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102、天界 〜嘘から出たアイデア

「街道沿いで、焼肉屋? レヌーガの肉を焼く店ですか?」


 俺が苦し紛れに口にした購入理由に、ラキエルは首を傾げている。そうか、ブロンズ星には、焼肉屋はないか。そもそも、タレ文化もないかもしれない。


 天界では箱庭を買うという行為は、投資や投機だと考えられているらしい。だから、儲かるから買ったと言うしかないと、咄嗟に口から出たのが焼肉屋だ。


(だが、悪くないか)



「俺の前世では、ひと口大に小さく切った肉を、各自で炭火で焼いて食べる店があったんですよ。天界にはそんな店はないでしょう?」


「食事を提供する店は、各塔にありますよ? でも、客が自分で焼くのですか?」


 ラキエルは不思議そうな顔だ。口の悪いダクトは、怪訝な顔をして口を開く。


「客に調理をさせるなんて、店として失格だ」


「自分の食べたい焼き加減で焼くから、美味いんですよ。それに、ビール……いや、こっちならエールか、焼きながら飲むと余計にエールが美味いんです」


 俺がそう力説しても、彼らにはピンと来ないらしい。俺としては、それでいい。天界人に興味を持たれたくないからな。



 魔族が支配するブロンズ星では、人間は奴隷という位置付けだ。種族の格が一番低い。だからこそ、しいたげられている人間を店員として集めても、誰も気にもしないだろう。


(これは、使えるかもな)


 嘘から出たアイデアだったが、これでレプリー達をあの森に移住させる理由ができた。


 深い森だから、火事にならないように気をつけさせないといけない。その見回りのために、魔術に優れたマチン族を雇うことも不自然ではない。


(やべ、ワクワクしてきた)


 とりあえずは、まずは1軒だな。そして様子を見ながら増やしていこうか。焼肉屋だけじゃなく、焼鳥屋も欲しい。海鮮を扱う居酒屋もあれば嬉しい。


 隣接するスパーク国は、農業国だ。新鮮な野菜も手に入る。海鮮料理に必要な魚はどうするかな。深い森の中には、池ならあるか。


 旧キニク国は、沼地だらけだったと言っていた。ということは、あの付近が低地で水が溜まりやすいのか? 流れ込む水源があるのかもしれない。




「……さん、ウンコくっさ」


(は? あー、名前か)


「アウン・コークンさん、どうしました? なんだか……」


 ラキエルは、何度も呼びかけていたらしい。


「あぁ、すみません。水源がなかったかなと考えていて」


「水源? あぁ、あの森ですか。池はいくつもあるはずですよ。それに、起伏の激しい西部には、大きな湖もありますね。ただ、知能の高い水系の魔物もいるようですけど」


(大きな湖!)


 それなら魚は大丈夫だよな。海鮮居酒屋が、現実味を帯びてきた!


「そうでしたか。じゃあ、あの森を買ったのは正解だったな。海鮮居酒屋まで出来る」


「はい? かいせん?」


「いえ、こちらの話です。じゃあ、俺はそろそろ……」



 俺がくるりと向きを変えると、口の悪いダクトが、俺の腕を掴んだ。


「逃げるなよ、山火事の後始末をする義務があるぜ」


(は? 逃げるかよ)



「アウン・コークンさん、再度確認しますが、あの森を買った理由は、焼肉屋という店をして儲けたいから、ということで間違いありませんか」


 ラキエルは、いつの間にか壁を、大きな画面に切り替えていた。そして、俺が買った森が映し出されている。動きが非常に速い。ということは、ライブ映像か。天界の1日は、ブロンズ星では1年だからな。


「まだ、店の候補地は決めていないですけどね」


 俺がそう答えると、ラキエルは満足そうな笑みを浮かべた。なんだか、嫌な予感がする。


「街道沿いと言ってましたね。ということは、北側に街道を整備しましょうか」


(旧キニク国側か)


 そう言いつつ、ラキエルは、画面にスーッと線を引いた。巨大な森の北側沿いに、とんでもない距離だ。


「まさか、そんな距離の道造りを俺に要求するのですか? 俺が買ったのは、現行の森ですけど」



「旧キニク国は放置しておくと砂漠化して、ますます森が北に広がるでしょう。街道は、魔道具塔が造りますよ。その費用を負担いただければ、街道沿いの森側は、貴方の領地として、無料で差し上げます。悪い話じゃないでしょう?」


 ラキエルは、当初からそのつもりだったらしいな。その費用の見積書まで作成済みだ。


「俺としては、森の南側から野菜を仕入れたいから、そんなに離れた場所だと、面倒ですね」


 そう反論すると、それも想定していたらしい。箱庭に並べるミニチュアが大量に映し出された。


「それなら、森を縦断する道を作ればいいのですよ。安全な道にするためには、生態系を調べる必要がありますから、これは天災塔が請け負いますよ?」


(それが狙いか)


 道を作るコストよりも膨大な調査費用が、画面に表示されている。なるほどな、これが、コイツらの狙いだな。森の中を自由に出入りし、魔王クースが生まれる場所を探したいのだろう。調査を依頼すれば、その権限を与えることになる。


 コイツらは、もし俺が魔王クースを狙っているなら、それに協力すると言っただろうな。



「森を縦断する道は作りませんよ」


 俺がそう言うと、ラキエルはなぜかニヤッと笑った。


「アウン・コークンさん、調査料なら、この価格から大幅に値引きしますよ? 今回、山火事で燃えた部分は、箱庭で樹木を買って補われますよね。山火事は天災ですから、それを考慮して……」


「箱庭のパーツは使いますけど、道を作らないのはコストのことだけではないんですよ」


「経理塔で、融資を受けることもできますよ?」


 親切そうな顔をしているラキエルだが、その目の奥は笑ってない。そんなに立ち入りたいのか。



「資金のことではありません!」


 俺がピシャリと言い返すと、ラキエルはスーッと目を細めた。機嫌が悪くなったか。


「他に問題でも?」


「道を作ってしまうと、いつ攻め込まれるかと魔王スパークが怯えるでしょう? 森は緩衝地帯ですからね」


 俺がそう言うと、ラキエルは口を閉ざした。もう、彼は反論できないようだな。魔王であることの制約だろう。



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