ふとんのなか
9時。はみがきをしたあとだから、ボクの口からは甘いかおりがした。さむい冬のよるだ。
ボクはふとんにはいる。目をとじて、はなから息をすいこむ。足さきはつめたい。口から息をはきながらさがしものをはじめた。
足をうごかすとふれる。剣だ。
この剣はボクが作ったさいきょうの剣。12月、保育園の発表会でみんなにみせたんだ。
やっとうちにもってかえってきたのに弟がとった。
だからたたいてやったんだ。そしたら剣をつかって弟がとっしんしてきた。そこからは剣のひっぱりあいだ。
ああ、そのときひっかかれたほっぺたがいたい。
ぼくのさがしものはこれじゃない。ボクはふとんを頭までかぶった。
目を開けてみる。真っ暗だ。ボクはさがしものを見つけるために目を閉じた。
また足をうごかす。ふれた。へんにまとわりつく感じ。これはくもの巣だ。
ボクが病院に行くのがいやで逃げたときにツゲの生垣をこえたら、くもがうでにくっついてきたんだよな。
きっとゴールテープみたいにくもの巣に飛び込んでたんだ。気づいたときには手にも顔にもくもの巣がへばりついてた。
くもが長い足をばたつかせながらうでを登ってきててさ。ふりほどこうとしても消えてくれないんだ。
ボクは両うでを交差させてぎゅっとパジャマをつかんだ。
せなかを丸め足をむねに引きつけると、ふれた。クレヨンだ。
ボクはふとんにもぐりクレヨンのふたを開けて絵をかきはじめた。
真っ黒の中を赤、きいろ、青3本まとめて線を引く。白でぐるぐると世界を広げる。ゆびにこするようなかんしょくが生まれる。
できた。みて、これはボク。これは弟、これは剣、これはくも。
さがしものはまだ見つからない。ボクはクレヨンを手ばなして油くさくなったふとんから顔を出した。
息をすう。入ってきた空気がボクの体を伸ばす。足さきがふれる。これだ、ボクのさがしものはこれだ。
ボクは足をさらにくっつける。となりでねているパパのあったかい足。ボクはつめたいボクの足さきをパパの足の間にもぐりこませる。
ボクに気づいたパパがこっちに向きなおりボクをだきしめてくれた。あったかい。
ボクのふとんのなかが、手のひらを見つけた雪のようにぬくもりでとけていった。
貴重なお時間をいただいて、お読みいただきありがとうございます。私は冬の夜、布団の中で足を温めてもらうのが好きでした。不安を感じているときに抱きしめてもらう安心感は格別でした。読んでくださった方それぞれの、さがしものが見つかりますよう願っています。