6 エリクサーの材料集め?
主人公最強無双という名の、ギャグが始まってしまう……
エーテルは、霊物と呼ばれる実体のない物質で、手で直接触れることができない。
地上に存在しないため、絶対に手に入らないものだが、宇宙空間に行けばいくらでも手に入れることができる。
ということで、空に向かってジャンプした俺は、そのまま第二宇宙速度を突破して、宇宙空間に到着した。
「翼がなくても何とかなるもんだな」
黄金竜時代なら、翼を使って宇宙まで来ていたが、人間になっても全力でジャンプすれば、普通に来ることができた。
そのままエーテルを拾い集めて、目標の量を即座に回収。
「ありゃ、目が冷たい?少し凍り付いてないか?」
おかしなことに、宇宙空間にいるだけなのに、なぜか目が冷たくなってしまった。
黄金竜の体だったら、宇宙空間で目を開けていても問題なかったのに、人間になった体は、ドラゴンの時に比べて弱体化しているようだ。
「あと、息苦しい?」
これも黄金竜時代であれば、宇宙空間で呼吸する必要がなかった。
なのに人間の体になったで、酸素がなくて少し息苦しくなってしまった。
息苦しいだけで、窒息するほど苦しくないが、あまり宇宙に長居したくないとは感じる。
「ま、いいか。目的のエーテルも手に入ったし、さっさと星に帰ろう」
長居するつもりもないので、俺はそのまま星に帰ることにした。
帰ることにしたが、真空の只中をプカプカ浮かんで、進む方向を変えることができない。
黄金竜時代であれば、でも翼を動かせば真空でも目的の方向に移動することができ、宇宙遊泳を簡単にできた。
今の体では、それも無理なようだ。
当たり前だが、宇宙空間には足場になる場所がなく、物を蹴った反動で、星に戻ることもできない。
「詰んだ?」
一瞬そんな言葉が脳裏に浮かんだが、すぐに解決方法を思いつく。
「ここは宇宙空間だから、ちょっと魔法を使っても大丈夫だろう」
地上で使えば星の存続に関わりそうな危機を招くが、宇宙空間では遠慮なく使っていいだろう。
ここは何もない空間が広がるだけなので、惑星級の天災が起こったとしても、宇宙レベルで見れば、何も起きてないのと一緒だ。
「次元魔法、ディメンションウォール」
次元の壁を作りだして、それを足場にして蹴る。
蹴った反動で、俺の体は星の方向に向かって進み始めた。
これで無事に星に帰ることができるな。
『イデーッ、小指をぶつけた!』
なお、俺の使った次元魔法の壁が、上位神のいるボッチ空間にまで届いてしまったようだ。
上位神の悶絶する声が聞こえたが、俺は何もしていない。
上位神が次元の壁に小指をぶつけた瞬間、俺の作り出した壁が木っ端微塵に消え去ったので、俺が犯人とはバレてないはずだ。
証拠になる物は、何も残っていない。
俺の無実は、確定的に明らかだ。
そのまま何食わぬ顔をして、星の大気圏へ突入した。
△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇
「私の名はデミウルゴス。
魔界を統べる強大な悪魔の1柱であり、この度魔界と地上をつなぐゲートを作り出すことで、地上への侵攻を開始することにしました。
さあ我が下僕の悪魔たちよ、地上の人間を蹂躙し、ここを悪魔の第2の故郷へ作り替えるのです」
「「「ウオオオーッ」」」
チュドーン!
「無事到着っと」
俺は大気圏突入を果たして、無事に星に帰ってきた。
大気圏突入中に全身が赤く燃えだしてちょっと驚いたが、特に熱いと感じなかったので、問題ない。
地上に到着――というかほぼ墜落だが――した際に、巨大なクレーターが出来上がり、吹き飛んだ土砂が濛々と辺りに立ち込めたが、俺は無傷なので無問題だ。
「わ、私は大悪魔……ま、魔界の……」
俺が作った巨大クレーターの中で、何か変な生き物がピクピク痙攣していたが、俺はそこからスッと視線を外した。
「世は事もなし」
瀕死の大悪魔がピクピクしているのは、俺の見間違えだ。
きっと、そうに違いない。
俺は何食わぬ顔をして、そのままダッシュで走り去ることにした。
走る先々で、黒い悪魔の死体が転がりまくっていたが、一体何があったんだろうな?
オレ、ワッカンネェー。
△ ◇ △ ◇ △ ◇ △ ◇
その後俺は、星の各地にある雑草を引き抜いて、エリクサーの材料を集めていった。
「我は氷雪大魔神。この世界を永遠の凍土にすることで、永久の眠りを……」
ドンッ!
世界最高峰の雪山の山頂に生えている霊草を毟りに来た時、何かぶつかった気がするが、気のせいだろう。
原形を留めていない何かが、近くに転がっているが、気のせいだ。
目の錯覚だ。
「我は地獄より蘇りし炎帝。世界を灼熱の地獄へと作り変え……」
ドンッ!
火山の河口から行ける、大地の底にある溶岩湖に突入した際も、何かにぶつかった。
「それより、ここに生えてる霊草を毟らないとな。エリクサーの材料もだいぶ集まってきたから、俺が戻るまで死ぬんじゃないぞ、リーリャ」
今の俺は、妹のことを第一に行動しているお兄ちゃんなのだ。
何が何でも、妹のことを救ってみせる。
近くに、ドロドロの溶岩とは違う色をした何かが転がっているが、それは決して炎帝とか名乗っていた存在の、なれの果てではない。
原形を留めていないから、セーフだ。
元の姿が何か確認しようがないので、俺の有罪を示す物証になることはない。
俺は悪くない。
「でも、念のために溶岩湖の中に沈めておくか」
原形を留めていない何かを手で触るのはバッチイが、使える道具を持っていないので、仕方なく自分の手で、原形を留めていない何かを溶岩湖の中に捨てておいた。
そんな作業を終えると、額からなぜか大量の汗が流れた。
腕で拭っておく。
これは溶岩湖が熱いからであって、決して冷や汗でも、脂汗でもない。
「いやー、世の中って平和だなー」
少なくとも、俺の中にある黄金竜の感覚では、この程度の出来事は平和の部類だ。
ただ、もう片方の俺である、元日本人の俺が、何か壮絶な絶叫を上げまくっている気がする。
『魔王軍の幹部とか、ラスボス手前級の連中をひき殺しておいて、どこが平和なんだ!』
「なーに、気にするな」
だが、俺の内から聞こえてくる声を黙らせるために、俺は笑顔で笑っておいた。