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103/215

103、天界 〜箱庭師ビルクと……

 俺はビルクを連れて、天災塔から出て、魔道具塔へ向かった。天災塔では静かだったビルクは、外に出ると勢いよく喋り始めた。


「カオルさん、あぶなかったですよ。奴らはカオルさんを、魔王クースを独り占めしようとしている危険人物扱いしてたんです! だから、俺は……」


(ふっ、必死だな)


「ビルクさんは、俺をかばうために、知り合いではないと言ってたんですね」


「えっ、あ、まぁ……。こんなに親しくしてもらっているのに、すみません」


 ビルクは、深々と頭を下げた。いや、別に親しいつもりはない。なぜか、俺のマネージャー状態にはなっているが……。


「俺は、魔王クースなんてどうでもいいんです。鎌にエサをやって乗っ取られるのも嫌ですからね」


「カオルさんなら、乗っ取られることはないですよ! 絶対に! 自信を持ってください」


(嫌味で言ったんだが……)


 ビルクは、こういう奴なんだよな。ある種の子分肌な面もあるし、一方で自分を大きく見せようとしたり……。まぁ、自分に素直なのだろう。


 ただ、悪い奴ではないとは思う。ざっくりと言えば、ビルクはお調子者だな。だから、鎌にまで利用される。



 ◇◇◇



 箱庭のパーツを扱う魔道具塔に着いた。ここは、今のビルクの勤務地でもある。ビルクは、以前は死神の鎌持ちの転生師だったが、一度死んで、新たに天界人に生まれ変わった。この転生をリベンジ転生と呼ぶのだったな。


 転生させたのは俺だが、毒舌幼女アイリス・トーリの指示に従っただけだ。あの頃の俺は、転生師レベルも一桁の、ド新人だった。それなのにリベンジ転生ができたのは、おそらく幼女が助けたのだと思う。


 ふっと、あの幼女の姿が頭に浮かんだ。俺の中では、アイツは、人混みを嫌い、口をへの字に結んで不機嫌そうにしているボッチのお嬢ちゃんなんだよな。


 見た目に反して、強烈な毒舌だ。だが、俺も負けずに言い返していた。そのやり取りが楽しかった。


 俺の記憶の中で、あの研修の短い期間や、死神の鎌と戦ったことが、どんどん美化されていっている。ムカついたけど、楽しかった。


(はぁ、なぜ大魔王なんだよ、くそっ)


 俺はやはり、アイツのことが……。


 いや、でも、アイさんのことが気になっているのも事実だ。俺は、どっちが好きなのだろう? アイさんがアイツに似ているから気になっているのか?


(はぁ……くそっ、全然わからねー)




「カオルさん、たくさんのパーツが必要ですよね? 見積書は、俺がしっかり立ち合いますから、安心してください」


「あぁ、任せるよ」


 エレベーターに乗ると、ビルクは、ニコニコと嬉しそうに、少年のような笑みを浮かべている。今のビルクが身につけているアバターは、オッサンの姿だが。


(俺のマネージャーが楽しいのか)


 まぁ、ビルクがリベンジ転生をしたことは、それなりに力を持つ人には、バレてきたみたいだしな。俺の近くにいることで、自分を守りたいのかもしれない。


 転生師レベルが少し上がってわかってきたが、死神の鎌持ちのリベンジ転生は、かなり難しいみたいだ。新人には不可能だろう。


 ビルクは転生師ではなく、箱庭師に格下げになっている。これは、転生させた転生師、すなわち俺の能力の限界だろう。


 だが、処罰的な意味で、箱庭師にされたと考えられているらしい。そう誘導しているのは、転生塔の管理者リーナさんだろうな。


 そういえば、ビルクの奥さんは、彼が転生したことを知らないフリをしていたか。彼女は、イベント塔の管理者よりも能力が高いようだった。今も、知らないフリをしているのだろうか。




 エレベーターが到着したのは、かなり高層階だ。階数は見なかったが……ここは、管理者の部屋か。


「ラプスさん! 旧キニク国の……うげっ」


 ビルクは、俺の背に隠れやがった。何だ?


(うわっ!)


 俺の心臓が、ドクンと飛び跳ねた。


 髪の長い聖職者のような上品な知的イケメンがこちらを振り向くと、その彼と話していたらしい小さな姿が見えた。


(やべ、俺は……)


 ガラにもなく、俺の心臓はドクンドクンとうるさい。



「ビルクさん、遅かったですね。天災塔は、厄介ですからね〜。そちらの方が、アウン・コークンさんですね? 私は、この魔道具塔の管理者ラプスと申します。アシュ・ビルクがご迷惑をおかけしています」


「い、いえ。ビルクさんには、いろいろと教えてもらっていますから。あの……ラプスさんは……」


(魔王ラプスか?)


「あぁ、私は、アシュ・ビルクの息子のようなものですよ」


 うん? 彼にも、俺の頭の中は覗けないらしい。


「そうですか。えーっと……」


(なぜ、毒舌幼女が居るんだ?)


 もしかして、アイリス・トーリは、この管理者ラプスと深い関係なのだろうか。魔王ラプスといえば、ブロンズ星では有力な魔王だ。大魔王リストーと、そういう関係でもおかしくない、のか?


 俺も、魔王になれば、コイツとも……いや、それはダメだな。俺は、魔王にはなれない。そんな気もないし、何よりバブリーなババァの手駒だ。


 ロロ達を……ブロンズ星で理不尽にしいたげられている人達を救うことは、天界の縛りがある魔王にはできない。



「旧キニク国南部の山火事復興の見積書ですよね。ビルクさんが遅かったので、既に出来ていますよ。アウン・コークンさん、こちらで確認していただけますか」


 上品な知的イケメンスマイルを浮かべ、ラプスさんは俺を手招きした。


(なんか、ムカつく)


 俺が近づいていくと、毒舌幼女は、窓の方へと歩いていってしまった。俺は、避けられているのだろうか。


(なんか……苦しい)



「ビルクさんも、来てください。貴方が説明するのでしょう?」


「い、いや、あぁ、まぁ、そうだったが」


 ビルクは、なんだか様子がおかしい。そういえば、ビルクもアイリス・トーリを見つけて、変な声を出していたな。


「あぁ、現地の調整は、彼女にも同行してもらうから、お呼びしてるのですよ」


(毒舌幼女が、現地の調整だと?)


 俺の心臓は、またドクンドクンと騒がしくなってきた。



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