プロローグ
雨の降る夕方の街並みは
いつもと変わらない雰囲気の街を
少し違った景色に変えていた…
保育園から娘と一緒に走る車は
たまたま工事渋滞を避けるため迂回したルートを走っている。
住み慣れた街の風景に
そこまでの新鮮味を出すことはないが、
夕焼けの中、雨が降る
少し不気味な雰囲気が漂っていた。
お世辞にも上手いとは言えない私の運転に娘は何も考えずにただ過ぎ去る景色を眺めているのだった…
「キツネの嫁入りってこんな天気だろうなぁ…」
そんなことを思っていると道を間違えて林道を走ることになっていた。
林道といっても、
ここは愛知県のど真ん中、
名古屋なのでしっかりとしたアスファルトに舗装された道である。
ただただ不気味なこの天気の中、
あまり慣れていない道を進む帰路に、
帰りが遅くなるなぁ。と感じてしまうのであった。
信号で止まる車の中、
バックミラーに何かが映り込んだ気がした。
「何かの動物さんかな?」
バックミラー越しに娘に語りかけても返事がない。どうやら寝入ってしまったようだ。
娘を見る目を少しそらすと、
やはり違和感のある光景が目に飛び込んできた。
「えっ?キツネ?………こんな都会にもいるんだね。」
不思議なことに、そこから目が離せなかった。
キツネが一匹ではなく、二匹、三匹と数が増え…違和感のある光景が続いてしまった…。
−−−−−−−−−−
「ふぅー… 終わったぁ。じゃあ、おさきに失礼しまーす。」
19時を過ぎた頃、俺は会社を後にして帰路についた。
今日の晩ごはんはカレーにすると言われたので、ちょっとウキウキ気分で帰る。
しかも先日の日曜日に付合せのらっきょも買ったから、今日は久々のカレーが存分に食べれることが嬉しくてならない。
上機嫌で家のマンションまで帰ってくると、カレーをたらふく食べるため、6階までダッシュで階段を駆け上がる。
「あれ?鍵空いてない…なんで?」
昨今、物騒だと言われる世の中だが、マンション生活にあまり慣れていない妻と俺はもっぱら扉に鍵をかけない生活だった。
用心でもするようになったか?
と軽い気持ちで玄関の鍵をあけて部屋に入ったが、やはりおかしい。
部屋に電気が灯ってない。
時刻は20時前だ…
ひょっとしたら娘が寝てるのかな?と考え家族3人で使っている寝室へ向かう。
「え?どういうこと?」
妻からの連絡がないかと携帯を確認するが、日曜日に撮った家族の写真以降新しいメッセージも入っていない…
え?さすがにおかしくない?
そうは思うが、妻のアスナは抜けたところのある性格である。
「まぁーどっか寄り道でもしてるんでしょ。ここでできる旦那は風呂掃除と、朝仕込んだカレーを温め直しとくかな。」
…時刻は20時30分を回った。
さ…さすがにおかしい!
どんな天然、ズボラ奥様でも、ここまで遅くなるなら連絡するよね?!
何かに巻き込まれたんじゃ?
と、とりあえず保育園と警察に連絡をしないと…
保育園は…誰も電話出ない…か。
そりゃあそうか。
じゃあやっぱ警察か…
「あっあの…夜分すいません…
山田と申しますが…
妻とムスメが帰って来なくて、
今日、何か大きな事故とか起こってませんか?ない?そ、そうですか…
捜索願い?あっいえ、ちょっと実家帰ってるだけかもしれないんで。また連絡します。」
こ、こんな電話したことないから焦るわ…
えぇ、マジどうしたん?!
なんか俺やったか?
今もうキャバクラとかも行ってないし、実家帰られるようなこともしてないよ…
ちょっと、次は実家のお母さん…
「あっ、あの…夜分すいません…
アスナとニイナそっちに行ってませんか?えぇ。はい。あっそうですよね…
あっいえいえちょっとコンビニいってるだけかもしれないんで…
また連絡してみます。
はい、あっいえいえ、別に何も悪いことしてませんよぉー。
はい。また何かあったら連絡しますね。
あっ。はい。おやすみなさい。」
ヤバい。八方塞がり…
えっ?なんで?どうしたん?
前、合コン見つかったときですら置き手紙くらいしてたのに…なんなん!?マジで…
なんか逆にイライラしてくるわ…
連絡よこせよっ。あぁぁー…もぉっ……。
いても立ってもいられない中、どうすることもできず、ソワソワ家の中で、待つがさすがに23時を過ぎた時点で考えるのを止めた。
「あぁーもぉーいいわ。なんやねん!?
俺がなにしたんや!?」
考えればイライラもするし、
今日は酒を飲んで寝ることにした。
明日になれば友達の家に泊まってるならそれはそれでなにかアクションあるでしょう。もういいや…。
−−−−−−−−−−
眠れぬ夜となったが、次の日の朝になっても連絡はなかった…
とりあえず仕事には行ってソワソワしながら何度も携帯を確認する。
昼休憩の時間に同僚から、
「山田さんなんか面白いことでもあったんですか?今日、携帯ずっと見てますね?」
「いやいや、ちょっとさぁー……妻が雲隠れしたんよね。」
「えっ?まっまたですか?今回は何したんです?浮気とかバレちゃいました?」
「いや、なっんもしてない!マジで!
なんか誤解招くようなこともしてないっ!昨日一晩中メールチェックもしたし!
完全潔白!」
「あははは。この前、フリーメールのアドレスをPCからチェックされたって言ってましたもんね」
「いやいや、笑い事じゃないし、愛しのムスメもたぶん妻と一緒やからマジで連絡して欲しいわ…」
「実家じゃないんですか?」
「連絡したけど帰ってないって…友達の家かと思うけど、着替えとかもないから、
今日、服が減ってないかチェックして対応考えるよ…」
「あはは。大変ですねぇ」
…気持ちはソワソワするものの、仕事を早めに切り上げて帰宅。
ただ、家には誰かが入った形跡もない。
でも、妻のママ友さんの家とかなら行っててもなんとかなる可能性もあるから、明日ちょっと仕事休んで保育園連絡とか色々してみようかな…。
今日は、とりあえず現実逃避して、過ごそ…。
あー…考えるの止めよっと…
−−−−−−−−−−
ダメだ。
今日も朝なのになんの連絡も来てない。
もう今日は仕事休みにして、ちゃんと調べる日にする。
まずは…予定通り保育園に連絡からかな…
朝のお見送りの時間を外して10時頃。
保育園へ電話…
「あっおはようございます。あの、山田ニイナの父です。
あ、えっ?無断でお休み?!
えっ?あ。す、すいません。
ちょっ、ちょっと帰省してるみたいで、
あの…すいません。
えっとー当面休みがちになるかもですが、あっはい。すいません…」
…え?なんで?
なんで保育園もいないの?
どうなってんの?
ちょっと、と、とりあえず公園行ってみよっかな。どこかでまずは見つけ出す。なんとか、なんとかして…
保育園から家までのルートで、よく行ってる近所の公園を6個と、近くの神社とをループして確認してみよっかな…
絶対、なんとかして見つけるからっ!
−−−−−−−−−−
と思ってはいたものの、どこにもいない…
今はピックアップしたポイントをループして7周目まで回って、家の裏にある神社の境内にいる。
時刻は15時をまわったところ、
9月の昼間は真夏と変わらなず暑い、
残暑の残る昼下りだった…
どうして?
いや、というよりどうしたらいいの?
ヒントくらい出すべきじゃない?
なんで? なんでこんななった?!
あーもー…………
悲惨な思考回路の中、
どうすべきかの判断もできず、
まさに藁にでもすがりたい気分だった。
ただ実際、海で藁にすがりついても一緒に沈むのが関の山だが…
そんなことを考えているとふと、
自分が神社にいることに気がついた…
あっ…神頼みしてみようかな…
"お百度参り。"
お百度参りとは、神仏に祈願する目的で、同じ神社仏閣に百度参拝することをいう。
何度も繰り返しお参りすることによって、心願が成就するといわれている。
しっかりやれば願いが叶うって言うし…
とりあえず、ダメで元々…
でも今はホントにすがりたいのでっ!
そんな気持ちで妻とムスメと会うことを意識して、お百度参りをするのであった。
−−−−−−−−−−
夕焼けの眩しく…
怪しく光るその境内に…
ひたすら歩く独りの男…
その声に出す願いは
「どうか…どうか…
妻とムスメに会わせてください」
という単純なもの。
この無知なるモノは
ココが…
どういう"トコロ"か知っているのだろうか…
イマが…
どういう"トキ"か知っているのだろうか…
ココは稲荷神の座すトコロ。
トキは逢魔が時。
他界とこの世を繋ぐ時間…
交わることのない2つの世界の扉がひらく
−−−−−−−−−−
何度目だろうか…
もう百回以上来ている筈だ…
数時間前、
ゲーセンで一万円札を100円に交換して、
そのすべてを賽銭箱に入れきって…
元々財布にあった小銭も全て注ぎ込んだ…
逆に宮司さんに迷惑をかけているような賽銭の量になったか、俺の想いが質量になったと考えてもらいたい…
あとズボンのポケットに入っていた
500円玉が残り1枚…
最後の御参りさせてください。
俺は神社の玄関、
一ノ鳥居の前で深々と一礼し、
手水舎へ。
両手を清め、口をすすぎ…
もう何度も手を拭いたせいでビショビショに濡れたハンカチで拭い、
ニノ鳥居へ。
ニノ鳥居でも一礼して内に入ると、
今までと違う、違和感があった…
空気が違う。
なにか張り詰めたような、
背中を何かが這うような気がして、
眉間の奥が熱くなる…
あ…あたまが…あ…熱い…
な…なんだ……
今までこんなことなかった……
俺は突然の身体の変化に頭を抱えてうずくまる。頭の熱は次第に頭痛にも繋がり、わけのわからない状態になり、しばらく動けなくなってしまった…
「パパ…」
えっ?今確かに妻の声がした…
頭痛の痛みをこらえ頭をあげると、
その目に飛び込んだ光景に目を疑った…
さっきまで神社の境内にいたのに顔をあげると、神社は住宅地の真ん中にあった神社は、完全に森の中の神社に変わっていた。
しかも…少し…
キラキラとした世界になっている…
目が疲れてるのかと目をこすりながら辺りを見回すと…
そこに妻がいた…
目を大きく見開きながら…
涙をこぼしていた。
え?あ?え?
どこから聞こうか、何がどうなっているのか…既に頭はパニックだった…
俺は口をパクパクしながら泣きながら抱きついてくる妻を受け止めた。
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