手掛かり 2
カイン 主人公30歳 元サラリーマン
異世界転移済み。頭に輪っか付 月牙鏟
イナホ 天狐 日課:太陽礼拝
ギース ベテランハンター 銛 銅ランク
メイリン ギルド受付兼酒場のウェイトレス
シルビア ギースの婚約者 眠り姫
ガイ 自衛団 イヤなやつ シルビアの幼馴染
俺とギースとイナホは村営酒場に戻ってきた。
今はガイの対応にイライラしながら飲んでいた。
「なかなか腹立つやつでしたねぇ。あのガイって人はいつもあんな感じなんですか?」
「あぁ。そうだな。ガイはシルビアの幼馴染だったらしいんだ。シルビアのご両親からはシルビアの相手はガイだと思ってた。だとよ。それ、俺に言うか?」
ギースもイライラしながらビールを飲み干している。
「あら?ギース。私に乗り換える気?いつ目が覚めるかわからないお姫様より生の身体はきっと魅力に溢れてるわよ」
メイリンさんってこんなお色家キャラだったんだぁ……
もう少しお近づきになろうかな……
ギロッ……なぜかイナホに睨まれた……。
「メイリンちゃんには悪いんだけどな。聖教国ロウからきてる高位治療術師は毎回違う人がきている。次来る治癒師は最近名前が噂になってる人だ。確か聖ニノとか言ったか?そんな噂の人物で実は期待してる」
「うん?治療するなら患者容態を常に把握したほうがいいと思いますけど、なんで違う人なんです?」
「どうもこの手の難病や重態の患者を治した治癒師は別途報酬がつくらしい。だから治癒師の中でもこの手の依頼は取合いらしい。ま、その分治ったときはいつもに合わせて金貨3枚が追加でかかるけどな」
へぇ。色んな商売があるもんだなぁ。
「でもギースさん?金貨3枚ってちょっと多くないです?」
「まぁ、一括払いってわけでもねぇからよ。やりようはあるんだわ。支払われない時はやべぇらしいけどな」
「や、やべぇとは?」
「俺も詳しくは知らんが、嘘や詐欺が死罪になる国だ。依頼者が無理ならその血縁の誰かが支払わないといけないとか……とにかく意地でも支払わせるらしいぜ」
あんまり関わりたくない話だけど、とりあえずギースさんは俺があげた金の指輪があれば大丈夫だろう。
俺はラタトゥイユもどきを口に突っ込みながら話を聞き流した。この肉ってなんの肉だろ?案外歯ごたえがあって好きかも。
−−−−−−−−−−
夜も深くなりお酒も入りだした頃、俺はギースにシルビアさんのことを聞いてみた。
「ギースさん、シルビアさんとはどんな関係だったんですか?」
「あれ?言ってなかったか?婚約者だ。」
「だからそんなに尽くしてるんですね。治療は毎月って言ってましたけど、進展はあるんですか?」
「いや、残念ながらよくわからん。皆、高位治療術師というだけあって寝たきりでも床ずれとかがおきないような治療はしてくれている。どうやら不動でも体内循環をあげることができるそうだが。まぁ、それだけでも価値があるから、来てもらうんだ」
「そうですか。ちなみにシルビアさんってなんで寝たきりになっちゃったんですか?」
「実はな、おめぇが"人買い"を探してるだろ。それに少し関係がある。あの日シルビアと俺が襲撃されたのはその"人買い"の関係者にやられたらしい。
俺がおめぇと一緒にいるのはそういう意図もあるんだわ。」
「シルビアさんも"人買い"絡みなんですね……昼前、ガイとか言う人が言ってましたけど、ホントに"人買い"はその筋の人には有名なんですね。」
「あぁ。まぁ、手掛かりはないから今はやるべきことをやるだけだがな。」
「そうですね。あ、シルビアさんの治療って次はいつなんですか?」
「ちょうど明後日だ」
「じゃあ明日も簡単な依頼ですか?」
「そのつもりだが、なんかあったか?」
「いえ、今日の自分の動き考えてて……。俺、月牙鏟をあんま振れてないんですよ。身体が振り回されるんです。」
「そうだな。身体に慣れさせる必要があるわな。まずは型を覚えるとこから始めるか。明日の朝、月牙鏟持って東の広場まで来いよ。ちょっと教えてやる」
「あ、ありがとうございます。」
「よし、なら今日はおひらきにすっかな。じゃまた明日な」
「あっ、今日は俺出しますんで。じゃあ、おやすみなさい」
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支払いを済ませて部屋に入るとイナホが声をかけてきた。相変わらず酒をちびちび飲む狐だが、全く酔ったりはしなさそうだ。
「カイン。明日槍の練習に行くなら、彼に気功術も習うのがいい。」
「え?いきなりどうした?気功術なんてそんなすぐ覚えれないでしょ」
「自分から諦めたら得れるものはないよ。キミのいた世界は緩みすぎている。キミが少しでも生きていきたいと思うなら少しでも早く気功術は習うべきだよ。」
「あ、え?あ。わかった。
にしてもイナホ?なんで二人の時しかあんまり喋んないの?」
「ボクの声は聞こえない人もいるんだ。カインは聞き取れないことはないと思うけどね。それに、声を発するのも実態を維持するのも、結構大変なんだよ」
「そ、そういうもんか。わかった。ならイイや。でも明日もピンチの時とかヤバい時は声かけお願いな」
「いいよ。それくらいならやってあげるよ」
俺はイナホと少し会話して就寝の準備を始めた。昨日はお湯もらいに言ってなかったけど今日はちゃんともらったし、身体拭いたりも問題なし!
俺はベッドに寝るなりすぐに意識を手放した。
−−−−−−−−−−
今日はギースとの約束があるからまず東の広場へ向かった。
今日は曇りで太陽は見えづらいが、昨日とおんなじで広場には太陽を拝んでる人が数人。
ギースももういるみたいでとりあえずギースが終わるまで俺も見様見真似でやってみよう。
月牙鏟をおいて太陽の方を見ながら目をつむって深呼吸。
『カイン。最初は太陽を感じながら額の奥、第3の目を意識して深呼吸だよ。心を空っぽにして』
うん?イナホか?
イナホを見るとこちらを見てうなづく。
相変わらず仕草の一つひとつがカッコイイな。
俺はイナホに言われたとおりにやってみる。深呼吸しながら、心を空っぽに……
近づいてくる足音が聞こえる、目はあいてないがなんとなくギースだろうと思ったので、目を開けた。
「よぉ。もういいのか?」
「はい。大丈夫です。イナホ、この辺で待っててね。」
やっぱりギースだった。
近づいてくるようなやつギースくらいだろうって想いもあったが、なんでわかったんだろ?
ちょっと不思議だけど今はいいや。
俺とギースは広場でも少し離れた位置まで移動した。仮にも刃物だから振り回すと危ないしそういった配慮だ。
「よし。じゃあやるか。
まず基本からいくぞ。構えは流派によって違いがある。右足前の半身か、左足前の半身。
一般的に槍は左足前だが、それは槍のリーチに起因すると言われている。
軍隊で使う槍は6−4mに対し、通常槍は3.4mほどある。また突き以外もこなす槍は2.7mほど。そこから比べると残念ながら俺の銛やお前の月牙鏟はわずか2m前後。ロングソードなんかよりは長いが圧倒的に短く突きだけで勝負する武具ではない。」
「なるほど、軍隊なら確かに個対個でないから、長すぎて至近距離のデメリットを仲間同士でカバーできますもんね。」
「そうだ。おめぇのこの武器は個対個ももちろんだが、多彩な攻撃を仕掛ける魔物に対しても臨機応変に対応できらぁ。
最初から全てマスターせずに基本動作から覚えていこうか」
俺はそこから多数の攻撃パターンをギースに習った。
便宜上二手に別れてる刃物を刺股。
もう片方をコテと呼びながら覚える。
この武器はコテが刃の塊になるため重心はコテ側だ。
だから、初動の取りやすさからコテ側を体に近い方にしての右足前の構えの正中が基本の構えだ。
俺はいくつか動き方を教えてもらったから、今日は早速この動きが使えそうな魔物に早く会いたくなってきた。
「ギースさん!早く依頼行きましょう!身体に動き染み付けますね!」
俺はイナホを回収しギースと共にギルドへ向かった……楽しくなってついイナホに言われてた気功術を教えてもらうのは忘れてたから、イナホに睨まれたのは言うまでもない。
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「メイリンさん!今日の依頼お願いします!」
「うーん?今日はメイリンおやすみよー。今日のギルド依頼はー、アタシ、ソルデが対応するわぁー。」
おっと、間延びキャラ登場か。
ソルデさんはメイリンと同じような衣装の色違い、間延びした話し方とは対象的にキリッとした目元に泣きぼくろ。どことなくサバサバ系なオーラを感じる人だった。
「ソルデちゃん、今日はなんかいい依頼あるか?」
「あぁ。ギースさん。そっか。ふたりは一緒に行動してるのよねぇー?そういえば昨日メイリンから気功術の話聞いたわよぉ。難易度高めの依頼にするぅー?」
「いや、コイツもいるからできたらそんな危ない橋は渡りたくねぇ。」
「うーん、じゃあー西の森のアウルベア狩りね。最近目撃情報があって、キョウ遺跡との街道付近で馬車で見たんだってぇ。
これやってくれるぅー?」
「ちっアウルベアか。狩るやつがいないのか……じゃあ俺がやるわ」
アウルベア。顔がフクロウだが熊だ。しかもフクロウは夜目も聞く、暗いとこにはあんま行かない方がいいんだろうな。
「カイン。アウルベアは攻撃力も高い。ちゃんと準備して行かねぇと防御貫通されるから気をつけろよ。」
俺達は依頼人の情報とだいたいの目撃ポイントを聞いてさっさと向かうのだった。
補足
カインの武器ですが
西遊記の沙悟浄などが持ってる武器ですが正しくは月牙泉ではなく月牙鏟でした。
治癒師は職業名で、高位治療術師はランクみたいなもんです。
看護師って職業の中に看護部長とかがいる感じ。
わかりにくくてすいません。