104、深き森 〜鈴のような転移の魔道具
「カオルさん、街道の件も払わなくて済んで、よかったですね。旧キニク国にあった街道を森沿いに再建するだけだから、当然、災害塔が出すのが筋ですよ!」
魔道具塔を出て、いま俺は転移塔に向かっている。賑やかに話すビルクは、少し浮かれているようだ。
「まぁ、そうですね」
「しかし、ラプスが意外にも上手く動いてくれましたね」
(何の話だ?)
ほとんど話を聞いてなかった俺としては、首を傾げるしかなかった。だが、ビルクに、気にする様子はない。まぁ、いいか。
◇◇◇
転移塔に着き、身分チェックをすると、魔女っ子が現れた。いつもの人とは別人だが、似たような大きな帽子を被っている。
「カオルさん、俺は特別にラプスの補助で行きますから、現地でお会いしましょう!」
ビルクは大きく手を振り、ウキウキとした様子で来た道を戻っていく。俺をここに送り届けただけか。完全に俺のマネージャー状態だな。
(現地でと言ったか?)
ビルクは、あんなことをしでかした罰として、数年はブロンズ星には、立ち入れないんじゃなかったか? だから、ブロンズ星にいる浮気相手や子供に会えないとか……。
ラプスが上手く動いたというのは、そういうことか。なんか、言ってたような気もするが、俺は毒舌幼女に気を取られていて、ほとんど聞こえてなかったんだよな。
どうやら、アイリス・トーリが、広大な森の北側に街道を作るらしい。特殊な箱庭を使うから、現地での調整に莫大な魔力が必要になることで、彼女に頼むことにしたらしい。
ただ、俺からすれば、街道はいくつもの国を繋ぐことになるから、魔王ラプスとしては、大魔王リストーにやらせたかったのだと思う。
魔王ラプスは、聖職者のような上品すぎる知的イケメンだが、あのアバターの中身は、なかなかの策士だと感じた。
人は見かけによらぬもの。アバターで姿を変えられる魔王も天界人も、当然、この言葉が当てはまる。
「アウン・コークンさん、所有者権限での転移準備が整いました。今回は、山火事の復興義務に基づく転移ですので、利用料はかかりません。帰還の際には、念話で連絡いただければ現地時間で数日以内には準備できます。お急ぎなら、天界への転移魔法を唱えていただくと、転移塔が自動的にアウン・コークンさんをキャッチします」
魔女っ子の説明に、俺は疑問を感じた。俺は天界へ転移する能力は与えられていない。
「天界への転移魔法ですか?」
「あぁ、はい。あれ? 星40個で解放されますけど……まだ、40個集まってないのですか?」
魔女っ子は、首を傾げている。俺の状態が歪なのだろう。
「星は20個しか集まってませんよ。核に怪我をしたときに、いくつかの能力が解放されたらしいですが」
俺がそう説明すると、魔女っ子は手を口に当てて、目を潤ませている。突然の変貌ぶりに、俺は何か失言をしたかと焦った。
「まぁ、なんてこと。よくご無事でしたね。魔王の波動を備えていらっしゃるから、勘違いしました。それが解放されてしまうなんて……深い傷でしたね」
(同情してくれているのか?)
何かがバレたのかと焦ったじゃねーか。まぁ、キツイ怪我だったな。
「ブロンズ星で、3ヶ月、置物ミッションをしてましたよ」
魔女っ子は、うんうんと頷き、俺に何かを差し出した。
「だから、すぐに安い森を買われたのですね。それなのに山火事だなんて……なんて、お気の毒な……」
「いえ、あの、これは?」
俺は手渡された鈴のようなものを持ち上げて、魔女っ子に尋ねる。
「これは、魔道具塔が試作した、天界への転移の魔道具です。せめてものお見舞いに差し上げます。消費魔力が大きいので、使う前日から魔力充填をしておかれることをお勧めします」
(天界への転移魔道具!)
「ありがとうございます、助かります」
「いえ、こんなものでは、たいしたお見舞いにもなりませんが……どうぞ、お気をつけて」
(うん? 何か……気のせいか?)
俺は、魔女っ子の転移魔法で、ブロンズ星へと移動した。
◇◇◇
到着した場所は、旧キニク国の南部か。おそらく街道を作る予定地だろう。
手に持っていた鈴のような魔道具は、強い魔力を秘めた輝きで、まるで高価な宝物のようだ。
(あっ、袋、袋)
さっき、魔道具塔で毒舌幼女から、何枚かの袋を渡されていた。天界の物をブロンズ星に持ち込むときは、必ず袋に入れろと言っていたか。天界の魔道具は、星へ影響を与えてしまうことがあるらしい。必ず、確実に遮断しろと言っていたっけ。
俺は、鈴のような魔道具を袋に入れた。すると、大きめの麻袋のように見えていた袋は、一瞬で形を変え、魔道具を収納する透明な容器のようなものに変わった。
(へぇ、面白い)
この袋も、魔道具らしいな。
容器の中に入った鈴のような魔道具からは、先程までの強い輝きは消えている。
念のため、もう一枚の袋に透明な容器を入れる。今度は、麻袋のような袋は変化しない。キチンと遮断できているということだろう。
俺は、転移の魔道具を麻袋のまま、魔法袋へと収納した。
(これでよし)
俺は、飛翔魔法を唱えた。
山火事の被害を確認しながら、ロロ達のいる集落へ向かう。ついでに、川や池、そして湖も探しながら進んでいく。
深い森は、旧キニク国側がかなりの面積、焼けてしまっていた。だが、天界で話しているうちに、ブロンズ星では、ふた月くらいは時間が経過したようだ。
焼け野原になっていた場所には、草が生えていて、空から見ると草原のように見える。これなら、特に何かをする必要も無さそうだな。
だが、北部に棲む強い魔物が、南下してしまったようだ。ロロ達のいる集落は、完全な結界があるが、あの近くにレプリー達のような人間の村を作るのは、難しいかもしれない。
それに、ロロ達のいる魔王クースが生まれる集落は、天界が見つけると……攻め込むバカがいるだろう。
(おっ、デカイ川を発見!)
俺は飛翔魔法を解除し、ロロ達の集落とは少し離れた場所に、降り立った。




