たから、連れてきました。漁をしたので、あの場所に置いておくのは危険だから」


「そうか、ご苦労様。カオルさん、湖で何を?」


 原住民は、俺の顔と名前を完全に覚えているらしい。見たことのない者も、俺をカオルと呼ぶ。



「食べられる魚がいるのかと思って……」


 俺がそう答えると、やはりその男も目を輝かせた。


「たくさんいますよ! カオルさんは、魚を食べるんですね。わぁっ、嬉しいです。スパーク国の人達は、魚を怖がって食べてくれないから」


(怖がる?)


「ロロ達が、魚を怖がるのですか?」


 そう話していると、念話を受けたのか、魔王クースと共にロロが転移してきた。



「カオルくん! ひゃ、こんなに早いと思ってなくて、集落の候補地の調査は、まだ終わってないんです。すみません」


 ロロは、深々と頭を下げた。そういえば、そんなことを頼んでいたか。


「ロロさん、大丈夫ですよ。まだ、山火事の後片付けも終わっていませんし。山火事のせいで、ちょっとこの付近の魔物が変わってきましたよね?」


 俺がそう返事をすると、ロロはホッとしたような表情を浮かべた。


「そうなんです。簡単には倒せない魔物もいます。だから、この付近での狩りが厳しくて……うげっ! また魚ですかー!?」


 若い男が、さっき湖で捕まえた魚を、凍ったまま地面に並べている。ロロは、ギョッとした顔なんだよな。


「ロロさん、魚は嫌いなんですか?」


「えっ? いや、あの、このまま焼いたりするんですよ。恐ろしい姿のまま、皿に並べられても……」


「魚は、焼き魚にして食べるんですか?」


「スープに入っているのは、まだいいんですけど……いや、スープもね、たまに頭を丸ごと煮込んだりしてね……」


 ロロは、ぶるっと身震いしている。魚の頭が嫌いなのか?


「ロロさん、俺の前世では、魚は生食もしていましたよ? 小さな魚は、そのまま焼いたり煮たり……」


 そこまで話すと、ロロはブルブルと震え出した。そして、俺を見る目が、恐怖に染まっている。


(なぜだ?)



「じゃあ、カオルさんには、この魚の丸焼きを食べてもらおうかな。すっごく美味しいんですよ!」


 そう言って見せられた魚は……思わず叫びそうになるほど、グロテスクだった。



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