1、天界 〜理不尽な転生
新作始めました。
皆様、よろしくお願いします。
『人生とは、必ず帳尻が合うものだ』
誰が言い出したか知らないが、それは大間違いだと俺は思う。勝ち組はずっと勝ち組だし、負け組はずっと底辺から抜け出せない。
「くそっ!」
それが、俺の、最期に呟いた言葉だった。
◇◆◇◆◇
「はーい、お兄さん、こんにちは〜」
(ここは、どこだ?)
目の前には、乙姫か何かのような、和装のコスプレをしたオバサンがいる。声が出ない。えっと、俺は何をしていたっけ?
あぁ、そうだ。土砂降りの中、むりやり行かされた宅地造成の工事現場で、崖が崩れて、俺は……。
ということは、ここは病院か。身体は動かない。痛みも感じない。まさか、とんでもない大怪我を負ったのか?
「オバサンは、ひどいな〜。私は、まだ300歳ちょっとのピチピチお姉さんなのよん」
(はい?)
ふわりと浮上するような感覚の後、急に身体の重さを感じた。手足の感覚も戻っている。びしょ濡れだった服も乾いているようだ。
「ささ、お兄さん、立って立って〜。こっちに来て、サクッと選んじゃおう」
ニコニコと無言の圧力をかけられ、仕方なく、俺はゆっくりと立ち上がる。
(普通に動けそうだ)
彼女の手招きに従って移動すると、何かの画面らしきものが見えた。まるで、新規ゲームの画面だ。
何かの登録のために、アバターをつくるようだ。適当なイケメンにしておこうか。
どんな魔法を習得したいですか。
アナタの希望を教えてください。
(この病院、大丈夫か?)
ふと自分の服が気になった。きったねー。あちこちボロボロに破れ、乾いた泥や血がこびりついている。
どんな汚れ物もきれいに洗えるような魔法があれば、便利だろうな。まぁ、あり得ないことだが……。
(必殺クリーニング屋魔法、なんてな)
ピロリロリーン!
何かが当選したかのような音が響き渡った。
「お兄さん、おめでとう! やったね」
オバサンは、俺の横に一瞬で近寄ってきた。
(どうやって移動した?)
まるでワープでもしたかのような動きだ。いや、あり得ない。見間違いか。
「お兄さんの次の人生は、天界人に決定しました〜! ふむふむ、転生師だね。エリート職だよ。やったね」
「意味がわからないんですけど」
「お兄さんが習得した特殊魔法は、すっご〜い浄化魔法だもん。転生師しかないね」
「はい?」
(浄化って、クリーニングのことか?)
「もちろん服の洗濯もできるよ。その浄化魔法なら、心のクリーニングや、魂の浄化まで可能だよん。その顔だと、魂の刈り取りもできちゃうね。すっごぉい! なんでも屋さんじゃない」
(顔? 適当に選んだアバターのことか?)
「ささ、次の人どうぞ〜」
正体不明の自称お姉さんは、パチンと手を叩いた。すると、俺の身体は、ビュンとどこかへ運ばれていった。
(夢か……)
そういえば、妙に眠い。変な夢だな。
◇◆◇◆◇
ジリリリリ〜
巨大な音に驚いて目を覚ますと、俺は見覚えのない場所にいた。いや、ちょっと待て。ここは俺の部屋だ。
(ん? 俺の部屋?)
上体を起こすと、頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。寝起きに何しやがるんだ、くそ女神!
(は? くそ女神って誰だ?)
寝ぼけているのか。事故で頭を打った後遺症か。いや、ちょっと待て。それは前世の俺の話だ。今は、天界人に転生し……。
(へ? 転生だと?)
俺は、混乱していた。問いかける自分と、その答えを知っている自分がいる。
コンコン!
「新人くーん、大変なの〜。お名前を決めるのを忘れてたよん。何にしよっか?」
どこかの歌劇団かのようなドレスを着たオバサン……いや、くそ女神が、勝手に俺の部屋に入ってきた。
「もう、やぁね。口が悪いんだからぁ。昨日は忙しかったんだもの、仕方ないでしょ」
「何も言ってませんけど」
彼女のことを、なぜ、くそ女神だと思っているのかは不明だが、声を聞くとイライラする。
(あ、いや、わかった)
昨夜、眠っている間に、コイツが大量の知識を、俺の頭にぶち込んだのだ。そして一方的に、理不尽な役割を与えられた。くそだ、くそっ。
「もう、そんなことばっかり言うなら……あ、ウンコくんにしちゃうよん」
そう言うと、くそ女神は、パチンと手を叩いた。
(くそっ!)
俺の名前が決まった。アウン・コークンだと? ふざけるな! 俺は、芦田 薫だ。
「初仕事は、サポートがつくよん。よろしくね〜」
仕事って何? そう尋ねようとしたときには、くそ女神は、もう居ない。
立ち上がった俺は、大きな鏡に映る自分の姿に気づいた。
あぁ……これが、新たな俺の姿か。ゲームのような画面で、適当につくったイケメンだ。
黒髪に色白で切長な鋭い目、まるで暗殺者だな。年齢は死んだ時と同じ24歳だと言っていたか。そのわりには、若く見えるけど。
本来なら、次の人生を選ぶときには、すべてを説明してから選択させる。しかし、くそ女神は、何の説明もしなかった。
そのせいで俺は、辞める人が続出のブラックな職種、転生師にされちまったんだ。
(くそっ! 絶対に辞めてやる)
ただ、女神が転生させた者は、自ら辞めることができないらしい。しかし、失敗が多いとリストラ対象になり、そのうち地上へ追放されると言っていたか。
それなら、すべての仕事を失敗して、最短でリストラされてやろうじゃねぇか!
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