表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/215

1、天界 〜理不尽な転生

新作始めました。

皆様、よろしくお願いします。

『人生とは、必ず帳尻ちょうじりが合うものだ』


 誰が言い出したか知らないが、それは大間違いだと俺は思う。勝ち組はずっと勝ち組だし、負け組はずっと底辺から抜け出せない。


「くそっ!」


 それが、俺の、最期に呟いた言葉だった。



 ◇◆◇◆◇



「はーい、お兄さん、こんにちは〜」


(ここは、どこだ?)


 目の前には、乙姫おとひめか何かのような、和装のコスプレをしたオバサンがいる。声が出ない。えっと、俺は何をしていたっけ?


 あぁ、そうだ。土砂降りの中、むりやり行かされた宅地造成の工事現場で、崖が崩れて、俺は……。


 ということは、ここは病院か。身体は動かない。痛みも感じない。まさか、とんでもない大怪我を負ったのか?



「オバサンは、ひどいな〜。私は、まだ300歳ちょっとのピチピチお姉さんなのよん」


(はい?)


 ふわりと浮上するような感覚の後、急に身体の重さを感じた。手足の感覚も戻っている。びしょ濡れだった服も乾いているようだ。


「ささ、お兄さん、立って立って〜。こっちに来て、サクッと選んじゃおう」


 ニコニコと無言の圧力をかけられ、仕方なく、俺はゆっくりと立ち上がる。


(普通に動けそうだ)

 


 彼女の手招きに従って移動すると、何かの画面らしきものが見えた。まるで、新規ゲームの画面だ。


 何かの登録のために、アバターをつくるようだ。適当なイケメンにしておこうか。


 どんな魔法を習得したいですか。

 アナタの希望を教えてください。


(この病院、大丈夫か?)


 ふと自分の服が気になった。きったねー。あちこちボロボロに破れ、乾いた泥や血がこびりついている。


 どんな汚れ物もきれいに洗えるような魔法があれば、便利だろうな。まぁ、あり得ないことだが……。


(必殺クリーニング屋魔法、なんてな)



 ピロリロリーン!


 何かが当選したかのような音が響き渡った。



「お兄さん、おめでとう! やったね」


 オバサンは、俺の横に一瞬で近寄ってきた。


(どうやって移動した?)


 まるでワープでもしたかのような動きだ。いや、あり得ない。見間違いか。


「お兄さんの次の人生は、天界人に決定しました〜! ふむふむ、転生師だね。エリート職だよ。やったね」


「意味がわからないんですけど」


「お兄さんが習得した特殊魔法は、すっご〜い浄化魔法だもん。転生師しかないね」


「はい?」


(浄化って、クリーニングのことか?)


「もちろん服の洗濯もできるよ。その浄化魔法なら、心のクリーニングや、魂の浄化まで可能だよん。その顔だと、魂の刈り取りもできちゃうね。すっごぉい! なんでも屋さんじゃない」


(顔? 適当に選んだアバターのことか?)



「ささ、次の人どうぞ〜」


 正体不明の自称お姉さんは、パチンと手を叩いた。すると、俺の身体は、ビュンとどこかへ運ばれていった。


(夢か……)


 そういえば、妙に眠い。変な夢だな。



 ◇◆◇◆◇



 ジリリリリ〜


 巨大な音に驚いて目を覚ますと、俺は見覚えのない場所にいた。いや、ちょっと待て。ここは俺の部屋だ。


(ん? 俺の部屋?)


 上体を起こすと、頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。寝起きに何しやがるんだ、くそ女神! 


(は? くそ女神って誰だ?)


 寝ぼけているのか。事故で頭を打った後遺症か。いや、ちょっと待て。それは前世の俺の話だ。今は、天界人に転生し……。


(へ? 転生だと?)


 俺は、混乱していた。問いかける自分と、その答えを知っている自分がいる。



 コンコン!



「新人くーん、大変なの〜。お名前を決めるのを忘れてたよん。何にしよっか?」


 どこかの歌劇団かのようなドレスを着たオバサン……いや、くそ女神が、勝手に俺の部屋に入ってきた。


「もう、やぁね。口が悪いんだからぁ。昨日は忙しかったんだもの、仕方ないでしょ」


「何も言ってませんけど」


 彼女のことを、なぜ、くそ女神だと思っているのかは不明だが、声を聞くとイライラする。


(あ、いや、わかった)


 昨夜、眠っている間に、コイツが大量の知識を、俺の頭にぶち込んだのだ。そして一方的に、理不尽な役割を与えられた。くそだ、くそっ。


「もう、そんなことばっかり言うなら……あ、ウンコくんにしちゃうよん」


 そう言うと、くそ女神は、パチンと手を叩いた。


(くそっ!)


 俺の名前が決まった。アウン・コークンだと? ふざけるな! 俺は、芦田 かおるだ。



「初仕事は、サポートがつくよん。よろしくね〜」


 仕事って何? そう尋ねようとしたときには、くそ女神は、もう居ない。



 立ち上がった俺は、大きな鏡に映る自分の姿に気づいた。


 あぁ……これが、新たな俺の姿か。ゲームのような画面で、適当につくったイケメンだ。


 黒髪に色白で切長な鋭い目、まるで暗殺者だな。年齢は死んだ時と同じ24歳だと言っていたか。そのわりには、若く見えるけど。


 本来なら、次の人生を選ぶときには、すべてを説明してから選択させる。しかし、くそ女神は、何の説明もしなかった。


 そのせいで俺は、辞める人が続出のブラックな職種、転生師にされちまったんだ。


(くそっ! 絶対に辞めてやる)



 ただ、女神が転生させた者は、自ら辞めることができないらしい。しかし、失敗が多いとリストラ対象になり、そのうち地上へ追放されると言っていたか。


 それなら、すべての仕事を失敗して、最短でリストラされてやろうじゃねぇか!



読んでいただき、ありがとうございます。

しばらくは、毎日更新予定です。

ちょくちょく覗いていただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 早速拝読させていただき、1話から吹きましたw あらすじで『アウン・コークンという変な名前』とあったのが、まさかそういう経緯だったとは! とても面白いです。また寄らせて頂きます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ